孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ペルー  犠牲者が増加する前大統領失脚への抗議行動 分断社会を象徴する“恥の壁”

2023-01-10 22:36:14 | ラテンアメリカ
(【2016年1月4日 カラパイア】 首都リマ郊外で富裕層居住区への貧困層流入を阻止する“恥の壁”)

【犠牲者が増加する前大統領失脚への抗議行動】
明日から旅行(南インド・ケララ州)に出かけるため、その準備で手一杯。
気になった記事を簡単に。

南米ペルーでの政変・混乱は12月22日ブログ“ペルー 大統領罷免・拘束と混乱 その政変を批判するメキシコ大統領の反民主主義的動き”で取り上げました。

12月7日、急進左派のカスティジョ大統領の弾劾決議案が賛成多数で可決され、大統領は罷免され、同じく左派政権のメキシコへの亡命途上で身柄を拘束されましたが、カスティジョ氏支持勢力の抗議で混乱が起きています。
年が明けても依然として混乱は収まっていないようです。

****ペルー抗議デモ、死者39人に 「警察官が銃撃」目撃者も****
南米ペルーで続く抗議デモで、ペルーの地元当局などは9日、南部フリアカでデモ隊と警官隊が衝突し、少なくとも17人が死亡、68人が負傷したと明らかにした。ロイター通信が報じた。

デモはカスティジョ前大統領の罷免と拘束に反発した支持者らが2022年12月から断続的に実施しており、死者数はこれで計39人になった。

ロイターの取材に応じた目撃者によると、路上でデモ隊が警察官らに投石した際、銃声が響き、煙が立ち上ったという。地元の保健当局は地元メディアに対し、遺体の一部に銃撃による傷があったことを明らかにした。フリアカの病院の救命担当者はロイターの取材に「中央政府に訴えたい。なぜこれほどの死者を出すことができるのか」と語った。

ペルーの国家警察は22年12月7日、憲法に反して議会を解散させようとしたなどとして、議会に罷免されたカスティジョ氏を反逆などの容疑で拘束。これに対する抗議デモが全土に広まった。

後任のボルアルテ政権は、沈静化を図るためデモ隊が求める大統領選と総選挙の前倒しを表明。同月14日には全土を対象にした30日間の非常事態宣言も発令していた。【1月10日 毎日】
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1日で“17人が死亡、68人が負傷”というのは尋常ではありません。
よほど過激な抗議行動になっているのか、あるいは、よほど過激な鎮圧行動になっているのか・・・

国の基幹産業である観光業(マチュピチュやナスカなど)にも深刻な影響が出ています。

****新政権発足1か月のペルーで混乱続く…抗議デモで27人死亡、観光・経済にも影響****
南米ペルーで、急進左派のペドロ・カスティジョ前大統領が失脚し、新政権が発足してから、7日で1か月となった。新たに就任したディナ・ボルアルテ大統領や国会運営への抗議デモで少なくとも27人が死亡するなど混乱が続き、経済や観光にも影響が出ている。

デモはカスティジョ氏の失脚直後から起き、略奪や放火など一部で暴徒化した。ペルー政府は昨年12月14日、全土に30日間の緊急事態宣言を発令したが収束せず、警官隊と衝突するなどしてデモ隊に死者が出た。正式な大統領選を経ずに副大統領だったボルアルテ氏が大統領に昇格したことへの不満も高まった。

ペルー国会は同20日、大統領選を2年前倒しし、2024年4月に実施するための憲法改正法案を可決。通常国会で3分の2以上の賛成を得られれば正式に前倒しが決まるが、抗議活動は収まる兆しがない。
 
ボルアルテ氏は5日の記者会見で「対立をやめ、希望を持って望ましい国を目指そう」とデモの中止を呼びかけたが、翌6日も南部を中心に各地でデモが起き、ペルー南部の空港はデモ隊と警察の衝突で閉鎖された。

長引く混乱などの影響でペルー経済は圧迫され、アレックス・コントレラス経済・財務相は5日の記者会見で「約100億ソル(約3466億円)の影響」が出ていると明らかにした。

特に打撃を受けているのは観光業だ。世界遺産・マチュピチュへの列車は運休し、政府関係者は地元メディアに、今年1〜6月に予約があった観光客のうち、約60%がキャンセルしたと語った。ホテル・レストラン・関連産業協会によると、損失は昨年12月だけで5億ソル(約173億円)に上ったという。

急進左派のカスティジョ氏の罷免ひめんと拘束について、いずれも左派政権のメキシコ、アルゼンチン、コロンビア、ボリビアは共同声明で「深い懸念」を示すなど、ボルアルテ政権は周辺国との関係にも苦慮している。【1月8日 読売】
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【所得格差・分断を象徴する「恥の壁」】
2021年の大統領選挙戦当時“無名の教師”だった急進左派カスティジョ前大統領を支持して一気に大統領へ押し上げたのは農村・山間部の低所得層だったと推測されます。

