諸富 徹(2020)『資本主義の新しい形』岩波書店
製造業は電気で敗退し、自動車も電気化や自動運転などの転換期にある。デジタル化は遅れていて、政府も慌ててデジタル庁を打ち出したが、製造業のコスト削減、賃下げ、労働者の非正規化など人的資本の削減が続いてきた。経団連・経営者がこれまでを反省し、「資本主義を持続可能で公正」なものにできるか、まず構想を示して欲しい。CO2の削減、同一労働・同一賃金、非正規の削減、そして内部留保を労働者、地域の社会的還元するなどの方策が示されなければ、今後の未来に希望が持てない。著者は問題点を指摘しており、以下その要点の抜粋である。
アメリカ産業の主役は「デジタル化」で、日本企業の製造業は復活どころか、ビジネスの位相についていけない。韓国、台湾、中国に敗れた。本書は1970年代以降に進展した資本主義の構造的変化を、「資本主義の非物質的展開」と規定し分析する。
ものづくりに励む企業は、顧客が何を望むか理解することなく製品を作った。人が望むのはモノそのものよりも、快適性、安全性、デザイン性、シンボル性など非物質的要素に移行している。本書のテーマは、「資本主義をいかに持続可能で公正なものにするか」である。
ハンセンガ1938年の講演で、アメリカは長期停滞を主張した。それは、①人口が減少する、②大規模な投資を誘発するイノベーションはない、③領土拡大による投資機会がない。人々の貯蓄性試行が上昇するのは、①所得と富の分配が不平等化、中低所得者層の実質的所得が減少、②高齢化で将来に備え貯蓄に励む。(政府も年金を当てにせず、2000万円貯めよと喧伝)公共投資の乗数効果は、60年代の5が、90年代半ばに1.24と1に近づいている。
P28日本企業における「利益剰余金(内部留保)」の増加傾向で、財務省が発表した2018年度の法人企業統計では、内部留保が前年度比3.7%増の約466兆円と、7年連続で過去最高となっている。格差拡大と消費低迷は多くの指摘がある。内部留保にはストックとフロー(企業の当該利益後の当期純利益の中から株主に配当を支払った後に、企業の手元に残された金額を指す)があり、世界で実施されてきた課税は、フロー概念の内部留保への課税である。内部留保は増加傾向にあり、投資に回り、経済を活性化したか。2000年以降顕著な伸びをしたのは、「現金・預金」であった。顕著に伸びたのは有価証券で、設備投資は停滞である。P36それは、①企業はリーマンショックの経験から、企業内部に資金的な備えが必要というもの。②「投資機会の喪失」である。設備投資の低迷は競争力の低下で不正を生む。日産、スバル、三菱自動車、スズキ、神戸製鋼、三菱マテリアル、日本ガイシ、宇部興産、IHI,住友重機、東洋ゴム、KYB,日立化成など名門企業である。背景に、①人口減少、②短期利益の拡大、③株主への配当、がある。P90日本企業が市場を失う理由は、売上原価を重視したものづくり傾向にある。
過去3~40年は技術進歩で、経済を成長させたが、他方で中間技術職の労働需要を落ち込ませた。こうして社会的投資は、人への投資こそが成長を生み出す原動力であることを明らかにした。日本の経済産業省の方針は、「産業技術を日本に残す」という美名で何とか低生産性企業を生き残させるべく、巨額の公的資金を支えに「日の丸連合」を形成することに注力してきた。
脱炭素化に向けた取り組みは不可避なのに、経団連、鉄鋼連盟、電事連などいつまでも理由を並べたて、カーボンプライシングの導入に抵抗している。産業を現状維持するだけで、その延長線上に明るい未来が開けるのか。デジタル化も再生可能エネルギーも日本企業が出遅れた。スウェーデン政府は低収益企業で解雇される労働者を手厚く保護すると同時に、積極的労働市場の下で教育訓練投資を行い、高収益企業へ転職できるよう支援する。こうして同一労働・同一賃金制度は、低収益企業に対して収益向上の圧力を加える。
P177資本主義新時代の経済政策は、①資本主義の非物質主義的転回にどう対処するか。②労働生産性と炭素生産性の低迷をどう改善するか。③不平等・格差の拡大をどう防ぐか。に集約できる。
ものづくりで遅れた日本、ひたすら経営者はコスト削減で対処しようとした。工場移転、賃下げ、リストラ、労働者の非正規化である。その結果、生産現場の疲弊と技能・士気の低下である。有名企業の検査不正等はその反映である。
人的資本投資は、資本主義の非物質主義的転回につれて、確実にその重要性が高まっていく。企業でも政府でも、人的資本に投資を節約するところに、発展はない。日本政府は余りにもこれが少ない。最近の傾向として中途採用を増やしている。トヨタは2019年度の総合職に占める中途採用の割合を、前年度の1割から3割にするという。
P205量的緩和の問題は間接的に物価上昇を引き上げとした点にある。日本では、同一労働・同一賃金で緩やかに賃上げし、人々の購買力を高め、民間消費を拡大し、総需要を引き上げ、物価上昇を誘導することができるだろう。「日本人の勝算」2019でアトキンソンは、賃金上昇こそが経済成長をもたらす、と唱えた。日本をはじめ先進諸国は、成長が実現しても「トリクルダウン」は起きず格差は広がるばかりであった。
株式時価総額ランキングで、1996年にトップ10に日本は2社、トヨタとNTTがあったが、2016年は製造業が後退し、デジタル産業の台頭である。日本企業は欄外である。次の20年は気候変動がさらに深刻化する。生き残る企業は脱炭素化に実践で示すことのできる所だけであろう。