「わしは肉が食べられないのや」と患者さんが答えました。80歳前の男性です。豚肉が美味しいことで知られる鹿児島県の島育ちですが、「子どものころ、脂身ばかりの豚肉を食べさせられたせいか、豚も牛も食べとうないのや」といいます。「年を取ってもタンパク質は摂らなければいけませんよ」と話したところ、こんな回答が返ってきました。
子どものとき、病弱だった患者さんは、栄養をつけるため、親から肉を食べるよう勧められたが、どうしても手が出なかったそうです。
そういわれて思い出しました。私も大人になるまで肉が嫌いでした。原因ははっきりしています。小学校の学校給食で出てくる豚肉がめちゃめちゃまずかったからです。脂身だけで、薄くて波打った豚肉が給食のいろんな料理に入っていました。噛むとまずい脂が口の中に広がり、思わず吐きたくなるまずさです。飲み込むようにして食べました。
それ以来、豚肉はまずいものだという認識が頭に植え付けられました。とはいっても、当時1枚50円だったトンカツは好物で、月に1回か2回、トンカツが並ぶと妹と一緒に歓声をあげたものです。ころもがついていない豚肉はおいしくないと思い込んでいたようです。
肉はもっぱら鯨肉でした。捕鯨が盛んだった時代で安くて、ちょっと硬かったものの、おいしくいただきました。牛肉が食卓に出ることは記憶にある限りありませんでした。すき焼きを初めて食べたのは中学生になったときでした。予期せぬ収入が入ったのか、父がすき焼きを食べに行こうと言い出し、家族4人で出かけました。牛肉のおいしかったこと、文字通り舌鼓を打ちました。
貧しい時代でした。それに冷凍技術が発達していなかったので、肉の保存も難しかったのです。3000円で焼き肉食べ放題の時代が来るとは思いもしませんでした。
患者さんに「豚の赤身も食べられませんか」と尋ねると、「赤身なら豚でも牛でも食べるよ」と話していました。
赤身も硬くてまるでボロ雑巾を食べている感じがし、脂身もゴリゴリで甘すぎてツンと刺激が来るようなとんでもないまずさで下手をすれば吐いてしまうレベルになります。
あのような肉はどこから仕入れるのでしょうかね、普通の飲食店で出したらクレームものですし、今の給食でもあんなのが出ているのかが気になります。