孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  結党100周年 習近平氏を「核心」とする長期支配体制の強化 ネット上には現代の紅衛兵も

2021-06-09 22:55:04 | 中国

(鎌とつちのモニュメント付近で写真を撮る人々。中国・延安近郊で(2021年5月11日撮影)【5月30日 AFP】)

 

【中国共産党結党100周年 毛沢東・文革への回帰の動きは、習近平主席を「核心」とする体制強化とも重複】

中国で習近平国家主席への権力集中が進み、3期目続投に向けた地ならしも・・・という話は常々耳にするところです。

 

****習氏の長期支配へ新規則、中国 3期目狙い、進む制度固め****

中国共産党は3日までに、全国の政府機関などに設置された党組織に対して、習近平総書記(国家主席)の「核心」としての地位を断固守るよう義務付ける新たな規則を制定した。

 

習氏が総書記として異例の3期目入りを狙う来年の党大会に向け、長期支配を制度面で保障する動きが加速している。

 

新規則は「中国共産党組織工作条例」で、国営通信の新華社が2日に詳細を公表した。党組織への指導を強化し、習氏の指導思想を貫徹させると明記。中国紙記者は「習氏への忠誠のルール化により、習氏が仮に引退しても影響力を残すことになる」と解説した。

 

2019年末の党組織の数は約470万。【6月3日 共同】

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その中国共産党は結党100周年という節目の年を迎え、習近平政権が毛沢東・文革への回帰を強めていることは4月30日ブログ“中国  共産党結党100周年の節目にあたり、毛沢東・文革への回帰を強める習近平主席”でも取り上げたとおり。

 

こうした毛沢東・文革への回帰の動きは、習近平主席を「核心」とする体制強化とも重複します。

 

****結党100年を迎える中国共産党、「赤い遺伝子」がかつてなく重要に****

中国共産党は断固として無神論を掲げる政治組織だが、党の起源に関しては宗教的な表現を使うことを好む。

 

党の文献や国営メディアでは、かつて共産党の拠点となっていた場所が「聖地」と位置付けられている。共産党への「信仰」の「洗礼」を授ける狙いから、一般党員がこうした場所を訪れるのはほぼ義務となっている。

 

共産党の幹部養成機関、中国延安幹部学院で教鞭(きょうべん)を取るワン・ドンチャン氏は先月11日、「毛沢東はかつて、人民こそ我々の神だと言った」「我々は人民をより良い未来に導くことを信念としている」と語った。

 

CNNはこのほど、他の海外メディア二十数社とともに、政府が主催する延安と西柏坡のツアーに参加した。どちらも「赤い史跡」として名高く、結党間もない中国共産党はこれらの場所で規模と勢力を拡大した後、激しい内戦を経て1949年に中国本土を掌握した。

 

中国共産党が7月に結党100年を迎えるのを前に、習近平(シーチンピン)国家主席の下ではこのところ、9100万人に上る党員の「赤い遺伝子」を強化することが最優先事項になっている。習氏は中国共産党の現トップで、中国の指導者としては中華人民共和国を建国した毛沢東以降、最も強力な存在だ。

 

習氏は党の機関誌に最近掲載された一連の発言の中で、党員に「赤い資源を活用し、赤い遺伝子を継承し、赤い国を世代から世代へと引き継ごう」と呼び掛けた。そして「赤い史跡」は今、習氏の取り組みの中でますます重要性が高まっている。

 

延安でも西柏坡でも、大勢の訪問者(革命服をまとっている人もいた)が共産党指導者のかつての自宅や過去の党大会会場、数々の展示室に押し寄せていた。

 

党員たちは儀式のような形で、「いかなる時でも全身全霊を党と人民のためにささげ、決して党を裏切らない覚悟だ」という入党の誓いを改めて表明。屋外では、歴史が共産党員を中国の統治者に選んだ理由について、児童が授業を受ける姿もあった。

 

「紅色旅遊(レッドツーリズム)」の人気拡大に伴い、多額のお金も動いている。延安市だけを取っても、2019年には7300万人以上の観光客が人口200万人あまりの同市を訪れた。

