伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

先祖返り

2021年04月04日 | エッセー

〈荒っぽく括ると『ネットによる現金書留』、それが仮想通貨とブロックチェーンである。もちろんお札やコインはそのままでは送りようがない。ネット用の現金に換える。1500種あるとされるが、例えばビットコインがそうだ。色も形もない電子情報である。しかし「幻想の共有」により仲間内では通貨として使える(仲間は世界的規模に拡大しつつある)。中央集権的な管理がなかった太古の貝殻と同じだ。兌換もできるが、兌換せずとも相手方がビットコインでOKならそのまま使えばいい。だから現金と同等だ。しかし電子マネーは現金の代替物でしかない。〉
 18年2月ビットコインについて投稿した「仮想通貨 愚考<承前>」の抜粋である。大括りするとデジタル通貨、大分けすると「電子マネー」(法定通貨=円やドルなどを基準としたプリペイドカード、スイカ他)と「仮想通貨」(法定通貨を基準としない独自通貨、ビットコイン他)とになる。
 つまり、デジタル通貨 ➔ 電子マネー & 仮想通貨 だ。
 肝は、通貨が「中央集権的な管理」から離れ世界的規模の「仲間内」に移ること。国家から市民へ。つまり『通貨の市民革命』である。とはいってもアナーキーに陥らないために、相互監視の仕組み=ブロックチェーンが用意されている。またビットコインの発行枚数は2400万枚と上限が定められているが、煩雑になるゆえ割愛する。
 さて、仮想通貨といえども自然に湧いてくるものではない。大量のコンピューターを駆使してサイバー空間に作り込んでいく。それをマイニング、日本語では「採掘」という。これには電気が要る。それも想像を遥かに超える大量だ。一節では、スロヴェニア一国の電力消費量に匹敵するそうだ。世界各地で電気の供給量と料金の違いがある。金融センターであるニューヨーク、ロンドン、上海、香港、東京などではどだい無理。そこで新疆ウイグル自治区やカザフスタンなどのいわば辺境地域に白羽の矢が立てられた。石炭、石油の化石燃料を使った安い電力があるからだ。ところが高まる需要は乱開発や環境破壊を呼び起こす。懸念は的外れだという見方がある一方で、ビル・ゲイツをはじめ気候変動問題を悪化させると憂慮する声が上がる。むしろ後者が大勢だ。
 最先端のビットコインを「採掘」するために、野山をリアルに『採掘』する。なんとも珍妙な先祖返りではないか。普及するEVのために必然的に発電量を増やさざるを得ない逆立と同じである。ではFCV(燃料電池自動車)はどうか。問題は水素だ。電気分解で作るにせよ、化石燃料やバイオマスからにせよ電気が要る。これでは前車の轍を踏んでいることにならないか。
 「猫に小判」という。何度か触れてきたが、ユヴァル・ノア・ハラリがいう唯一「認知革命」を起こしたサピエンスにして初めて超えた範である。地球史上、最大の革命といえなくもない。小判は猫にとっては単なる金属でしかない。ヒトは小判に貨幣の幻想を見て取る。一番近いチンパンジーにだってそれはできない。仮想通貨は現代の『小判』である。貨幣の幻想性に加えてサイバー空間の幻想性が重なる。二重の幻想性だ。新しい認知革命が迫られているともいえる。時代に置き去りにされてはなるまい。と同時に、新時代の貨幣が古(イニシエ)の工法によって生み出されるという希有な先祖返りに一驚を喫する。なんだか面白くなってきた。 □