Con Gas, Sin Hielo

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「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」

2018年12月28日 19時34分44秒 | 映画(2018)
人生は、与えられた武器でどう闘うかということ。


近年、障害者のイメージが変わりつつあることを感じる。障害者が作る障害者のためのバラエティ番組としてEテレの「バリパラ」が注目されたのはつい最近のことだし、「五体不満足」の乙武洋匡氏が週刊誌に不倫関係を報じられて炎上したのもここ1~2年の話だ。

これまで障害者といえば、いわゆる健常者側から何かを施さなければいけない存在と見なされていたが、彼らからしてみれば他の人たちと何が変わるものでもなく、できるだけ普通に扱ってほしいというのが本音である。

多様な存在を受け入れることが当たり前の時代となったことで、LGBTなど他の少数派と同様に身体障害者の声も少しずつ世の中に通るようになってきた。

他方、本作の舞台は20年以上前の1994年。まだ理解が進んでいない時代を、筋ジストロフィー症を患い全身を動かせなかった鹿野靖明氏がどう生きたのかが描かれている。

当時の鹿野氏は34歳。日々の生活は身の回りを24時間体制で世話するボランティアに頼る暮らしを送っていた。

しかし冒頭の彼はそんな境遇を憂うどころかボランティアに対して文句を言い放題。何なんだ?この人物は。

そんな障害者への先入観と実際の彼の違和感を端的に表したのが表題である「こんな夜更けにバナナかよ」である。

もう一人の主役となるのが、偶然と誤解から鹿野氏のボランティアチームに加わることになった美咲である。彼女にとって映画の冒頭が鹿野氏との初対面なので、彼への違和感を観客と共有するという役回りにもなっている。

正直な彼女は鹿野氏へ言い放つ。「あなたはいったい何様なの?」「もう二度と来ない!」

この言葉を受けた鹿野氏は一転して彼女へ謝罪の手紙をしたためる。もちろんボランティアの代筆でだが。

なぜ彼がここまでわがままなのか。そんな彼に何故たくさんの人たちがボランティアとして集まってくるのか。時間を経るごとに、彼の様々な行動を見るうちに、自分の気持ちに正直に生きようとする懸命な姿勢が伝わってくる作りになっている。

彼が生きた土地が北海道ということもあっての主演・大泉洋と思われるが、北海道に関係なく宛て書きされたのではないかと思うほど役にハマっていた。憎まれ口を叩きながらも人をひきつける吸引力をここまで説得力を持って演じられるのはさすがの芸達者ぶりである。

美咲役の高畑充希も好演だった。彼女の大きな目は喜びや怒りや戸惑いを表情豊かに使い分ける大きな武器である。あの目で至近距離からにらまれたら、鹿野氏ではなくても、それほど好みではないはずでも「ぐっと来る」。

上で述べたとおり障害者は決して特別な存在ではない。この映画はある人物を中心とした出会いと気付きの物語である。ここから学ぶのは障害者がどうのではなくて、自分の人生をどう生きるかという鹿野氏が貫いた姿勢にあるのだと思う。それはラストの両親や美咲たちの姿に表れている。

(80点)
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