孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  中東包括外交など、外交上の“変化”

2009-03-10 21:31:48 | 国際情勢

(イスラエルの次期首相ベンヤミン・ネタニヤフ氏との会談にのぞむヒラリー・クリントン国務長官 かつてネタニヤフ氏が首相を務めていたときは、イスラエルと夫のクリントン大統領との関係が悪化しましたが、再度の首相の座につくネタニヤフ氏がどのような姿勢でパレスチナ和平に対処するのかが注目されます。
“flickr”より By U.S. Department of State
http://www.flickr.com/photos/statephotos/3325787373/)

【中東包括外交】
ブッシュ大統領時代のアメリカはイラク・アフガニスタンでの“テロとの戦い”に終始し、また、ロシアとは“新冷戦”とも言われるような緊張関係が生まれました。
あまり外交交渉で関係国の協調を・・・という姿勢はみられませんでした。
唯一、関係国の交渉で事態の改善をはかろうとした北朝鮮をめぐる6カ国協議も一進一退の状況でした。

オバマ大統領に代わり、クリントン国務長官の中東歴訪を受けて、中東政策に関しては、これまで敵対してきたイラン・シリアとの接近を含めた、関係国の協調体制を重視した流れに変わりつつあるように見えます。
また、ロシアやキューバといった国々との関係も変化の兆しが見えます。

****米、中東包括外交打ち出す クリントン長官が新機軸****
クリントン米国務長官は8日、約1週間にわたる中東・欧州歴訪を終えた。焦点の中東外交では、パレスチナ和平、イランやシリアとの関係改善、アフガニスタンやイラクの安定化について、互いに関係する問題として三位一体で推進していく「中東・南西アジア包括外交」の新機軸を打ち出した。ブッシュ前政権は「テロとの戦い」に傾倒したため、他の案件はほとんど手付かずだった。【3月9日 共同】
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【パレスチナ 2国家共存に向けて】
シリアとの急接近、シリア・イスラエルの和平交渉については一昨日のブログでも取り上げたところです。
こうした動きが今後のパレスチナ和平の枠組みにどのように影響するのかはまだ不透明です。
クリントン長官は3日エルサレムでイスラエル首脳と相次いで会談し、「イスラエルとパレスチナの2国家共存に向けた和平交渉は不可避だ」と強調しています。

長官は次期政権の組閣作業を進めるネタニヤフ首相候補とも面会しましたが、ネタニヤフ氏は、米国の仲介によるパレスチナとの和平交渉を見直す考えを示しており、同長官とは見解が対立しています。
ネタニヤフ氏は「パレスチナ自治区がある占領地のヨルダン川西岸から撤退すれば、ガザのように(イスラエル破壊を訴える)イスラム原理主義組織ハマスが台頭する」と主張しており、パレスチナ国家樹立は認められないとの立場です。【3月4日 時事】

また、クリントン長官は4日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラを訪問し、アッバス自治政府議長と会談。
会談後、同長官はイスラエルに同自治区ガザへの支援物資の流入を阻害しないように促すとともに、パレスチナ国家の樹立に今後も努力すると述べています。

2日に行われたガザ復興支援国際会議では、クリントン長官はイスラエルの意向を代弁する形で、ハマス排除を強調していましたが、パレスチナ内部の動きとしては、ハマスを含めた統一政府樹立へ向けた動きが出ています。

****パレスチナ首相が辞表提出 統一政府樹立促す****
パレスチナ自治政府のファイヤド首相は7日、自治政府トップのアッバス議長に辞表を提出した。敵対してきたイスラム過激派ハマスとの統一政府樹立のため、としており、統一政府を目指して10日にカイロで再開するパレスチナ各派による和解協議の進展を促す狙いがある。
パレスチナ自治区では07年6月にハマスがガザを制圧し、ヨルダン川西岸を支配する自治政府の穏健派ファタハと分裂。アッバス議長はハマス幹部のハニヤ首相を解任し、党派色のない実務家のファイヤド氏を首相に指名したが、ハマスはファイヤド内閣には正統性がないとして、首相辞任を求めていた。 統一政府へ向けた協議が今月中にまとまらなければ、ファイヤド氏が首相にとどまる可能性もある。 ファタハとハマスはイスラエルの占領に対する闘争姿勢が根本的に違うが、イスラエル軍のガザ攻撃で1300人以上の犠牲者が出た事態を受けて、2月26日に本格的な和解協議が始まっていた。【3月7日 朝日】
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しかし、“統一政府”とは言っても、そのための選挙をどうするのかなど課題は多く、これまで同様、ファタハとハマスの主導権争いが激化することも懸念されます。

