水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん]

2009年10月20日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第七話)秋霖[しゅうりん]

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

.小学校の教室 昼
   タイトルバック
   雨空。陰鬱にシトシト降る雨。給食中。窓際に座り、給食を食べながら降る雨を眺める正也。
  N   「雨が陰鬱にシトシト降っている。昨日は清々(すがすが)しい快晴で、学校の遠足がある日だったので助かったし、充分に満喫
       させて戴いて本当によかった。万一、今日だったらと思うと、
ぞっとする」
   運動場にシトシトと降る雨。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん]」
   キャスト、スタッフなど

2.細い道路 昼
   下校途中の正也、雨傘をさして、トボトボと歩く。シトシトと陰鬱に降る雨。

3.家の玄関・外 昼
   帰ってきた正也、傘を閉じる。戸を開け玄関内へ入る正也。

4.家の玄関・内 昼
   靴を脱ぎ、框(かまち)へ上がる正也。靴を揃える正也。

5.勉強部屋 夕方
   机前の椅子に座り、宿題をする正也。机上でノートに鉛筆を走らせる正也。ふと、頭を上げる正也。外の様子を見ようと、窓を開ける
   正也。止みそうにない、庭に降る
陰鬱な雨。

  N   「帰っても、雨はいっこう止む気配を見せず、ただ降り続いていた」
   
机を立ち、部屋を出る正也、居間へ向かう。

6.居間 夕方
   居間の渡り廊下から庭を眺める恭一。やってくる正也。
  正也  「父さん、今日は早いね」
  恭一  「ん? ああ・・。会社の接待が早く終わってな」
  正也  「ふ~ん、そうなんだ…」
  恭一  「よく降るなあ。まあ、今の雨は梅雨と違ってモノが黴(かび)ないからいいが…(誰に話すでな
く)」
  正也  「ほんと、よく降るね…」
  N   「大人なんだから、もう少し子供を唸らせることを云えよ…とは思うが、一家の長である以上、
そんなことは口が裂けても云えな
       
い」
   バタバタと通り過ぎる未知子。ただ雨を眺める恭一と正也。
  未知子「洗濯ものが乾かないから困るわ…」
  N   「母さんも、この秋霖にはお手上げのようだ。主婦泣かせの雨、それが秋霖か…と、思った」  

7.台所 夜
   夕食中。家族四人がテーブルを囲む。テレビの天気予報官が秋霖を説明している。
  恭之介「間引き菜のオヒタシは美味いですねえ…(未知子へ語りかけるように)」
  未知子「はいっ」
  恭一  「父さんの、お手間入りですから…」
  恭之介「当たり前だ。秋霖の時期は、すぐ苗が大きくなる。それに雨降りは何故か畑へ行き辛い…(予
定外の者の言葉に嫌々、答える
       ように)」
   沈黙して、箸を動かす恭一。
  未知子「でも地面が濡れて土埃(つちぼこり)が家の中へ入りませんし、掃除は助かりますわ、お父さ
ま」
  恭之介「はあ、それはまあ、そうでしょうな…」
   静かになる食卓。テレビの声。
  N   「僕は最初、どっちだっていいやと思っていた。ところが、よ~く考えれば外で遊べないから、や
はり青空が広がる爽快な晴れの
       日がいい、という想いに至った次第である。晴れの日だと、じい
ちゃんの頭が光沢を増すという特典も加味される楽しみもある
       から、そろそろ秋霖は御免蒙
りたい」
   F.O
   タイトル「秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん] 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん]」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第十三回

2009年10月20日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第十三回
 この荒技は若き幻妙斎(妙兼)が、さる流派の忍び衆から会得した技であった。直接の剣技ではない為、儀の巻末に添え書かれたという経緯をもっている。刺客に不意討ちを仕掛けられた場合や、急に身の危険が迫った場合などの非常手段として用いられる技であった。この技は皆伝が允許(いんきょ)された者だけに伝えられた。その特殊技を数度も目の当たりにした左馬介である。門弟中、こうした数度もの体験をした者はいないだろう。いや、一度として見たことのない者も多いのではないか…と、左馬介には思えた。しかし、自分だけが何故、師と出逢う機会に恵まれるのかという素朴な疑問は、未だ解明
出来ぬ左馬介であった。
 左馬介と樋口以外の謹慎蟄居の命が解ける前日となった。蟹谷以下、謹慎八名の口髭は伸び放題となり、頭髪の月代(さかやき)も廃屋の庭に生える雑草の如き様相を呈し、全員の容貌は落人(
おちうど)のようで、むさ苦しくもあった。
 漸く、膳拵(ごしら)えから開放される…という安心感からか、俄かに疲れたように左馬介は感じた。よく考えれば、膳拵えだけでなく、稽古などの全てが平生に戻るのである。勿論、一馬との雑談も自由に出来る訳だ。或る意味、このひと月は、左馬介自身も辛い修行だった…とも云えるのだ。それが明日、終わる…。


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