 

ただ、こうした「赤い史跡」では、党の内紛や上層部の粛清、結党初期にさかのぼる激しい政治運動といった厄介な問題に触れられることはほぼない。

 

中国延安幹部学院に所属する歴史学者は、講義で党の失敗に触れていないわけではないと主張した上で、10年間に及んだ毛沢東の文化大革命のように党の歴史の最も暗い部分でさえ、中国における「社会主義建設の試み」という視点を通じて振り返るべきだと急いで付け加えた。文革を巡っては、数百万人が死亡したとの指摘もある。

 

取材班が訪れたあらゆる場所で、ある明確なメッセージが浮上してきた。中国の再生は毛沢東と習主席という2人の強力な指導者のおかげだ、というのがその内容で、2人の間の指導者についてはほとんど言及がなかった。

 

習主席をめぐるプロパガンダは1976年の毛沢東死後に導入された個人崇拝防止策と矛盾していないかとの質問に対し、延安で教鞭を執るワン氏は、共産党は桃のようなもので、一つの核しか持つことができないと示唆した。

 

「もし桃に二つの核があれば、それは変異だろう」(ワン氏)【6月2日 CNN】

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共産党100年の歴史とはいっても“一方で、政府は飢饉(ききん)や文化大革命、デモの弾圧といった暗い側面を見せることにはあまり熱心ではない。中国のソーシャルメディアでは、1989年の天安門事件での残虐な弾圧についての議論は、今なお検閲されている。中国のサイバースペース管理局は先月、インターネットユーザーに対し、党の正史に反する「歴史的ニヒリズム」を示す「有害な」投稿を報告するよう促した。”【5月30日 AFP】というように、あくまでも現指導部が認める「正史」に沿うものに限定されますが。

 

「紅色旅遊(レッドツーリズム)」だけでなく、当然ながらTVドラマ・映画もプロパガンダに動員されています。

 

****イケメンばかり起用・スローガン叫ぶ場面多すぎる…愛党ドラマ続々[中国共産党100年]****

中国で共産党をたたえるドラマや映画が続々と制作されている。中国メディアによれば、党が7月に創設100年を迎えることにちなみ、テレビドラマだけで100作品近くが年末までに放送される予定だ。

 

若手スターを起用した作品が目立っており、習近平シージンピン政権は若い世代を対象とした「愛党教育」に利用する狙いだ。(後略)【5月31日 読売】

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【過去の不正疑惑にも遡る「反腐敗キャンペーン」で求心力を更に強化】

党内の権力闘争の面では、習近平国家は就任以来、「トラもハエもたたく」というスローガンのもと「反腐敗キャンペーン」を掲げ、権力を掌握してきました。

 

元最高幹部の周永康氏や元重慶市党委員会書記の薄煕来氏、元軍制服組トップの郭伯雄氏、前重慶市党委書記の孫政才氏ら多数の党幹部を摘発し、この「反腐敗キャンペーン」も一段落したかと思っていましたが、そうでもないようです。過去の罪状に遡る摘発と言う形で強化されているとのこと。

 

****中国が「反腐敗」強化、死者さえ追及****

数十年さかのぼり捜査、引退した元当局者も対象

 

中国の汚職撲滅運動では、著名政治家から下級役人まであらゆる人物が標的となってきた。最近では、当局がこれまで見逃したか追及を見送ったとみられる過去の不正疑惑にも捜査のメスが及んでいる。

 

共産党の捜査員は過去1年、汚職などの不正疑惑を数十年前までさかのぼり、ベテラン当局者や元当局者を相次ぎ捜査している。過去にさかのぼる汚職捜査は、まず中国有数の石炭産地が標的となって注目を集め、その後全国に広がっていった。

 

中国北部・内モンゴル自治区の当局は、20年前の石炭絡みの汚職疑惑を追及するため2020年春に捜査を開始して以降、60~70歳代の元当局者数十人を拘束した。この中には14年余り前に引退した当局者も1人含まれる。