【アフガニスタン 米・イランの接近】
イスラエル・パレスチナ双方の内部に問題を抱えたパレスチナ情勢ですが、とにもかくにも、動きは出てきています。
アフガニスタンについても、アフガニスタン安定化のための国際会議に宿敵イランを招待しようという流れになっています。

****米オバマ政権:「敵と対話」で第一歩 イラン招聘で****
クリントン米国務長官が5日、イランにアフガニスタン安定化のための国際会議参加を招請し、オバマ政権は「敵との対話」路線で具体的な第一歩を示した。
「イランと米国は毎日のように協議していた」。クリントン長官は4日、イラン招請を表明するのに先立ち、記者団に説明した。01年に始まったアフガンでの米英軍の軍事作戦で、隣国のイランが、当時のタリバン政権と国際テロ組織アルカイダの掃討を支援したことを指したものだ。

イスラム教シーア派国家イランは、スンニ派で敵対関係にあったタリバンの復興を望んでいない。さらに、麻薬や難民の流入にも頭を痛めており、アフガン対策にイランの関与を求める声は以前から、国防総省内でも上がっていた。
それを押しとどめていたのがブッシュ前政権の「敵視政策」だ。だが同政権も終盤は、イランの周辺国への影響力を考慮し、07年にはイラク安定化に向けた大使級協議を開催した。共通の利益となる課題から関係改善を目指すのがオバマ政権の姿勢で、アフガン安定化国際会議はその色合いが濃いものとなる。

一方で長官は、イラン戦略の目標を「核開発とテロ支援の停止」とし、今後は硬軟織り交ぜた戦略を展開する方針だ。先に発表したシリアへの特使派遣は、同国との関係改善と共にイランの孤立化を狙うものだ。
議会からは、イランと経済的なつながりが深い「中国とロシアの協力が重要」(ケリー上院外交委員長)との指摘もある。原油価格の下落はイランに打撃を与えており、同国産石油の大口輸出先である中国にも、何らかの圧力をかけるよう求めるとみられる。【3月6日 毎日】
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これに対し、イランは7日、参加を前向きに検討すると表明しています。
アフガニスタン安定はイランの国益でもあり、また、「共通の利益」に向けてアメリカと連携することで断交中のアメリカとの関係修復の足がかりを得たいとの思惑があるとも報じられています。【3月8日 毎日】

アフガニスタン関連の動きとしては、ロシア外務省が3日、アフガニスタンに駐留するNATO軍の物資を積載した初の輸送列車が2日までにロシア領を通過したことを確認しています。
この後、カザフスタン、ウズベキスタンなどを経由し、アフガニスタンまで輸送されます。
現在の主たる輸送ルートであるパキスタン経由のルートがタリバンに狙われる状況で、ロシア領内を通過するルートは新たな輸送ルートとして注目されていますが、輸送される物資は現時点では、食糧などの非軍事物資に限定されています。

また、オバマ米大統領は7日、アフガニスタン情勢の安定化について、好転に向かってはいないとの認識を明らかにした上で、タリバン穏健派への働き掛けも排除しない考えを示しています。

パレスチナ同様、こうした動きが今後のアフガニスタン情勢にどう影響するのかは不透明です。
これまでもブログで取り上げたように、当事国であるアフガニスタン・パキスタン両国の国内情勢が安定していません。
ただ、これまたパレスチナ同様、何らかの動きがあるということは、若干の期待を持たせてはくれます。

【政権交代による“変化”】
アメリカの新たな外交としては、パレスチナ、アフガニスタン以外では、“リセット”ボタンが話題になったロシアとの核軍縮交渉があります。
核軍縮自体は米ロ双方が望んでいる状況なので合意は難しくないとも見られていますが、ミサイル防衛(MD)計画を含むロシアとの関係改善については、アメリカ国内の対露強硬派だけでなく、ロシアの「覇権主義」におびえる旧ソ連圏の国からも懸念の声が上がっておりオバマ米政権は微妙なかじ取りが求められることになるとも。【3月7日 毎日】
この他、オバマ米政権が、対キューバ制裁の緩和に踏み切るのではないかとの観測がひろがっているとの報道もあります。

政権交代で明確な“変化”が示されることは、その“変化”に賛成するかどうかは別として、国民の側も評価・選択が可能になります。
日本のように、政策とは別次元の泥沼化する政局に終始し、“どっちもどっち”の状況、自民でも民主でもどのように変わるのかはっきりしない・・・という状況では、国民としても判断のしようがなく、次第に政治から関心がひいていきます。



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