孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マララさんを敢えて避けたノーベル平和賞 

2013-10-11 21:52:54 | 女性問題

(7月12日 国連で演説するマララさん “flickr”より By Danu Designs http://www.flickr.com/photos/88185239@N04/9643301620/in/photolist-fG9rB3-fUmV28-gwmYsW-gaVzMx-gaUTqT-gaVeN5-g9GRva-guTnm3-gaVMza-gaVMPP-gjxZBY-gaj9zk-g8SdB7-fLWPc1-gbcX8D-ge3xuL-gsQJ4b-fUQePM-gmZwsJ-gmZLGX-gtmNuY-gguehR-g3j4rK-grCZqx-gxmJvG-gxV3xr-guTJr9-gxGApu-fQebDX-gwdmvi-gmRiQf-gswexF-giaDsw-gwJrzu-gs3MDF-fUyFrG-fUxVCv-fV6pQ8-g6cxoA-g68R7j-g6g9mc-ghW5GW-gwqxea-g3ivZQ-gseAVp-fUyRXk-fUyJhd-gxx9CP-gxx9Mr-gxx9Hi-gxx9Rz)

まだプーチン大統領の方が・・・
ノルウェー・ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は11日、化学兵器の禁止・不拡散のための活動を行う化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)に2013年のノーベル平和賞を授与すると発表しました。

“近年の平和賞では、「核兵器なき世界」の実現を訴えながらも、まだ具体的実績がなかった09年のオバマ米大統領、債務危機で揺れていた昨年の欧州連合(EU)には「ふさわしくない」と批判もあり、賛否が分かれた”【10月6日 共同】という、何かと問題視されることが多いノーベル平和賞ですが、今回の選択も議論を呼びそうです。

OPCWは、化学兵器を破棄することを目指している1997年に発効した化学兵器禁止条約に基づき設立され、これまで約80カ国の軍事工場などで査察を行っています。
もちろんその活動の意義は小さくありませんが、そうした活動のために作られた組織であり、関係国・機関の判断に従って、その仕事を遂行してきただけ・・・とも言えます。

危険物除去という観点では、命がけで対人地雷やクラスター爆弾の撤去作業を行っている多くの組織もあります。

今回受賞は当然ながら、シリア攻撃を回避する方策ともなったシリアでの化学兵器廃棄作業を後押しする目的のものですが、それにしてもいささか唐突な感があります。
以前ロシア紙が、軍事介入回避に成功したとしてプーチン大統領を「ノーベル平和賞候補に」と書いて笑い話にもなりましたが、シリア問題について言えば、まだプーチン大統領の方が説得的なぐらいです。

シリアの化学兵器廃棄作業はこれからであり、今後難航することも予測されています。
オバマ大統領が平和賞受賞後にシリア攻撃を提唱してプーチン大統領から揶揄されたように、OPCWについてもシリアでの作業が進まないと、何のための受賞だったのか?という話にもなります。

本命候補だったマララさん
今回のノーベル平和賞の本命候補は、イスラム過激派による襲撃で命をおとしかけながらも女子教育の重要性を訴え続けるパキスタン出身の16歳の少女マララ・ユスフザイさんでした。

ここひと月あまりだけでも、多くの国際的賞を授与されています。
オランダ・アムステルダムに本拠を置く児童権利擁護団体「キッズライツ財団」は「国際子ども平和賞」を、
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、人権擁護活動でその年最も活躍した個人に贈る「良心の大使賞」を、
米東部の名門ハーバード大学は「2013年ピーター・ゴムス人道賞」を、
そして昨日10日に欧州連合(EU)欧州議会は、優れた人権擁護活動をたたえる「サハロフ賞」をマララさんに贈ることを発表しています。

彼女の功績をたたえる国連は、彼女の誕生日を「マララ・デー」と定めました。
マララさんは、7月12日、潘基文(バン・キムン)事務総長や国連世界教育特使のブラウン前英首相が見守る中、ニューヨークの国連本部で以下のようなスピーチを行い、多くの人々の感動を呼んでいます。

