孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  総選挙を前に、タクシン派政党の解党の可能性も 深南部和平交渉にマハティール首相が協力姿勢

2018-10-28 21:49:05 | 東南アジア

(「独裁に反対するラップ」のメンバーらによるミュージックビデオの1場面=ユーチューブから【10月28日 朝日】)

タクシン派政党の解党も視野に調査開始
10月14日ブログ「タイ 来年2月“予定”の総選挙をめぐり、各政党の動きも動きも加速」でも取り上げたように、タイでは“一応”、来年2月14日に民政復帰の総選挙が予定はされており、そこに向けた動きも始まっています。

ただ、軍事政権にとって好ましくない状況(例えば目の敵にしているタクシン派が復権しそうだといった状況)になれば、これまで同様、先送りにはなるでしょうが。

タイ社会の雰囲気としては、プラユット暫定首相個人に対しては、社会の安定を取り戻したとして、一定の国民支持はまだありますが、不自由な軍事政権がずるずると続くことに関してはタイ国民もうんざりしているといったところではないでしょうか。

****「議会は兵士の遊び場」 タイで軍政批判ラップ大ヒット****
タイの軍事政権を批判する内容のラップが大ヒットしている。22日にミュージックビデオがユーチューブにアップされると、視聴回数は28日午後に1300万回を超えた。

当局は歌詞が「国への中傷であり、国家にダメージを与えている」と批判。法令違反にあたらないか調べ始めた。
 
制作したのは「独裁に反対するラップ」と名乗るグループ。10人のラップ歌手が代わるがわる「私の国の議会は兵士たちの遊び場」「私の国は、あなたののどに銃を向ける」「自由があるというが、選ぶ権利を与えない」「警察は法律を、人々を脅すために使う」などと訴える。
 
歌詞の内容に加え、1976年に軍部が民主化運動を激しく弾圧した事件を想起させる映像も含まれ、当局を刺激したとみられる。

参加した歌手の1人は地元メディアに、「我々はアーティストとして社会の真実を映したい。多くの人が言えないことを言葉で表したい」と話した。

タイでは2014年5月のクーデター以降、4年以上にわたり軍政が続いている。【10月28日 朝日】
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「私の国の議会は兵士たちの遊び場」云々の歌詞が、今まで“お咎めなし”だったことが大きなニュースであり、おそらく今後は、社会秩序を乱したとか、不敬罪に相当するとか、“しかるべく”処分されるのでしょう。

選挙の陰の主役でもあるタクシン元首相は香港に滞在しているようですが、政権奪還に強い自信を示したとか。

****亡命タイ元首相、政権奪還に自信 軍政に「民主主義ない」****
亡命中のタイのタクシン元首相は18日、滞在先の香港で共同通信の単独インタビューに応じた。

来年実施予定の総選挙でタクシン派のタイ貢献党を柱とする反軍事政権勢力が「500議席中300を獲得すると信じている」と語り、政権奪還に強い自信を示した。
 
タイでは軍がタクシン派を追放した2014年のクーデター以降、プラユット暫定首相率いる軍政が実権を掌握している。

タクシン氏は、軍政下で「真の民主主義は期待できない」と主張。政権奪還後の首相復帰は「望んでいない」としながらも「国民が必要とし、私が国の役に立てるなら、やれることはやる」と含みを持たせた。【10月18日 共同】
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この発言は軍事政権の逆鱗に触れたようです。

プラウィット副首相兼国防相は22日、タクシン元首相を支持するタイ貢献党に対するタクシン氏の影響力を調査するよう選挙管理委員会に要請。

国外に住む者がタイ政党を支配することを禁じた政党法に触れる可能性があるとの理由で、違反が認定されれば、総選挙を前にタイ貢献党は解党される恐れが出てきました。

****タイ軍政、タクシン派解党も 総選挙控え「違法性」調査 首相の続投を画策****
タイの軍事政権が、来年予定される総選挙を前に、影響力維持に向けた動きを加速させている。

プラユット首相の続投を目指す親軍政の政党が始動したほか、敵対するタクシン元首相を支持するタイ貢献党の調査に選挙管理委員会が着手。解党に追い込む恐れもある。
 
プラユット氏は陸軍司令官だった2014年5月、クーデターを主導してタクシン派政権を倒し、選挙を経ることなく4年以上にわたって首相の座にある。軍政は民政移管に向けた総選挙を「来年2~5月に行う」と明言している。
 
プラユット氏は、軍政の閣僚らが9月に旗揚げした親軍政党の「国民国家の力党」を支持基盤に、総選挙後の続投を画策している。

クーデター以降、他党には会員制交流サイト(SNS)などによる政治活動を禁じる一方で、自らは今月からフェイスブックなどで発信を始めた。不公平との批判にも「人々の声を聞くためだ」と意に介さない。
 
しかし、その行く手を阻みかねない存在がタクシン派だ。タイ貢献党はタクシン氏が設立した政党(解党)が前身。貧困層を手厚く支援した同氏の実績から地方の農民に絶大な人気があり、総選挙でも最多議席を獲得するとみられている。

