羽 音 「病めるときも」から 三浦綾子 朝日文庫 昭和53年発行
東京から北海道へ転勤してきた堀川慎二と妻の紗基子、本来ならば夫の栄進であるが
都会育ちの贅沢になれた紗基子は地方の生活が馴染めず東京に帰りたい、家事さえ放り
出してホームシックに陥った挙句慎二と言い合いの末、長男の文夫を連れて帰ってしまった、
そんな折、慎二は会社の部下 石井律子に惹かれるようになる、紗基子とは正反対の慎ま
しやかで目立たないがシッカリ仕事をこなすタイプ、彼は律子を誘って食事へ、妻の我儘
にウンザリしていた慎二は律子を口説くが・・・・律子と二回ほどの食事を重ねたが彼女は
ある日突然辞職願と共に手紙をおくってきた、そこにはごまかしの効かない痛切な思いが
したためてあった、
この律子という女の考え方、人生観はこの二十一世紀の現代日本にあって殆ど絶滅した
かもしれない女性の在り方と思われる、それと対する慎二なる男の在り方は意外にも現代
も変わらないように思う、何故か? 男は古今東西余り変わっていなく浮気っぽい、だが律子
のような性格の女には何か永遠の世界に連なっている尊さが感じられる、
本書の中でもヒルティの幸福論が慎二から律子に贈られる、その本論には立ち入っていないが
律子が代弁している、それは人の立場を思いやる、人を害すくらいなら自分の方から遠慮する
というものである、愛するからこそ去るという一見寂しいもの、自己犠牲の生き方である、
こういう生き方は他人が強要するとおかしい事になる、あくまでも自発的でないと不自然となる
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