****マララさんの国連演説要旨****
「マララ・デー」は、権利を訴える全ての女性や子どもたちの日だ。女性や子どもたちのために、教育を受ける権利を訴えたい。

何千もの人がテロリストに殺され、何百万人もが負傷させられた。私もその1人だ。

その声なき人々のためにも訴えたい。
テロリストは私と友人を銃弾で黙らせようとしたが、私たちは止められない。私の志や希望、夢はなにも変わらない。

私は誰にも敵対はしない。私は誰も憎んでいない。タリバーンやすべての過激派の息子たちや娘たちに教育を受けさせたい。

過激派は本やペンを怖がる。教育の力、女性の声の力を恐れる。世界の多くの地域で、テロリズムや戦争が子どもの教育の機会を妨げている。

全ての政府に無償の義務教育を求める。世界中の姉妹たち、勇敢になって。知識という武器で力をつけよう。連帯することで自らを守ろう。本とペンを手に取ろう。それが一番強い武器。

一人の子ども、先生、そして本とペンが世界を変えるのだ。教育こそがすべてを解決する。【7月13日 朝日】
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彼女が困難な境遇にある女性に送った力強いメッセージ、その国際的反響の大きさなど、これまでの実績はノーベル平和賞に十分値するものです。

マララさん受賞には懸念・不安も
ただ、まだ16歳ということで、今後本当に受賞に値する人物に成長するのか?という疑問、あまりにも大きな重荷をひとりの少女に負わせてしまうことにならないか?という不安、マララさんの国際的影響力に反発を強めるイスラム過激派が再度彼女を襲う危険は?という安全上の懸念などもあります。

****ノーベル平和賞有力候補 16歳「若すぎる」の声も 本命視の少女マララさん**** 
11日に発表される今年のノーベル平和賞の候補として、パキスタン出身の16歳の少女マララ・ユスフザイさんが本命視されている。

女子教育の権利を求めてイスラム過激派に頭を撃たれ、一命を取り留めたマララさんは数々の国際的賞を受賞、「不屈のヒロイン」への称賛は高まる一方だ。

半面、「まだ子ども。受賞には若すぎる」との声も。平和賞をめぐってはこれまでも妥当性についての論争が絶えないだけに、今年も大きな注目が集まりそうだ。

 ▽最年少
女性への教育を否定する「パキスタンのタリバン運動」のテロ行為や女子校の破壊をブログで批判していたマララさんは15歳だった昨年10月、パキスタン北西部で下校中に覆面の男に襲撃され重傷を負った。意識不明のまま英国バーミンガムの病院に搬送され、奇跡的に回復した。

事件直後から犯行への非難とマララさんへの支援の声が世界的に高まり、インターネット上で「ノーベル平和賞を」と署名活動が始まった。
授与されれば32歳だった2011年のタワックル・カルマンさんを抜き最年少の平和賞受賞者となる。

元気になったマララさんは今年3月からバーミンガムで女子校に通学。16歳の誕生日の7月12日には国連で演説、テロや貧困の「唯一の解決策が教育です」としっかりした口調で訴え満場の拍手を浴びた。その後もオランダ人権団体の「国際子ども平和賞」や米ハーバード大学の「ピーター・ゴムス人道賞」など数々の栄誉に輝いている。

しかし国際社会がマララさんを“英雄視”するにつれ、故郷パキスタンで市民の反応が変わり始めた。英字紙ドーンは7月、欧米が襲撃事件を仕組んだのではないかとの批判もあると報じた。(中略)

 ▽品格
「平和賞ウオッチャー」として知られる国際平和研究所(オスロ)のハルプビケン所長は、今年の予想でマララさんをトップに挙げながらも「(受賞すれば)群を抜いて若い。彼女の行く末や、受賞による身の安全への影響に懸念があることは確かだ」と言う。

オバマ氏への授与は「期待先行型だった」と指摘する所長は「受賞者が後に重大な過ちを犯せば、そのまま賞の信頼性にはね返ってくる。マララさんについてもこの先、賞に堪える品格を持ち合わせているかが、ノーベル賞委員会の重要な検討事項になっているだろう」と話した。【10月6日 共同】
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マララさんを襲ったパキスタン・タリバーン運動(TTP)は、「チャンスがあれば、いつでも襲撃する」としています。

****再び襲撃予告、変わらぬ緊張 マララさん銃撃から1年 パキスタン****
パキスタンで女子教育の権利を唱えていた女子学生マララ・ユスフザイさん(16)の銃撃事件は、9日で1年を迎えた。

母国では11日に発表されるノーベル平和賞の受賞候補者として関心が高まる一方、マララさんを撃った武装勢力が再び襲撃を予告するなど緊張が広がっている。

下校途中だったマララさんを銃撃したパキスタン・タリバーン運動(TTP)の報道担当者は7日、AFP通信に対して「チャンスがあれば、いつでも襲撃する」と語った。「彼女を襲撃したのは学校に行っていたからではなく、タリバーンとイスラム教に敵対する発言をしたからだ」と持論を展開した。

