孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

クルドをめぐるイラク・トルコの動き  PKK対策で協調 クルド語使用の規制緩和

2009-03-24 21:30:38 | 国際情勢

(カラシニコフを手にしたPKKのメンバー “flickr”より By jamesdale10
http://www.flickr.com/photos/31910792@N05/3133338945/)

【クルド人対アラブ人の対立の火種】
治安改善が進むイラクにあって積み残された大きな問題のひとつにクルド問題があります。
クルド人はイラク北部・トルコ・イラン北西部などに分布し、人口は2500万~3000万人。
独自の国家を持たない世界最大の民族とも言われています。

イラクおいてはクルド人自治区を形成して一定の自治権を得ていますが、隣接する油田地帯キルクーク一帯もクルド人居住区で、クルド人自治区に編入するかの帰属問題についてはイラク憲法には07年末までに住民投票で決することとされていましたが、08年6月に延期。
その後、住民投票が実施されたという話は聞きませんので、再延期だか棚上げだかにされていると思われます。

キルクークはかつてクルド人とトルクメン人が多数を占めていましたが、クルド人を弾圧した旧フセイン政権がアラブ人を移住させる政策を推進。フセイン政権崩壊後、帰還したクルド人は自治区への帰属を主張し、アラブ人と対立しています。
もし住民投票を実施してクルド人自治区へ編入ということになると、イラク有数の油田地帯ということもあって、クルド人対アラブ人の対立に火がつきかねないことから、先延ばしにされている現状と思われます。

そんなクルド人自治区に隣接するディヤラ州で、23日、クルド人を標的にした自爆テロがありました。

****クルド人の葬儀中に自爆攻撃、25人が死亡 イラク****
イラク・バグダッドの北東130キロメートルのJalawlaで23日、クルド人の葬儀中に自爆攻撃があり、少なくとも25人が死亡、50人が負傷した。
Jalawlaは、情勢不安なディヤラ州にあり、イスラム教シーア派のクルド人とスンニ派アラブ人の住民が混在している。スンニ派アラブ人の多くは国際テロ組織アルカイダに近いとされている。
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クルド人対アラブ人の対立が激化すると、キルクークの帰属だけに留まらず、クルド人居住地域の分離独立の動きを加速させる懸念もあります。

【PKK対策でトルコ・イラク・自治政府が協調】
更にクルド問題が厄介なのは、トルコで反政府武装活動を展開するクルド労働者党(PKK)の動きとイラクのクルド人自治区が動きが連動しやすいことです。
もし、イラクでクルド人の分離独立という動きに火がつくと、トルコのPKKや、イランで同様の活動を行っている組織も同調することが予想され、イラクに留まらず、トルコ・イランを巻き込んだ問題になります。

また、トルコはPKKがイラク・クルド人自治区を活動拠点にしているとして、イラク領内への越境攻撃を行ってきています。
イラク側はこうした越境攻撃を批判しており、また、その展開如何ではクルド人の反発を刺激することも考えられ、07年末には、イラクの安定を維持したいアメリカが間に入って、トルコに自制を求めた経緯があります。

08年春にもPKK掃討を目的としたトルコによる大規模なイラク越境攻撃があるのでは・・・と一時懸念されましたが、小規模な越境攻撃は別として、大規模・長期の侵攻はありませんでした。
そんな、トルコ・イラクの関係について、最近動きが見られます。

昨年12月24日、イラクのマリキ首相はトルコの首都アンカラを訪問してギュル大統領、エルドアン首相と相次いで会談し、PKKへの対応で協力関係を強めることで合意しました。
また、12月23日には、クルド人であるタリバニ・イラク大統領は、イラク政府とクルド人自治政府が協力してイラク北部からPKKを一掃すると述べています。
こうした動きを背景に、12月28日にはトルコ空軍がイラク領内のPKK拠点を空爆しています。