国民国家の力党は、タイ貢献党の政治家を引き抜こうとしているが、思うように進んでいない。
 
そんな中、国外逃亡中のタクシン氏が今月、一部メディアに対し、タイ貢献党を柱とする反軍政勢力が総選挙で「500議席中300を獲得すると信じている」などと明言。

これを受け選管幹部が23日、「(国外に住む者が政党を支配することを禁じた)政党法に違反した場合は解党される」と述べ、タクシン氏とタイ貢献党との関係について調査を始めたことを明らかにした。

地元メディアは軍政ナンバー2のプラウィット副首相が調査を命じたと伝えており、タクシン氏の実質的な支配が認定されれば、総選挙を前に同党が解党される恐れがある。

タイ貢献党側は「タクシン氏と政党は関係ない」と猛反発するが、解党に備えて党員の受け皿となる「バックアップ政党」の準備を進めている。

元幹部の一人は「(軍政は親軍政党を応援するため)ライバルであるタイ貢献党を排除したいのだろう」と批判した。【10月27日 西日本】
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最大政党である「タイ貢献党」の解体ということになれば、与党を凌駕するような勢いがあった最大野党「カンボジア救国党」を解体し、その指導者を追放・逮捕、結果的に総選挙で与党が全議席を独占することにもなったカンボジアのフン・セン政権の後を追うことにもなります。

まあ、解党後の「バックアップ政党」が認められれば、カンボジアよりはずいぶんましかもしれませんが。
それにしても、民政復帰のための総選挙の看板に大きな傷がつくことにも。

なお、解党命令、新党に鞍替えという流れは、タクシン派はこれまでも経験していますので、一定に心の準備はあるでしょう。

軍事クーデター後、2007年7月29日に「タイ愛国党」(タクシン政権与党)が解党を命じられると、所属議員が大挙して弱小政党「国民の力党」に入党し、「国民の力党」が事実上タクシン派の政党となりました。

その「国民の力党」も2008年12月2日、選挙中の違法行為を理由にタイ憲法裁判所によって解党を命じられると、12月3日、その所属議員が大挙して「タイ貢献党」に参加・・・・ということで、今のタクシン派「タイ貢献党」があります。

しかしながら、タクシン元首相もインラック前首相も国外にある状況で、「タイ貢献党」も選挙前に解体となると、やはり影響は小さくないでしょう。

そのタイ貢献党では新指導者が選出されたようです。

****イ貢献党首にウィロート氏 タクシン派、カリスマ欠く****
タイのタクシン元首相派政党、タイ貢献党は28日、党大会を開き、ウィロート・パオイン党首代行を党首に選出した。

タクシン氏は亡命中で、同派を率いた妹のインラック前首相も昨年8月、職務怠慢の罪で最高裁判決が出る直前に国外に逃れた。タイ貢献党は「カリスマ」を欠いたまま、来年2月に予定される総選挙に挑む。
 
ウィロート氏は元警察官で、タクシン氏と関係が深い元議員。選出後、記者団に「総選挙に向けて重大な責任を負うことになった」と意気込みを語った。【10月28日 共同】
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タイ深南部の和平交渉にマレーシア・マハティール首相が協力姿勢

【10月23日 日経】

タイ関連では、総選挙関係以外に、久しぶりにいわゆる「タイ深南部」問題に関するニュースが。
マレーシア首相に復帰したマハティール氏が仲介に意欲を示しているようです。

****タイ深南部****
マレーシアと国境を接するタイ深南部(ナラティワート県、ヤラー県、パタニー県の3県とソンクラー県の一部)には、もともとイスラム教徒の小王国があったが、1902年にタイに併合された。

現在も住民の大半はマレー語方言を話すイスラム教徒で、タイ語を話せない人も多い。

タイ語、仏教が中心のタイでは異質な地域で、行政と住民の意思疎通が不足し、インフラ整備、保健衛生などはタイ国内で最低レベルにとどまっている。

深南部のマレー系イスラム教徒住民によるタイからの分離独立運動は断続的に続き、2001年から武装闘争が本格化。(後略)【2015年9月18日 newsclip】
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このタイ深南部では、これまでに少なくとも7000人が爆弾テロなどに巻き込まれて犠牲になっているとのこと。
あまり国際的に大きく取り上げられることはありませんが、7000人というと非常に深刻な紛争でもあります。

最近、この関係を取り上げたのは2017年5月19日ブログ「タイ深南部 分離・独立紛争が続くタイ深南部で日本人らしさで信頼を構築し紛争を仲裁する日本人女性」ですが、軍事政権が和平交渉を進めているということもあってか、ひと頃に比べるとテロ報道も少なくなっているような気もします。

ただ、テロがなくなった訳でもなく、今年5月に大規模なテロも報じられています。

****タイ南部で20個超の爆発物起爆、イスラム武装勢力による攻撃か****
タイ南部の各地で、反政府イスラム武装勢力が20日夜にかけて計20以上の手製爆発物を起爆させた。同国軍が21日、明らかにした。一連の攻撃は、軍事政権が進展していると主張する武装勢力との和平交渉に水を差すものとなった。
 
