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諸富徹「時間かせぎの資本主義」(思想2019)

2021-01-12 | 気になる本

 政府のコロナ対策が後手後手の無策で、Gotoキャンペーンを進めた自公政権の失敗である。実態経済は厳しいけれど、金融量的緩和でカネが余り株価だけが異常に上がっている。広井「ポスト資本主義」、諸富「資本主義の新しい形」、白井「武器としての資本論」、斎藤「人新生の資本論」など、資本主義の矛盾と限界がコロナ禍で顕著になっている。

 この論文で、国の借金を日銀が引き受け、国会でまともな議論もされないまま、財政民主主義が損なわれているとしている。以下、要点である。(  )内は私のコメント。

 諸富徹「思想」2019.9『財政・金融政策の公共性と財政民主主義-「時間かせぎの資本主義」と日銀の量的緩和政策』岩波書店

 日銀の量的緩和はチェックアンドバランスの外に置かれているのではないか?量的緩和に政策は、財政政策と同等以上に国民経済に大きな影響を及ぼす。その意思決定は、「中央銀行の独立」の名の下に国民から遠ざけられている。日銀の国債買い入れなしに財政支出の現行水準を維持するのは困難である。2018年度予算では、税収は歳出の6割を賄うにすぎず、予算の35%が公債で賄われている。量的緩和政策を財政民主主義の対象とすべき根拠は、①財政は国債の発行無しに困難であるが、財源の国債への依存は、財政民主主義を掘り崩す傾向がある。②量的緩和政策が、目に見えない形で所得移転を引き起こしている。金融政策の場合はその影響が予算として示されることはなく、定量的に把握しにくく、国民に感知されにくい。

 政府の新規国債発行額は40兆円から30兆円に減少しているが、その一方で、日銀は80兆円もの国債を買い入れてきた。2017年度末で459兆円にもなる。財政民主主義は、歳入・歳出を包括的にカバーする予算の仕組みを通じて、議会のコントロール下にあってこそ有効である。租税は現存世代から徴収されるために、有権者の厳しい抵抗を引き起こすが、国債発行は将来世代へに負担の先送りである

 リーマンショック後、金利水準がゼロ近傍に下がって、さらなる金利操作の余地は限られている。先進国の中央銀行は、貨幣供給量を拡大し、実態経済に働きかける方法を新たに開拓した。それが量的緩和政策である。

 インフレは負債の名目金額が一定に維持される場合、実質的な負担を引き下げる効果をもつ。量的緩和政策の分配の影響で、①物価上昇によって、消費者は事実上「消費増税」に等しい効果がある。国債の大量発行で、我々は税負担以上のサービスを受けている。そして痛税感を覚えない。②量的緩和政策は、金利を政策的に低く押さえこむ。借金を抱え込む企業・個人には好ましい。③為替レートを切り下げる。円安誘導である。諸研究は、金融緩和政策の不平等化効果の強調である。

 量的緩和政策が終了する際に、日銀が巨額損失を被る可能性である。戦後、「預金封鎖」と「新円切り替え」という手法で強制的に国民が保有していた旧円を無価値化し、さらにドッジラインでデフレを終息させた。日銀は透明性と説明責任を果たしているか?物価安定目標2%が遠のいても、撤回を拒否するゆえに、政策選択の手段を狭めている。「出口」はますます見通せない。(*コロナで借金が大幅に増え、ますます「出口」に引き返せない。実態経済と離れ、だぶついたお金は株価つり上げに向かっている。)

 1980年代に中央銀行はインフレを終息する政策を実行し、成功した。同時に、政府は規制緩和と民営化を進めることで、利潤率の回復を試みた。財政危機に陥った国家は、歳出削減つまり緊縮財政を求めた。クリントンと橋本政権が、財政再建に取り組んだ。人事と目標設定で政権に縛られた日銀は、本来の独立性を発揮できないまま、暫定的な国債大量購入のはずが、なし崩し的に恒久化しつつある。日銀もまた、資本主義の「時間かせぎ」のメカニズムの一環に組み込まれた。

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