国内では、襲撃1年に合わせた集会などは開かれていない。昨年の襲撃直後、大規模な抗議集会を開いた同国北西部ペシャワルのNGO関係者は「治安上の懸念もあり、今回は断念した」と話す。

ペシャワル周辺では、TTP系組織によるとみられる爆弾テロが頻発。過去3週間で130人以上が死亡するなど、緊張はむしろ高まっている。

パキスタンの主要各紙は9日、マララさんが8日に出版した自伝が書店で売り出された写真を1面で掲載。ニューズ紙は社説で「マララさんが平和賞にふさわしいことは疑いない」としつつ、「人々は彼女がまだ少女だということを忘れがちになる。彼女の肩にかかる重さはあまりに大きい」と指摘した。

ドーン紙も、マララさんへのインタビューで「受賞によって普通の生活が奪われませんか」と質問するなど、マララさんの今後を気遣う論調が目立っている。【10月10日 朝日】
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マララさん自身は、「自身はまだ賞に値しない」と語っています。

****マララさん「自分はまだノーベル賞に値しない****
ノーベル平和賞の有力候補に挙げられているマララ・ユスフザイさんが、パキスタンのラジオ局のインタビューで「自身はまだ賞に値しない」と発言した。

マララさんはパキスタンのタリバン勢力を批判したことで、昨年の10月9日に銃撃を受けて頭部に重傷を負った。しかし回復後は、子どもたちが学校に行く権利を世界に向けて訴える伝道師となり、彼女の勇気は世界の指導者や有名人たちに称賛された。

弱冠16歳のマララさんは国連での演説をやり遂げ、今週には自伝も出版。11日には有力候補者として自身も名を連ねるノーベル平和賞受賞者の発表も行われる。

しかし、パキスタンのラジオ局City89 FMとのインタビューで、マララさんは教育を促進する活動にまい進する意欲をかたったものの、まだ自分はノーベル賞の栄誉に浴するには不十分だと感じると述べた。
「ノーベル賞に値するような人々はたくさんおり、私はもっとやるべきことがある。私の考えでは、賞を頂けるほどの功績を成し遂げてはいない」

だが、希望と決意に満ちた彼女のメッセージは、地元であるスワト渓谷の子どもたちを鼓舞している。
12歳のフメラ・カーンさんは、「1年前の銃撃事件は忘れられない。教育は私の生きがいそのもので、マララはそのために声を上げてくれた。だから私は彼女が大好きよ」と話す。「私も大きくなったら教育のために闘いたい」

マララさんが通っていたパキスタンの学校は、銃撃から丸1年を迎えた9日、学校を休校とした。【10月10日 AFP】
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地元パキスタンでは、“人々は報復を恐れ、今も彼女のことを口にできない”という現実もあります。

****マララさん:ノーベル賞期待、住民は報復恐れ沈黙****
女性や子供の教育の必要性を訴えるパキスタンの少女マララ・ユスフザイさん(16)が、下校中に武装勢力の銃撃を受けて9日で1年がたった。

英国で治療後も一貫して教育の重要性を世界に発信してきたマララさんは、11日に発表されるノーベル平和賞の最有力候補で報道も過熱している。

だが、イスラムの教えに反するとして女子教育を認めない立場の武装勢力は7日、再びマララさんを脅迫。地元の人々は報復を恐れ、今も彼女のことを口にできない。

マララさんの出身地、北西部スワート渓谷の中心地ミンゴラ。マララさんの父ジアウディンさんが運営し、銃撃当日まで通学していた学校の周囲や構内では7日、パキスタン軍や情報機関関係者が目を光らせていた。

学校では今も授業が行われているが、毎日新聞の取材に「マララの話は一切聞くな」とくぎを刺し、構内や生徒の写真撮影も許されなかった。学校職員も事件後の状況や「ノーベル賞」の言葉は口にしなかった。

学校から約3キロ離れた街路で、別の学校に通う女子生徒(15)が「マララがノーベル賞を受ければいい」と小声で話し、去っていった。

武装勢力のパキスタン・タリバン運動のシャヒド報道官は7日、改めて「機会があればマララを殺す」と警告。治安当局や住民は、マララさんの受賞がタリバンを刺激する事態を恐れている。マララさんと両親、2人の弟たちは事件後、英国で暮らしている。

