水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<28>

2015年03月22日 00時00分00秒 | #小説

 里山夫婦が帰ってきたのは夕方前の五時頃だった。とはいえ、冬場の五時はすでに暗く、夜、同然である。
「ほれっ! 美味(うま)そうだろう」
 里山がビニール袋から土産っぽく買ってきた缶詰を数缶、出した。小次郎はその缶詰の表示に注目した。
━ なになに…まぐろ&とりささみ・すなぎも・チーズ入り? こりゃ、かなり高タンパクだな。土産(みやげ)って、近くの店でも売ってなかったかな? ━
 浮かぶ疑惑を振り払い、態々(わざわざ)買ってくれただけでも感謝して、ここは有り難く一応、お礼でも言っておくか…と、小次郎は悟り人ならぬ悟り猫の気分になった。
「どうも有難うございます…」
「いや、なに…。明日のスケジュールはなかったはずだ。ゆっくり味わってくれ」
 里山は満足げに軽く小次郎の頭を撫(な)でながら呟(つぶや)いた。小次郎は、明後日(あさって)からまた派遣社員ならぬ派遣猫か…と、昼の国会中継を思い出して呟(つぶや)いた。今日の国会中継は労働者派遣法の改正案が論点だった。テレビ視聴用のリモコン操作については里山から聞かされていた。ただ、小次郎に限らず、猫の場合、指はあるが形だけのもので、人差し指とかの一本で押すと言う訳にはいかない。そこはそれ、頭がいい小次郎のことだから、その辺も抜かりはなかった。鉛筆より少し短めの専用の棒を拾ってきて、リモコンを押す専用棒として誂(あつら)えていた。口で咥(くわ)え、その棒の先で押すのだ。これで、至って簡単にテレビのOFF、ONやチャンネル切り替えは出来た。


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