水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (29)気になる

2019年04月08日 00時00分00秒 | #小説

 総(すべ)てを終え、人心地(ひとごこち)ついたあと、さて! 眠るとするか…と身体を横たえた瞬間、ふと、思い出すことがある。そうなるともう眠気(ねむけ)もどこへやら、そのことが気になり始める。『いやいや、まあ、明日でいい…』と心に命じてはみたものの、心は『いやいやいや、それは拙(まず)いんじゃないかっ!』と切り返してくる。それでも、『いやいやいやいや、俺は眠るんだっ!』と抗(あらが)ってみても、心も負けてはいないから『いやいやいやいやいや、それは実に拙いっ!!』と、こう来る。来られれば眠れないから、その対応を考え続けることになり、眠れない。そうなると、遅くまで眠れないまま次の朝を迎え、気分悪く出勤する・・と続く訳だ。^^
 とある町工場である。どうしても納得(なっとく)した板金(ばんきん)が出来ず、年老いた熟練工が頭を抱えている。
「どうしたんっす? 親っさん!!」
 若い工員が覗(のぞ)き込むように熟練工を窺(うかが)った。
「いやな…どうもコレが出来んっ!」
「ああ、それですか…。難しそうなヤツですねっ!」
「ははは…俺でさえ難しいんだっ! そりゃ、お前にゃ相当、難しいだろうっ!」
「もう昼時(ひるどき)ですが、それでもやられるんですか?」
「ああ、気になるから、もう少しやってみるつもりだっ!」
「ちょっと、変わってもらえませんかね?」
「ああ、いいが…。お前にゃ無理だろう、ははは…」
 熟練工と変わった若い工員は、いとも簡単にコレを仕上げてしまった。
「親っさん、どうでしょう?」
「…腹が減ってきた! 先にいくぞっ!!」
 罰(ばつ)悪く、そそくさと熟練工は食堂へと去った。
 本人には出来ないで気になる内容も、他人は必ずしも気にならないから、スンナリと出来るのである。^^

                                  


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