一方、マララさんが「おじさん」と慕う親戚で、ミンゴラで別の学校を運営するアフマド・シャー・ユスフザイさん(44)は「マララの勇気のおかげで事件後、学校に通う子たちがスワート渓谷で15%増えた」と話した。

マララさんが7月、国連本部で演説した際にも付き添ったアフマドさんは「ノーベル賞受賞でさらに状況はよくなる」と期待を込める。だが、ある地元記者は「マララや(アフマドさんら)近親者は筋金入りの活動家。だから声を上げられるのだ」と語った。

一方、11日の発表を前に報道は過熱気味。英紙サンデー・タイムズが6日、マララさんの襲撃直後の思いなどを報じたほか、英BBCは7日、30分のドキュメンタリー番組を放送。ほかの英各紙も7日朝刊でマララさんの近況を大きく報じた。【10月9日 毎日】
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今後の安全上の問題、受賞によって呼び起こされる彼女が代弁する形となっている欧米的価値観へのイスラム保守派の反発、あまりに大きな荷を背負わせることへの懸念などを考え合わせると、今回、平和賞を受賞しなかったことは彼女のためには好ましいことなのでしょう。
ノーベル賞委員会もそうした観点から、敢えて彼女を避けたとも思われます。

また、“ノーベル賞委員会が10年に中国の民主活動家、劉暁波(りゅうぎょうは)氏を選出してから、より議論の余地のない団体・個人を選ぶ傾向が強まっている点だ。劉氏を選んだことについては中国政府が猛反発し、中国とノルウェーの2国間関係が悪化した。
今年の有力候補者の中にも、ロシアやトルコの人権・民主活動家の名があった。こうした候補者を選んだ場合、それぞれの政府が反発し、欧州的価値の押しつけという批判が出ることが確実だ。昨年の欧州連合(EU)に続く、国際機関選出の背景にはこうした配慮も働いている可能性がある”【10月11日 毎日】とも指摘されています。

ただ、女性の権利向上、教育の重要性という極めてまっとうなことを主張し続ける少女を、ノーベル平和賞という形で国際社会が支援できない現実に忸怩たる思いも残ります。

****ノーベル平和賞:マララさん受賞逃す…世界の心つかんだ****
化学兵器禁止機関(OPCW)のノーベル平和賞受賞決定を受け、事前に有力候補とされてきたパキスタンの少女マララ・ユスフザイさん(16)について、パキスタンの民放大手ジオ・テレビは11日、「受賞は逃したが、世界の心をつかんだ」と称賛。「候補に挙がっただけでも誇り」(中部ムルタンの10代の女子生徒)との声も聞かれた。

 ◇出身地では複雑感情
だが、マララさんの出身地、北西部スワート渓谷のミンゴラでは、多くの住民は毎日新聞の取材に口をつぐんだ。武装勢力「パキスタン・タリバン運動」報道官が10日、マララさんの暗殺を予告し、8日に発売されたばかりの自伝を売る書店まで攻撃すると警告したのが背景とみられる。

マララさんが昨年10月9日にタリバンの銃撃を受けた当日まで通っていた学校では、11日朝から多数の軍兵士が配置され、住民や生徒が集まることもなかった。

同校卒業の娘を持つ電気技師、ハヤトさん(39)は「多くの住民は受賞できなくてほっとしているかもしれない」と述べ、スワート渓谷で相次ぐタリバンによる住民暗殺への不満をあらわにした。

別の学校の女子生徒(16)は電話取材に、「不当だ。マララは女の子のためにたくさんのことをしたのに」と悔しそうだった。

一方、マララさんについて欧州では、最近の欧米メディアへの極度の露出から、「欧州的価値の代弁者」としての色が付きすぎるとの懸念が出ていた。

マララさんと家族のメディア対応は、米国に本拠を持つ世界最大の独立系広報会社「エデルマン」が「社会貢献」の一環で無報酬で請け負った。

こうした中、英紙インディペンデントのベテラン記者、ブランド氏はノーベル平和賞発表前、「マララさん授賞に反対する理由」と題するコラムの中で、「パキスタンなどではマララさんは欧米的価値の代弁者との冷めた見方がある。平和賞は彼女の純粋なメッセージを汚すことになる」と主張していた。【10月11日 毎日】
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