悲しさが足らないと泣けないのか? と問えば、必ずしもそうでないことが分かってくる。例えば、もらい泣きなんかがそうで、泣くような状況でもないのに、突然、泣いてしまったりする現象がある。また、余りにも悲しみが深いと、茫然自失(ぼうぜんじしつ)となり、返って泣けなかったりするものだ。悲しくもないのに財産目当てで作り泣きする人々の親の顔が見たいものだが、まあ、これは泣くというよりは泣く演技力を心で拍手するしかないだろう。^^
とある火葬場である。告別式が事務的に行われている。なにせ、一日の火葬件数が、この日は七件もあるからだ。職員としては鉢巻を巻くほどの労働環境といったところである。
棺(ひつぎ)の蓋(ふた)が職員によって開けられ、ドライアイスが取り除かれる。火葬に影響がするからだ。
「最後のお別れです…」
心理的には次の霊柩車の到着を気にしながら、職員がしめやかに口を開く。一人の近親者が棺に縋(すが)りつき、突然、泣き出した。職員としては、『ちょっとちょっと! 泣いてもらうと…』の心境だ。そのとき、告別ホール前へ次の霊柩車が到着をする。職員は切羽詰まり、泣く心境となる。
このように、泣く心境になるのは、悲しみが足らない場合でもあるということだ。^^
完