仏教徒が多数を占める同国では、14年前からマレーシアと国境を接する南部地域で、マレー系武装勢力と政府との衝突が続いており、これまでに7000人近くが死亡している。
 
20日にはイスラム教徒が多い4県の各地で、武装勢力とみられる者らが現金自動預払機14か所や電柱2か所をはじめ、その他公共スペースや治安上の拠点に対し、ここ数か月で最大規模となる攻撃を仕掛けた。

 一連の爆発による死者はいなかったが、軍事政権による和平交渉の努力に真っ向から挑む姿勢を示した形だ。
 
攻撃は主に、イスラム教の断食月「ラマダン」の最中に頻発。今年のラマダンも先週始まっている。【5月21日 AFP】
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昔は、警官・教員・仏教徒の首を切り落とすといった類の襲撃が多発していましたので、ATM爆破で死者はなし・・・という話なら、“政治的アピール”の類でしょう。

タイ深南部とマレーシアは陸続きです。
2002年にマレーシアの東海岸コタバルを旅行した際に、タイ深南部につながるタイ国境近くまで行ったことがあります。当時は、タイ深南部の紛争のことはまったく知らなかったのですが、やけに警戒が厳重なのが印象に残りました。

そうした地理的なこともあって、マレーシアのマハティール首相とタイ軍事政権のプラユット暫定首相が24日、タイの首都バンコクで会談し、マレーシアに接するタイ最南部で活動を続けるイスラム武装勢力とタイ政府との和平に向け、協力していくことで一致そうです。イスラム教国家マレーシアはタイのイスラム勢力に顔が利くという面もあるようです。

****タイ最南部和平前進に期待 マハティール氏訪タイへ  イスラム武装勢力との間を仲介 ****
タイからの分離独立を掲げるイスラム武装勢力が同国最南部で15年近くもテロを繰り返している問題で、再登板したマレーシアのマハティール首相による和平仲介への期待が高まっている。

マハティール首相は再登板後初めて24日からタイを公式訪問する。タイのプラユット暫定首相との間で和平対話の推進を確認するとみられる。

武装勢力が活動するのはパタニなど3県を中心とするタイ最南部。住民の8割以上をイスラム教徒が占める。2004年に始まった武装闘争で18年9月までに約6900人が死亡、1万3500人が負傷したとされる。

現地では幹線道路の要所要所などに検問所が配置され、武装したタイ軍の兵士が住民や車両に目を光らせる。イスラム教徒の住民の間には「犯罪者扱い」との不満や移動の自由が制約されているとの反発がくすぶる。

国全体では多数派である仏教徒を主体とする軍が駐留し、イスラム教徒を監視する構図だ。

大きな被害を出しながらもタイ政府が内政問題と位置づけてきたこともあって、国際社会の関心は低い。
タイの軍事政権は14年の発足後、武装勢力側を代表しているとされる組織「マラ・パタニ」と和平対話を続けてきたが、和平への期待が膨らむような目に見える成果は限られる。

これまでの和平対話で当面最大の目標とされてきたのは、最南部の一部地域を双方が武力を行使しないモデル地区「セーフティーゾーン(安全地帯)」と定め、相互の信頼醸成と和平の進展につなげる案だった。交渉の中では具体的な地域の名前も挙がっていた。

交渉内容に詳しい関係者によると、市場、学校、病院などをテロの対象から外す「セーフ・パブリック・スペース」なども議論してきたが、足元では膠着状態に陥っている。

武装勢力側が合意文書の交換を求めたのに対し、武装勢力を対等な存在と認めたくないタイ政府が署名に消極的だったことなどが背景にある。

「マハティール氏自身の強い関与を期待している。武装勢力側の強硬派もマハティール氏には一目置いている」。先の関係者はこう話す。

イスラム教徒が多いマレーシアはこれまでも和平対話の仲介役を務めてきたが、地域の政治リーダーとして経験が豊富なマハティール氏の再登板を事態打開の契機にしたいと考える関係者は多い。

タイの軍政側にも和平対話を前進させたい事情がある。軍政は19年2月にも、民政復帰に道を開く総選挙を実施するとしている。総選挙後の国政に影響力を温存したい軍政には、最南部問題で分かりやすい成果を国民にアピールしたいとの思惑がある。

タイとマレーシアの両国首脳は24日、タイの首都バンコクで会談し、その後に共同記者会見を予定する。共同文書は経済協力の強化などが中心になりそうだが、タイ最南部問題への言及からも目が離せない。【10月23日 日経】
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選挙を前にしての国民アピールが狙いであったとしても、和平が前進するなら結構なことです。
モデル地区「セーフティーゾーン(安全地帯)」に「セーフ・パブリック・スペース」というのも、興味深い内容です。

治安が安定したら、深南部への観光旅行もしてみたいところです。


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