更に今月23日にはトルコのギュル大統領がバグダッドを訪問しています。

****33年ぶり トルコ大統領がイラク訪問****
トルコのギュル大統領が23日、バグダッドを訪問した。イラクのタラバニ大統領やマリキ首相と会談する。トルコ大統領のイラク訪問は33年ぶり。両国間の経済関係強化のほか治安問題などを協議する。
トルコ政府は、反政府武装闘争を続けるクルド労働者党(PKK)がイラク北部を拠点に越境攻撃をしているとして、イラク政府やイラク北部のクルド自治政府に対策を強化するよう求めてきた。クルド人はトルコ、イラク、イラン、シリアなどで少数派として暮らし、各地で独立運動を続けている。

自らもクルド人のタラバニ大統領は今月、トルコ紙との会見で、4月に各国のクルド政党を集めた会議を開き、PKKに武闘路線を放棄するよう求めることを明らかにした。一方、PKKは23日、イラクの声通信に対し「ギュル大統領の訪問は問題の平和的解決ではなくPKKの崩壊を狙ったものだ」と批判した。【3月23日 朝日】
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タラバニ・イラク大統領はクルド人自治区の二大政党のひとつPUKを率いる立場でもありますが、クルド人自治政府がどこまで本気でPKKに相対するつもりなのかは、定かではありません。

【自治政府内の二大政党の確執】
そのクルド人自治区は、タラバニ・イラク大統領のPUK(クルド愛国同盟)と、バルザニ氏の率いるKDP(クルド民主党)が、要職を分け合う形で今は連携していますが、この両組織は激しく対立・抗争してきた経緯があり、その不協和音がまた高まっているとの報道もあります。

****クルド2大政党の確執再燃も 自治政府副議長が会見****
イラク北部クルド自治政府のコスラト・ラスール副議長は6日、自治区スレイマニヤで共同通信と会見し、5月に予定される自治議会選挙後、同政府の首相ポストなどをめぐり、クルド2大政党のクルド愛国同盟(PUK)とクルド民主党(KDP)との確執が再燃する可能性があるとの認識を示した。
ラスール氏は、イラクのタラバニ大統領が議長を務めるPUKの副議長も務める。

2大政党は、2005年の自治議会選などの際もポストをめぐり対立、KDPが自治政府議長と首相、PUKが連邦大統領と、ポストを分け合った。
ラスール副議長は、選挙結果について「(2大政党が議席の大半を占める)政治地図に大きな変化はないだろう」と予測。一方で「KDPとの合意では次の自治政府首相はPUKからだが、KDPが異議を唱える可能性がある」と述べた。【3月7日 共同】
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また、長年のPUKとKDPによるクルド人自治政府支配によって、かつてはイラクの他の地域にくらべ政情が安定してテロもなく、経済も順調に展開しているとされていたクルド人居住地域が、今は汚職が蔓延し、“民主化”が停滞しているとの指摘もあります。【3月25日号 Newsweek日本版】

【トルコ・エルドアン首相 板ばさみ】
一方、PKK掃討に力をいれるトルコのエルドアン首相は、国内的には人口の5分の1を占めるクルド人の擁護者の立場をとってきているそうです。
公共の場でのクルド語使用を認めたり、クルド語による教育・放送を認める法整備を進めてきたとか。

しかし、2月末にクルド系の政党の党首がクルド語で議会演説を行ったことから、トルコ国内では強硬派のクルド人に対する反発が強まり、エルドアン首相は板ばさみ状態にあるとか。
今月末の統一地方選挙を控えて、エルドアン首相のAKP(公正発展党)はどうしてもクルド人の票が欲しい、イラクのクルド人自治政府とのPKK対策での協力関係も維持したい、しかし、クルド語規制緩和を進めるとAKPの中核支持層が離反しかねない・・・というところだそうです。【3月11日号 Newsweek日本版】
AKPのエルドアン首相が“クルド人の擁護者”だったとは、全く知りませんでした。

クルドに関しては、キルクーク帰属問題、分離独立の動き、PKKへの対応、自治政府内部での二大政党の確執、トルコでのクルド語規制緩和・・・いろんな問題が関連しあいながら蠢いています。

コメント
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