孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

深刻化する東欧経済 西欧諸国の保護主義的施策に“鉄のカーテン”批判

2009-03-09 20:52:26 | 国際情勢

(経済危機が深刻化する中・東欧諸国のひとつバルト三国のラトビア。
ラトビアの首都リガでは1月中旬、民主化後最大の約1万人が反政府デモに参加、大統領に首相解任を求めました。デモの一部は暴徒化し、商店の破壊や略奪行為を起しました。
ザトレルス大統領は2月20日、ゴドマニス首相率いる内閣の総辞職を受け入れることを発表しています。
“flickr”より By Pēteris Nukša
http://www.flickr.com/photos/peech/3195617215/)


【債務不履行の懸念】
個人的にはヨーロッパにはあまり関心がありませんが、特に“東欧”は縁遠い地域です。
そんな東欧について、下記の記事がありました。

****東欧に全体的な債務不履行は見られない=ECB専務理事*****
欧州中央銀行(ECB)のビーニ・スマギ専務理事は6日、金融危機の影響を受けた東欧諸国について「全体的な債務不履行(デフォルト)」は見られない、との認識を示した。
専務理事は当地での会合で、東欧地域は「将来のマーケット」であるとして、西欧諸国が支援を行うべきとの考えを示した。
専務理事は、深刻なケースはあるとしながらも、全体的なデフォルトは否定した。最も悪影響を受けた国や必要とされる措置については明らかにしなかった。【3月7日 ロイター】
*********************

世界的な不況によって、東欧諸国の経済状態は“債務不履行(デフォルト)”が懸念されています。
IMFはすでにハンガリー、ラトビア、ウクライナの救済に踏み切っており、ルーマニアも協議の対象になっています。
ルーマニアやラトビアの国際は、民間格付け会社の評価で“ジャンク”扱いに引き下げられています。

このことは、民間銀行の融資や工場立地などで深い関係にある西欧諸国との間で軋轢をおこしています。
西欧諸国も金融危機・世界不況によって発信元のアメリカ以上に深刻な状況ですが、東欧諸国の今後の推移によっては、東欧向けの債権焦げつきという形で、西欧諸国経済に更に大きな影響(悪い方向で)を与えそうな状況のようです。

【鉄のカーテン】
****EU特別首脳会議:「内部対立」懸念の声も****
1日開かれた欧州連合(EU)の特別首脳会議は金融危機に見舞われている中・東欧諸国の支援も協議され、EUの結束を強調した。だが、実際には「保護主義」の動きが目立ち、「景気が悪化するにつれ、ユーロ圏と中・東欧の対立が強まる」との悲観的な声が強まっている。
「欧州に新たな鉄のカーテンを下ろすべきではない」。ハンガリーのジュルチャーニ首相は、東西の冷戦になぞらえて、ユーロ圏と中・東欧諸国の分裂に警告を発した。

フランス政府が2月に公表した自動車大手への金融支援に、EU議長国で自動車工場に雇用を依存するチェコは猛反発。なおユーロ圏と中・東欧の分裂の火種は残されている。今回、ハンガリーが求めた基金創設や、ユーロ加盟への緩和手続きなども容易に進みそうもない。

中・東欧諸国はユーロ圏からの借金をテコに急成長を遂げたが、その資金の急激な流出で、通貨や株が急落。企業破綻(はたん)が続発し、デモや暴動も発生し、ラトビアの内閣は先月、総辞職に追い込まれた。国際機関は3兆円規模の金融支援を表明しているが、信用収縮が収まるか不透明だ。
ただ、中・東欧諸国への融資の約90%がユーロ圏の金融機関との試算もあり、「東欧が行き詰まれば、西欧も倒れるのは自明の理」(英シンクタンク)。景気後退に突入している欧州が共同行動を取れるか注目される。【3月2日 毎日】
**************************

西欧の銀行は、東欧向け融資残高1兆7000億ドルのうち、1000億~3000億ドルを損失処理する必要に迫られているとか。【3月11日号 Newsweek】
東欧向け融資が焦げ付けば、大量の「トキシック・ペーパー(有毒証券)」をアメリカから購入している西欧金融機関は更に大きな打撃を蒙ることになります。
特に、オーストリア、スウェーデン、ベルギーなどの金融機関が東欧に貸し込んでいます。
例えばオーストリアの場合、GDPの60%にあたる金額を東欧に貸し付けており、オーストリアの銀行株は軒並み値を下げています。
また、金融に限らず産業面でも、例えばドイツの場合、07年の輸出の16%が東欧向けで、ドイツGDPの6%に相当する額だそうです。

【再び二つに分裂する危機】
こうした状況を打開すべく、中・東欧支援を・・・ということになるわけですが、上記記事にもあるように、各国とも自国に降りかかる火の粉を払うのに懸命で、むしろ“保護主義的”政策も目立つのが現状です。
特に、槍玉に上がっているのが、フランス・サルコジ大統領の発表したフランス自動車メーカー支援策です。

サルコジ大統領は、ルノーなど国内自動車メーカー3社に対し公的資金65億ユーロを低利融資することにしましたが、その条件として、この公的資金はフランス国内工場の操業維持のために使い、チェコの工場を閉鎖するように求めています。
随分と露骨なサルコジらしい施策ですが、さすがに欧州委員会の競争政策担当委員が「EU単一市場の原則に反する」と批判しています。
東欧などの子会社から資金を引き揚げるように自国銀行に指示した国もあるとか。
こうした事態を、ハンガリーのジュルチャーニ首相が“鉄のカーテン”と呼び、欧州分断の危機を訴えたという次第です。

“EUは、加盟各国が協力して経済危機に対応する重要性を強調するが、自国の経済対策で手いっぱいの英仏独など主要国は東欧支援に消極的なのが実情だ。それだけに、金融危機を通じて西欧との「経済格差」が一層広がり、欧州が二分されてしまう-という強い危機感がかつての「カーテン」の東側で募っている。”【3月8日 産経】

中・東欧諸国は特別首脳会議の際に個別にミニ・サミットを開き、ハンガリーが中・東欧支援のための1900億ユーロ規模の基金創設や、ユーロ圏加盟手続きの迅速化などを求めました。
しかし、結局ハンガリーが求めた大規模な金融支援では一致しませんでした。
なお、ユーロ加盟手続きの迅速化については、フランス、ドイツなどが「将来の検討の用意」を表明しています。

ベルリンの壁崩壊から20周年を迎える今日、ヨーロッパは再び二つに分裂する危機(ゼーリック世界銀行総裁)に直面しています。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする