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平成不況の本質

2013-06-23 | 気になる本

大瀧雅之(2011・12)『平成不況の本質』岩波新書
 気になる本の記述は評論というより、何が書いてあったか備忘録、感想に近いものです。はじめにで、本書の時代区分は80年後半を「バブル期」、90年代を「失われた10年」、2000年代を「構造改革期」としています。構造改革は橋本内閣あるいは土光会長からとも言えますが、本格的には小泉内閣からと言えます。この後に構造改革の破綻で民主党政権ができました。しかし、あまりにも拙速な政治主導で理想追求から、結局旧来の自民党政治への回帰でした。12年末の総選挙は自民党の圧勝と「第3極」の前進でした。日銀とタグを組んだアベノミクスの3本の矢はどこまで飛ぶのでしょうか。今や株価急落で失速しつつあり、3本目の成長戦略は派遣社員の継続、労働者の首切り緩和です。
 「不況の現実で」デフレ→不況は誤りとしています。デフレは物価が継続的に低下する減少で、不況は国民経済が継続的に低下する減少をさすとしています。しかし、因果関係がないとは思えません。車が輸出好調で貿易黒字になり、強い日本の大企業で円高になる、輸出競争力の強化で材料や賃金が引き下げられる、購買力が落ちて安いものしか売れないというサイクルがあります。トヨタの車やユニクロ商品がいい例でしょう。庶民は牛丼280円とか安いものしか食べられない。若者は新車が買えず、旅行も行けない。賃金の低いのと非正規の不安定雇用が不況の一番の原因だと考えます。成長、成長と経団連や政府はいいますが、「経済成長至上主義からの脱却を図らねばなるまい」という見解は同感です。
 リフレ論とは、デフレが不況の原因であり、それは金融政策の誤りにあるという考えのもと、超金融緩和政策をとり、インフレにすべきだという主張です。低金利の時代だから金利も下げられず、貨幣供給量が増加し物価は上がっても景気回復に成らず、ハイパーインフレの危険性を持つと警告しています。
 「賃金はなぜ上がらないか?」は、重要なテーマです。労働組合の弱体化もあり、労働分配率の低下があります。ワーキングプアの増大により、相対的に高い公務員の賃金攻撃が進んでいることなどもあります。ここではマクロで構造的なカラクリを解明しています。長期不況の要因の1つに金融市場の崩壊、金融機関の保護行政を挙げています。金融機関の整理・淘汰があればアジア金融危機とリーマンショックは軽微に終わっただろうと指摘しています。もう1つが対外直接投資としています。そして、「産業空洞化とは、企業の対外直接投資により国内の雇用が減少することを指す」と、単純明快です。データから構造改革期に失業率の増大が著しいとして、理由は「東アジアを中心とした低賃金の魅力を求めて企業が、国内投資を控え対外直接投資へ向かったから」としています。「80年代と2000年代は、産業空洞化が著しく進んだ時期」とし、「日本は失業と利潤を輸入し、雇用機会と資本の輸出をしていた」と解明しています。90年前後は産業空洞化論が賑わいましたが、地域格差や産業部門の違いがありました。自動車などは02年から07年までは対米輸出は絶好調でした。リーマンショック後の現在、技術の継承問題もあって電気機器の空洞化は顕著なものがあります。(この本が書かれる前までは電機機器の「衰退」はそれ程でもありませんでした。)輸送機器、電気機器など国の産業政策の恩恵で「世界をリードするようになったわけではない。すべては現場の匿名で多様な学歴を持つ人々の勤勉な努力によって成し遂げられた」という指摘は傾聴に値します。現在は自動車産業も空洞化が進行しつつあります。この背景に日本的経営を捨て、アメリカ化があります。「能力給というものは、企業の業績を完全に個別社員の貢献に分解できることを前提としているわけであるから、それは企業と言う組織あるいはコモンズの自己融解としか考えられない」としています。公務員の成果主義も、住民への奉仕、仲間の協働から自己利益の追求に走らせます。
 アメリカに顔を向けた経済学者が多いこと、御用学者が多いこと、偏差値教育などを批判しています。アメリカの圧力による規制緩和で大店法の改悪がされ、地方都市ではシャッター街が増え、コミュニティのあるまちづくりが失われたことを嘆いています。この問題の著書も期待します。最後に公正な所得分配を求めて、所得税の高額所得者優遇をやめること、証券優遇税制をやめることを提言しています。政治家たちはその恩恵を受けている人が多い、どの政治家も似たり寄ったりとしていますが、後段の部分は必ずしもそうではないと思います。消費税反対の党、企業・団体からの政治献金を貰わない党もあります。参議院選挙で国民がどう判断するかに関わると考えます。数式は理解しにくい点もありますが、マクロな視点から日本経済の大局を理解するには興味深い本です。(今年は我が家の車庫に10数年ぶりにツバメが巣を作りました。写真は4羽のヒナが親の餌を待っているところ。お陰でシャッターが締められません。)
コメント
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