孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  和平進展を阻む“拉致問題”

2009-03-19 22:10:50 | 国際情勢

(イスラエル・テルアビブの大学でのデモで掲げられた拉致兵士シャリット伍長
“flickr”より By Lilachd
http://www.flickr.com/photos/lilachdan/3152777571/)

【解放交渉 不調に終わる】
パレスチナ和平の実現のためには、イスラエルの生存権の承認、テロ行為の放棄、東エルサレムの帰属、違法入植地・分離壁問題、パレスチナ難民の帰還などの問題が、またさしあたりのガザ地区の現状改善のためには、経済封鎖解除、本格的停戦の実現・・・等々、様々なレベル・段階の問題が山積していますが、直近のハードルとなっている問題に06年にハマス等によって拉致されたイスラエル兵士ギラド・シャリット伍長の問題があります。

イスラエルはギラド・シャリット伍長の解放を経済封鎖解除や本格停戦の前提としていますが、イスラエルのオルメルト暫定首相は17日夜、国民向けのテレビ演説で、この解放交渉が不調に終わったと発表しました。

****イスラエル兵の解放交渉不調 ハマスが3年前拉致****
イスラエルは、ガザの境界検問所封鎖の解除や本格停戦に応じる前提として、ハマスに兵士の解放を求めていた。イスラエルでは2月の総選挙の結果を受け、パレスチナに強硬姿勢をとる右派を中心とした政権が近く発足する見通し。交渉は一層の難航が予想され、ガザ復興に向けた動きが停滞するのは必至だ。

ハマスは06年6月、他の武装勢力とともにガザからイスラエル側に越境して兵士を拉致。解放の条件として、イスラエル人殺害にかかわった罪などでイスラエルが長期収監している450人をはじめ、計千人以上のパレスチナ人の釈放を求めていた。イスラエルは自爆テロなどに関与したとされるハマス軍事部門の幹部ら約130人の釈放を拒否し、ハマスも譲らなかった。
オルメルト氏は「残念ながら我々は残忍で冷酷な組織と衝突した」とハマスを非難。一方、ハマスも「交渉不成立の責任はイスラエル側にある」とする声明を出した。【3月18日 朝日】
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【対立を望む勢力】
このイスラエル兵拉致事件は、当時のハマス内閣が「イスラエル生存権の間接的承認」に向かっている状況で、こうした融和の動きを歓迎しないハマス軍事部門・強硬派が事態を緊張させる協議妨害工作として強行した事件とも言われています。

****イスラエル兵拉致される、ハマス軍事部門が暴走?****
イスラエル軍が25日、南部ケレムシャローム付近で軍拠点を襲撃したパレスチナ武装勢力と交戦し、軍兵士2人を含む5人が死亡した戦闘で、イスラエル兵(19)が武装勢力に拉致された。
武装勢力には内閣を率いるイスラム原理主義組織ハマスの軍事部門も加わっており、ハマス内閣は批判にさらされると同時に、内閣と軍事部門とのハマス内部の対立も露呈した。

25日の襲撃は、ハマス内閣の関係者には知らされていなかった模様だ。シャエル副首相はヨルダン川西岸のラマッラで記者会見し、「我々は拉致について何も聞かされていない。兵士は即時解放されるべきだ」と述べ、ハマス軍事部門を暗に非難した。
一方、軍事部門「カッサム隊」の報道担当者は、地元通信社に対し、「我々はイスラエルのどこででも軍事行動を行えることを証明した。拉致について情報は明かせない」と述べ、解放要求を拒否した。

襲撃前日の24日夜、ハニヤ首相はアッバス議長と会談し、パレスチナ各派の合意文書として「対イスラエル攻撃は、ヨルダン川西岸とガザ地区のイスラエル占領地に限定する」という文言を盛り込むことを検討していた。襲撃は、ハマス軍事部門が協議を無視する形で行ったもので、首相の指導力の低下を印象付けた。
当地ではハニヤ首相が、アッバス議長が求める「イスラエル生存権の間接的承認」に傾いているとの見方が強まっており、襲撃は、生存権承認に強く反対するハマス政治部門最高指導者メシャル氏(シリアに亡命中)ら強硬派が協議妨害を狙った可能性もある。

AP通信によると、25日の襲撃を行ったハマスなどの三つの武装組織は26日、共同声明を出し、兵士の消息を明かす条件として、イスラエルがテロ関与容疑などで収監しているパレスチナ人女性や18歳未満の若者の釈放を要求した。
アッバス議長は25日夜、ハニヤ首相と会談し、兵士解放を要求。一方、イスラエルのオルメルト首相は26日、エルサレムで演説し、ガザ地区の武装勢力に対する本格的な掃討作戦に向け、国軍に準備態勢を整えるよう指示したと明らかにした。【06年6月26日 読売】
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結局、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区のラマラなどで、シャエル副首相らハマス系の閣僚と議員ら少なくとも計20人を拘束、拉致兵士救出のためとしてガザ地区への大規模な軍事侵攻を行うことになり、多大の犠牲者を出しています。
和解の動きは粉砕され、ハマス強硬派の描いたシナリオどおりになったとも言えます。
しかし拉致兵士救出は果たせず、その後この拉致事件はイスラエルにとって懸案事項となっています。

“もしこの事件がなければ、当時のハマス内閣がイスラエル生存権を間接的にも承認し、パレスチナ問題は今とは異なる展開を示したかも・・・”とも思われますが、そうした“もし”は無意味であり、また、この事件がなくても別の妨害工作がなされたであろう・・・とも思慮されます。

ハマス側にも、イスラエル側にも、対立・緊張関係にあってこそその存在意義を主張できる勢力があり、そうした勢力は和平の動きを認めようとしない、そのことがパレスチナ和平が進まない背景にあるように思えます。

【拉致兵士の安否】
ハマスは、シャリット伍長の生存を証明するために、07年6月25日に本人の音声メッセージを発表、08年6月には、ハマスの最高指導者ハレド・メシャール氏とカーター元米大統領が4月に結んだ約束に基づき、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のラマラにある財団「カーター・センター」の事務所に手書きの手紙が届けられ、両親に渡されています。

ハマスの最高指導者メシャル氏はシャリット伍長が戦争捕虜として人道的に扱われているとしたうえで、国際社会がシャリット伍長の安否に関心を寄せながら、イスラエル国内のパレスチナ人被拘束者の状況を無視していると指摘しています。
それも、もっともな言い分ではありますが・・・。

なお、シャリット伍長の両親は解放の早期実現を求め、今月8日、オルメルト首相邸の前にテントを設営して座り込みを始めたそうです。夫妻はオルメルト首相が退任するまでの間、テントでの生活を続けると表明しており、「(オルメルト首相が)任期中に問題を解決し、息子を連れ戻してくれるよう求める」と語っています。【3月9日 CNN】


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