これに対抗したのが中道右派のケイコ・フジモリ氏でした。

****ペルーでフジモリ氏敗北 左派政権拡大する中南米****
急進左派の教師カスティージョ候補と、アルベルト・フジモリ大統領の娘で中道右派のケイコ・フジモリ候補との間で戦われた、ペルー大統領選挙の決選投票は、カスティージョが僅か数万票差という僅差で制したようだ。

ケイコ側は不正があったと主張し、票の数え直しを要求したが、覆ることはないだろう。ケイコは、「3度目の正直」となったはずのチャンスを逸した可能性が高い。

ケイコは、カスティージョを共産主義者と非難しイデオロギー的な論争を挑み、父親の宿敵であったノーベル賞作家ヴァルガス・リョサや経済界、多くの既存政党を味方につけたが、確保できたのはリマを中心とする都市部の票であった。

しかし、ペルーの人口の3分の2は農村・山間部の低所得層が中心であり、政治論争に強い関心は無い。

これらの地域では、既成の政治家ではないカスティージョによる無料のワクチン接種等のパンデミック対策や失業対策・貧困対策の強調、ケイコは腐敗しているとのキャンペーンが説得力を持った。(後略)【2021年6月22日】
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上記のようなペルー国民の所得格差・分断を象徴するのが首都リマで富裕層と貧困層の居住地区を隔てる「恥の壁」と呼ばれるものです。

****ペルー首都、「恥の壁」が隔てる貧困層 長さ約10キロ、分断社会を象徴 向こう側は高級住宅、大統領選の対立構図も映す****
(中略)首都リマの南東の丘に約10キロに渡って敷設された「壁」は、ペルーの分断社会の象徴となっている。(リマ 中村将)

小高い丘の上から壁の両側を見下ろすと、まったく違う風景が見える。

貧困層が暮らすパンプローナ・アルタ地区はトタン屋根にベニヤ板のような壁、窓がない家が密集する。道はあるが、舗装されていないため黄色い砂ぼこりが常に舞っている。水はタンク。電気も十分に通っていない。

壁の反対側は造成が進む。丘の麓のラス・カスアリーナス地区は大きな一軒家や大型マンションが立ち並び、プールや大型競技場の緑の芝生が映える高級住宅地。中間所得者層にはまったく手が届かない、あこがれの街のひとつだ。

貧困層の住民の先祖は山から仕事を求めて都市部に下りてきた。丘に自分たちの住み家や道路を作り、定住を始めた。ほとんどの住民が土地の所有権を持たない。

壁は5年ほど前に反対側から敷設された。理由は、貧困層が地域に入ってきて、犯罪が起きる可能性があるからだ。貧困層の住民らはこの壁を「恥の壁」と呼ぶ。「大きな差別を感じる。私たちが先に住んでいたのに…」。2児の母、ダナエ・ビダルテさん(23)はそう話す。(後略)【2016年6月8日 産経】
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もっとも、2016年の大統領選挙では、壁の向こう側の富裕層が支持するクチンスキ候補に対し、ケイコ・フジモリ氏は貧困層対策をアピールして、貧困地域に出向き、住民らの要望を聞き、貧困層の支持を得ていました。(批判者からすればポピュリスト的な)その政治姿勢は父親のフジモリ元大統領と共通しています。

2021年選挙におけるケイコ・フジモリ氏より更に貧困対策重視を掲げる急進左派カスティジョ前大統領の登場で、貧困層の支持がどうなっているのかは知りません。

****ペルー憲法裁、「恥の壁」撤去命令 富裕層と貧困層を分断****
ペルーの憲法裁判所は29日、首都リマで富裕層と貧困層の居住地区を隔てる「恥の壁」が「差別」に当たるとして180日以内の撤去を命じた。

壁は全長10キロ。高い所は2メートルを超え、上部には有刺鉄線が取り付けられている。2018年に市民の一人が撤去を求めて裁判を起こしていた。

壁が設置されたのは1980年代。ペルーでテロ組織と見なされている左翼ゲリラ「センデロ・ルミノソ(輝く道)」が富裕層が住むラモリーナ地区に侵入するのを防ぐのが目的とされていた。その後、同組織が衰退したにもかかわらず、2000年代に土地の不法占拠を防ぐ名目で拡張された。

ペルーでは、1980年代から90年代にかけてアンデス地域からリマ郊外の丘陵地帯に大勢が移り住んだ。センデロ・ルミノソの暴力から逃れて住み着いた人も多数いれば、仕事を求めて流れ着いた人もいた。

グスタボ・グティエレス判事は現地ラジオRPPで、「ラモリーナ地区と(貧困層が多い)ビジャマリアデルトリウンフォ地区を隔てる壁は取り壊さなければならないと全員一致で判断した」と説明。

「これは差別的な壁だ。ペルー国民を社会階層で分断することがあってはならない。容認できず、もはや世界のどこにもない代物だ」と述べた。 【12月31日 AFP】
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貧困層の流入を阻止する「壁」を富裕層が支持する社会・・・・互いの立ち場へ配慮したまっとうな民主主義的議論が成立するような社会ではないようにも見えます。そこでは政治対立も暴力を辞さない過激なものとなりやすいとも想像できます。

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