昨日の深夜、藤原正彦・氏の『数学者の休憩時間』を読み終り、
今朝の早朝に同氏の『父の威厳 数学者の意地』を読み始めている。
先程まで昼寝の前に数ページ読んで、眠りについた。
1時間ばかりして目覚めて、少しぼんやりとした状態で考えた。
著者は父の新田次郎・氏、母の藤原てい・女史の両氏の作家の遺伝子を引き継ぎ、
学生時代に数学という学問に熱中し、
類稀(たぐいまれ)な努力の成果として学者の道を歩まれた、
と思ったりしていた。
人生を思索され、数学の未知の分野に苦慮され、文学を考える、
と著者の本を読むたびに深めていた。
私は深夜から考えていが、やはり著者は、まぎれもなく数学者の思考から、
純粋に発露していると思いはじめている・・。
『数学者の休憩時間』の中で、【父の旅 私の旅】に於いて、
父の最期の作品となった取材旅行のポルトガルを父の新田次郎・氏の取材先に準拠した旅をし、
鎮魂曲のように綴られた紀行文である。
この最後の大西洋の夕陽を著者は、丹念に時を過ぎる光景を正確に表現している。
《
サン・ヴィセンテ岬の水平線に太陽が近づくと、空はいっせいに色づいた。
岸壁に立つ私と夕陽を一直線に結んで、海面上に光の道ができる。
それが波のうねりで橙色(だいだいいろ)に輝きながら小刻みに揺れる。
大西洋を隔てて、夕陽と私が対峙する。
赤い断崖は一層鮮やかに輝き、寒さに震えながら立っている私の足元の岩肌も、
白いワイシャツも赤く染まった。
陽がついに水平線に達すると、水面は忽然とその輝きを失い、空が生き物のように色づきを増した、
空の赤は、赤から赤紫そして紫へと連続スペクトルのように変化し、
やがて暗い海につながる。
雲が薄紅色の天空に点々とうかぶ。
私は、
「これがサグレスの夕陽だ。モラエスが見、そして父が見た夕陽だ」
心でつぶやきながら陶然としていた。
夕陽は更に沈むと、海は黒く、天空は深い蒼に変った。
水平線に沿った帯状の部分だけが、悼尾(とうび)の勇とばかりに、
鮮やかな橙色に輝く。
この橙色の帯が、次第に幅を狭め、明度を落とし、ついに海と合体するまでどの位かかっただろうか。
さしも広い台地には、人っ子一人見えなかった。
吹き上げる潮風の冷たさが身にしみた。
襟元わ左手で抑え、腰をかがめ、背を丸くしながらも、私はどうしてもここを離れることが出来なかった。
いつの間にともされたか、サン・ヴィセンテ岬の灯台の灯が、遠くで点滅していた。
》
以上、引用させて頂きました。
尚、原文より改行をあえて多くしました。
私はこの情景、心情を思いながら、3度ばかり読み返した。
時のうつろいの光景を正確に綴り、
まぎれなく純粋な数学者の発露からの的確な表現である。
こうした光景のうつろいの表現として、文学者の発想には乏しく、
著者の父への深い想いが鎮魂曲の調べを奏でるたような名文となしている。
このようなことを夕暮れの霧雨を見詰めて、考えている。
今朝の早朝に同氏の『父の威厳 数学者の意地』を読み始めている。
先程まで昼寝の前に数ページ読んで、眠りについた。
1時間ばかりして目覚めて、少しぼんやりとした状態で考えた。
著者は父の新田次郎・氏、母の藤原てい・女史の両氏の作家の遺伝子を引き継ぎ、
学生時代に数学という学問に熱中し、
類稀(たぐいまれ)な努力の成果として学者の道を歩まれた、
と思ったりしていた。
人生を思索され、数学の未知の分野に苦慮され、文学を考える、
と著者の本を読むたびに深めていた。
私は深夜から考えていが、やはり著者は、まぎれもなく数学者の思考から、
純粋に発露していると思いはじめている・・。
『数学者の休憩時間』の中で、【父の旅 私の旅】に於いて、
父の最期の作品となった取材旅行のポルトガルを父の新田次郎・氏の取材先に準拠した旅をし、
鎮魂曲のように綴られた紀行文である。
この最後の大西洋の夕陽を著者は、丹念に時を過ぎる光景を正確に表現している。
《
サン・ヴィセンテ岬の水平線に太陽が近づくと、空はいっせいに色づいた。
岸壁に立つ私と夕陽を一直線に結んで、海面上に光の道ができる。
それが波のうねりで橙色(だいだいいろ)に輝きながら小刻みに揺れる。
大西洋を隔てて、夕陽と私が対峙する。
赤い断崖は一層鮮やかに輝き、寒さに震えながら立っている私の足元の岩肌も、
白いワイシャツも赤く染まった。
陽がついに水平線に達すると、水面は忽然とその輝きを失い、空が生き物のように色づきを増した、
空の赤は、赤から赤紫そして紫へと連続スペクトルのように変化し、
やがて暗い海につながる。
雲が薄紅色の天空に点々とうかぶ。
私は、
「これがサグレスの夕陽だ。モラエスが見、そして父が見た夕陽だ」
心でつぶやきながら陶然としていた。
夕陽は更に沈むと、海は黒く、天空は深い蒼に変った。
水平線に沿った帯状の部分だけが、悼尾(とうび)の勇とばかりに、
鮮やかな橙色に輝く。
この橙色の帯が、次第に幅を狭め、明度を落とし、ついに海と合体するまでどの位かかっただろうか。
さしも広い台地には、人っ子一人見えなかった。
吹き上げる潮風の冷たさが身にしみた。
襟元わ左手で抑え、腰をかがめ、背を丸くしながらも、私はどうしてもここを離れることが出来なかった。
いつの間にともされたか、サン・ヴィセンテ岬の灯台の灯が、遠くで点滅していた。
》
以上、引用させて頂きました。
尚、原文より改行をあえて多くしました。
私はこの情景、心情を思いながら、3度ばかり読み返した。
時のうつろいの光景を正確に綴り、
まぎれなく純粋な数学者の発露からの的確な表現である。
こうした光景のうつろいの表現として、文学者の発想には乏しく、
著者の父への深い想いが鎮魂曲の調べを奏でるたような名文となしている。
このようなことを夕暮れの霧雨を見詰めて、考えている。