伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

あんちゃん、言ってやったぜ!

2021年05月23日 | エッセー

 歯牙にも掛けずだったらしいのだが、今日、朝日は社会面で次のようにさりげなく報じた。
〈防衛省の抗議に新聞労連が声明 「公権力監視を威圧」
 日本新聞労働組合連合は21日、新型コロナウイルスワクチンの大規模接種の予約システムの不備を指摘した朝日新聞出版と毎日新聞社に防衛省が抗議したことについて声明を出した。声明では、メディアが重大な不正行為が行われる可能性や重大な欠陥を見つけた時に、独自に事実を確認し報道するのは、ジャーナリズムの倫理に基づいた行動だと指摘。行政機関が取材手法を一方的に非難することは「自由な言論活動や公権力に対する監視を威圧し、否定することにつながりかねない」と批判した。〉(5月23日付)
 事のいきさつはこうである。
 東京と大阪に国が設置し自衛隊が運営する大規模接種センターはウェブ予約のみである。そこで、朝日、毎日の記者が架空の接種権番号でも予約できるかどうかチェックしてみた。これができた! 明らかにシステムのバグである。もちろん記者たちはチェック後、すぐに予約を取り消している。その報道に改修を表明したものの、あろうことか岸信夫防衛相が逆恨み、八つ当たりに出た。
〈自衛隊大規模接種センター予約の報道について。
今回、朝日新聞出版AERAドット及び毎日新聞の記者が不正な手段により予約を実施した行為は、本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為です。〉
 と、今月18日ツイートしたのだ。苔生した例だが、サルだって反省する。ところが、反省の「は」の字もない。まるでチンピラのいちゃもんだ。弱者目線で行政の振る舞いをチェックするのはジャーナリズムの基本中の「き」である。それも知らずに「選良」なぞとよく言えたものだ(今では誰も言わないけど)。メディアのスタンスについて、思想家内田 樹氏は医療事故の報道に準えてこう語る。
〈メディアは患者サイドからの「告発」を選択的に報道し、病院側の「言い訳」についてはあらわに不信を示すというのが報道の「定型」になっている。この偏った報道姿勢には、実は理があるのです。「とりあえず『弱者』の味方」をする、というのはメディアの態度としては正しいからです。けれども、それは結論ではなくて、一時的な「方便」にすぎないということを忘れてはいけない。〉(「街場のメディア論」から)
 前記の記者たちはこれに照らして至極真っ当な振る舞いであったといえる。
 さて、岸の愚昧に輪を掛けたのが実兄アンバイ君だ。同日、
〈朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える。防衛省の抗議に両社がどう答えるか注目。〉
 と、ツイート。まるで鬼の首でも取ったようだ。

「あんちゃん、おいら、言ってやったぜ!」
「おう、さすがおいらの弟、よくやった!」

 と高笑い。なんか、マンガのような一コマが浮かんでくる。弟が「悪質な行為」といい、あんちゃんが事例も示さず「悪質な妨害愉快犯」と受ける。裏にはかつての朝日、毎日による偽造報道への揶揄があるとみていい。加えて、「権力の私物化」と散々批判に晒されているてめーの鬱憤晴らしも。
 勘違いしてはいけない。朝日も毎日もキッチリと検証し公表し責任を取り、具体的な対処策を講じている。モリカケのような隠蔽はしていない。資料となる文書が突然雲隠れしたりはしない。
 この一件、最も意を注がねばならないことはゾンビの再来(再々来?)である。病気でリタイアしたはずが、1年も経たずに“お”元気な様子。ますます仮病説が疑われると同時に、再来の悪夢がよぎる。「あんちゃん、言ってやったぜ!」は存外国難級の危機への予兆かもしれない。 □