 

ここ数カ月では、複数の都市の司法機関が30年前までさかのぼって、禁錮刑の減刑や執行猶予の判決を見直すと明らかにした。また北京市は5月、全国的な組織犯罪撲滅の一環として、過去の事件を再捜査する枠組みを構築するよう公安機関に指示した。

 

過去にさかのぼる不正追及は、習近平国家主席が進めてきた汚職撲滅運動が転換点を迎えたことを示す。習氏は汚職撲滅によりライバルを排除し、自身の権力を固めてきたが、主な標的は最近の不正や継続的なケースだった。つまり、習氏が実権を握った2012年終盤以降に規律を守っていれば、当局者は訴追をほぼ免れるとみられていた。

 

専門家の中には、反腐敗運動は汚職を減らすとともに、習氏が来年、共産党トップとして3期目に入るとみられる中で、その権力を強化してきたと見る向きもある。だが、共産党員に課される規定がますます増える中で、過去にさかのぼる追及は、違反を恐れる当局者の行動をさらに抑制しかねない。

 

中国政治を研究するハーバード大学のエリザベス・ペリー教授は、汚職撲滅運動について、「確立しているか承認された手続きから少しでもかい離すれば違法と見なされる恐れがあるため、地方幹部による試験的な取り組みや技術革新、リスクテークも阻害している」と指摘する。「過去にまで追及が及べば、その恐怖をあおることは間違いない」

 

共産党を常に革命モードに駆り立てた毛沢東のように、習氏も当局者の慢心を防ぐ上で必要だとして、反腐敗運動を絶えず拡大・更新してきた。だが毛沢東が往々にして無秩序を通じて統治してきたのに対し、習氏はその正反対だ。前例のない党規律の徹底で統制を強めている。

 

過去にも汚職撲滅を進めた指導者がいたが、当初の勢いが後退することが多かった。対照的に習氏は、規定を絶えず策定し、共産党の幹部から一般党員まで9200万人全員の行動を管理しようとしている。

 

習氏は党の内規策定に向けて、初の5カ年計画を打ち出した。これは共産党創設100年を迎える今夏にあわせ、党内の包括的な司法制度を設けることを目指している。

 

習政権は党員の責務や行動を定めた規制を40件余り導入もしくは改定した。これは2002~2012年に国家主席を務めた胡錦濤氏の約3倍、その前の13年間に国家主席を務めた江沢民氏の2倍以上に当たる。北京大学系列の司法情報データベース、チャイナローインフォのデータをウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が分析した。(中略)

 

内モンゴルの捜査員は4月下旬時点で、すでに死亡した当局者1人を含む1000人近くに対する捜査を開始。およそ60億ドル(約6600億円)相当の経済損失を回収した。党の情報開示や国有メディアの報道で明らかになった。

 

捜査の標的となった人物には、元当局者が少なくとも34人含まれている。このうち1人は今月75歳の誕生日を迎え、2006年にすでに退職していた。WSJが党の情報開示の内容を確認した。【6月4日 WSJ】

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【ナショナリズムの台頭で、ネット上に現代の紅衛兵“中国指導部を少しでも批判する者が表れると寄ってたかって吊し上げる輩”も】

「核心」習近平主席のもとで「中国の夢」といったナショナリズムが著しく台頭しており、そうした流れのなかで、国際交流プログラムで日本を訪ねた中国人の知識人たちが「裏切者」のレッテルを貼られる事態にもなっているようです。

 

“日本の外務省傘下の国際交流基金が実施している、中国の世論で活躍する人物を日本に呼んで交流してもらい、帰国後に日本を満足させるような文章を書いてもらうという事業について、中国のネット上で「日本政府がお金を出して中国の知識人を買収している」との批判が出ている。”【6月9日 レコードチャイナ】

 

別に“日本を満足させるような文章を書いてもらう”ということではなく、客観的に日本のことを見てもらうのが制度の趣旨ですが、帰国後に日本に好意的な文章などを書くケース(結果的には現在の中国の在り様への批判ともなります)が多いのが、一部の者は気に入らないようです。

