幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第九十七回
『まあまあ…。アレもコレもという訳には、いきませんから。…どちらを優先しましょう?』
宥(なだ)めながら、幽霊平林は続けた。
「そうだな…。まあ、緊急性を要するのはギリシャの経済危機だがな…。なにせ、ヨーロッパ以外に世界的な金融不安を起こす可能性もあるからなあ~」
『じゃあ、紛争国の一件は、あとに回しますか?』
「ああ…、何カ国かを、もう少し調べにゃならんし、君にしたって、念じる有効規模を調べんとな」
『はあ、それがありました』
束の間、二人の会話が滞(とどこお)った。
結局、二人の進む手順は、ギリシャの経済危機を未然に防ぐことに決した。
「次の土曜までは待てないんだから当然、君が現れて念じてくれるんだろうな」
『はい、そのつもりです。ギリシャ一国のことですが、果して僕の念力がお偉方に通じたり、デモをしたりする過激な国民の心から闘争心を除去できるかは疑問ですが、ともかくやってみます。孰(いず)れにせよ、手を拱(こまね)いているよりは、何らかの効果は少なからずあるはずですから…』
「そのとおり! 頼んだよ、君。おお! もう、こんな時間か。それじゃ、また結果が出たら現れてくれ。当分の間、左手首のグルリ! 呼びルールは、やめよう。緊急事態だからな」
『それは僕も助かります。好きなときに現れて課長に会えますから…』
幽霊平林は、ニタリ! と陰気に笑った。
「ただし、云っておくが、現れるのは報告のみにしてくれよ。その他の、つまらんことで現れられれば迷惑だからな」
『それは、分かってます…』
真顔に戻った幽霊平林は、いつものようにスゥ~っと格好よく消え失せた。