原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

対称性の破れ

2008年10月10日 | 学問・研究
 今年のノーベル物理学賞を受賞した日本の物理学者3氏を祝福申し上げる意味で、大変無謀ではあるが、本日の私の拙いブログ記事で今回の物理学賞理論の内容のごく一部をほんの少しだけ取り上げることにより、3氏の受賞を讃えさせていただくことにしよう。
(ノーベル物理学賞受賞に関連する朝日新聞記事及びテレビ報道、その他文献を参照しつつ綴っていく。)


 今回の日本の物理学者3氏の物理学賞受賞のキーワードは、「対称性の破れ」に集結されるようである。
 素粒子論を知らずとも、この言葉の発する何やら哲学的な感性的魅力に触れるだけで、十分に素粒子論、そして物理学の世界へと誘われる思いがするのは私だけであろうか。


 さて、自然界には、どっちの方向を向いても物理法則の形は変わらないとか、同様に時間が経過してもやはり法則は変わらないといった、「対称性」と呼ばれる重要な性質がある。
 例えば、折り紙を真ん中から折ればぴったり重なる。例えば、円を真っ二つに切るならどこで切っても半円同士は対称形である。それを回転させても、その位置が変わっても対称のままである。

 中国人はこれと似た概念をもっているそうである。半円の一方を「陰」、もう一方を「陽」と呼ぶ。陰があれば陽があり、高があれば低がある。昼があれば夜があり、死があれば生がある。この中国の陰陽の概念は、事実上「対称性」に基づく古い法則であり、しかも物理的世界がそれ自身の内で均衡を保とうとする一つの全体であることも表現している。

 宇宙の誕生時には、物質と反物質が同じだけある「対称」な世界だったと考えられていた。ところが現実には、その「対称」な性質が“破れて”いるようにみえるときがあり、物質が多くて反物質が少ない非対称な世界になっていることがわかってきた。物理の世界では、なぜそうなっているのかは大きな謎である。

 1961年に、受賞者のひとりである南部陽一郎氏は、素粒子の世界で自然に対称性が破れていく現象を世界で初めて定式化した。折り紙で言えば、どう折っても重ならない形に自然に変わってしまうことがあるということになる。この理論のお陰で、物理学の多くの分野の現象が説明できるようになった。

 小林誠氏と益川敏英氏は「CP対称性の破れ」理論において、対称性が成り立たない“破れ”の原因を、クオーク(陽子などを作る素粒子)の種類をそれまで考えられていた4種類から6種類に増やすことで解き明かした。
 宇宙の始まりの大爆発(ビッグバン)で、普通の粒子と反粒子が出来た。宇宙では対称性が成り立っていて両者は同数と考えられていた。ところが両者が出合ってどんどん消滅し光などに変化しても、粒子が残ったのは“対称性の破れ”現象によるためなのだそうだ。


 ノーベル物理学賞受賞者各氏による対談報道によると、素粒子に限っていえば標準模型といわれている理論に関する実験的な検証はほぼ終了しているそうである。その先の課題の一つが重力の理論であり、もう一つが超対称性理論であり、この二つはつながっているかもしれず、今後かなりの概念の飛躍が必要となるとのことだ。
 従来のニュートン力学への固執との決別も視野にいれ、物理学における哲学的な思考がますます欠かせない時代へと移り変わりつつあるようだ。
(本ブログ学問・研究カテゴリーのバックナンバー「量子力学的実在の特異性」も参照下さい。)
 
 “対称性の破れ”が創り出す素粒子の世界。
 物理学の分野にとどまることなく、“対称性の破れ”理論は我々が生きているこの世界の外面的、内面的な諸現象を創り上げているような気さえ私はする。
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