 

日中関係については「いい話」「悪い話」いろいろありますので、その中の一つ・・・とも考えられますが、気になったのは、そのこと自体より、そういう攻撃をしている“中国指導部を少しでも批判する者が表れると寄ってたかって吊し上げる”という人々の存在です。

 

****国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル****

<中国の極端な被害妄想の例として香港紙が報じた。この調子では日中文化交流もできなくなる>

 

中国におけるナショナリズムが極端な次元に至ったとして6月8日付のサウスチャイナ・モーニング・ポスト(以下ポスト紙)は、国際交流プログラムで日本を訪ねた中国人の知識人たち数百人が、最近その存在に気づいた反日の徒によって中国のソーシャルメディア上で攻撃の標的にされ、裏切り者の呼ばれていることを報じた。

 

日本の外務省所管の国際交流基金が費用を負担する訪日旅行は、日本の芸術や文化、日本や日本語を学びたい知識人たちに人気がある。同基金のウェブサイトには、この基金の目的は「日本とほかの国/地域の人々の相互理解を深める」ことにあると書かれている。運営費は、政府の補助金や民間の寄付、投資収益で賄われているという。

 

だが中国のネット上では今、このプログラムに参加して中国から日本に招かれたと記録が残る200人近い旅行者や研究者が、「裏切り者」として槍玉に挙がっているというのだ。

 

中国版ツイッターの「ウェイボー(微博)」では、中国人作家の蒋方舟(ジアン・ファンジョウ)が日本へ渡り、日本での経験を綴った本を出版したことが、日本のプロパガンダであるとして批判された。

あるユーザーは、「(蒋方舟は)日本政府から金をもらい、日本をほめそやそうとした裏切り者」と書いている。(中略)

 

中国政府子飼いの暴徒

ウォールストリート・ジャーナル紙の報道によれば、中国でナショナリズムが著しく台頭している一因は、同紙が過去数十年で中国最強の指導者と呼ぶ習近平国家主席にあると見られる。

 

習近平が公約として掲げた、中華民族の偉大なる復興という「中国の夢」の実現は、オンライン上の暴徒を生み出している。中国指導部を少しでも批判する者が表れると寄ってたかって吊し上げる輩だ。

 

方方はウォールストリート・ジャーナル紙に対して、「暴徒たち、とりわけ政府が支援している暴徒のグループには、ひとりで立ち向かおうとしても無駄だ」と話している。

 

本誌は、日本の国際交流基金にコメントを求めたが、本記事の公開までに返答は得られなかった。【6月9日 Newsweek】

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この件に関し、胡錫進(フー・シージン)環球時報編集長も

“まず言っておきたいのは、ある国が他国の人物を自国での旅行、学習に招待するというのは国際交流における一般的な方法であり、中国人が西側諸国の出資する交流活動に参加したからといって非難したり、イデオロギー的なレッテルを張ったりしてはならないということだ。

今回ネットユーザーたちが怒りを感じているのは、これまでに日本から招聘(しょうへい)された一部の人物が訪日前と訪日後に発表した創作物について、日本側の事業の狙いにあまりにも合致しすぎている点なのだろう。”【6月9日 レコードチャイナ】

という論評を示しており、交流活動自体を問題視するべきではないとしています。

 

それはそれとして、“中国指導部を少しでも批判する者が表れると寄ってたかって吊し上げる輩”・・・文化大革命当時、町中を毛沢東語録を手にした紅衛兵なる若者たちが集団で闊歩し、政治・社会・文化・教育などの指導層を手当たり次第に血祭りにあげ、破壊の限りを尽くしていました。

 

日本にも“日本を少しでも批判する者が表れると寄ってたかって吊し上げる輩”はいますので中国だけの話ではないでしょうが、国の指導部がそういう“輩”を利用して(あるいは黙認して)、社会の粛清をしようとするのであれば別問題です。

 

現代の紅衛兵はネット・SNS上で闊歩するのかも。

 

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