水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (4)暗示(あんじ)

2019年06月22日 00時00分00秒 | #小説

 受験シーズンともなれば、神社仏閣が多くの参詣(さんけい)客で賑(にぎ)わう。もちろん、神様や仏様の有り難いご利益(りやく)を頂戴(ちょうだい)して合格させて貰(もら)おう・・という厚かましい意図(いと)でのお参りだ。参る方は助かりたい一心なのだが、神様や仏様にすれば、そう暇(ひま)を持て余している訳でもないから、忙(いそが)しくなってお弱りのことだろう。
『チェッ! これしきのお賽銭(さいせん)でアノ大かいっ! 厚(あつ)かましいにもほどがあるっ!』
 とは、お思いにならないだろうが、忙しくなるのはお望みではなかろう。^^ そして、合格を果たせば、浪人しなくて助かった…と、そのご利益を有り難く思う訳である。だがこれは、ご利益というより自己への暗示によるところが大きいのだ。それは信心する心が強ければ強いほど増幅される。
 W杯[ワールド・カップ]たけなわの、とあるサッカー場である。観客席には自国チームを応援しようと、多くのサポーターが詰めかけている。試合は1-1で、このまま終了すれば予選敗退、勝てば勝ち点が上回り、決勝トーナメントへ進出できるという、際(きわ)どい剣が峰の一戦だった。
「ダメそうだな…」
「そんなこたぁ、絶対ありませんよっ! きっと勝ちますっ! 今に点が入りますっ!!」
「そうかい? …残りはアディッショナル・タイム6分だよっ!」
「ははは…大丈夫! 6分もありゃ~ぁ! コレがありますっ!」
 訊(き)かれたサポーターは自信ありげに胸元から特大のお守りを取り出した。
「なんだい、そりゃ!?」
「ははは…こういうものですよっ! お、お頼みいたしますっ!!」
 特大のお守りを取り出したサポーターがお守りを頭上(ずじょう)に掲(かか)げたそのときだった。観客のどよめきが一層(いっそう)、大きくなった。応援チームに貴重な追加点が入ったのだ。
「ねっ!!!」
「ああ!!!」
 暗示は助かる力となる。いや、助かる力となる場合もあるという、そんな曖昧(あいまい)なお話である。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする