旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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許さんッ!振り込め詐欺

2009-11-05 00:20:00 | ノンジャンル
 「最近、振り込め詐欺の事件が多発しています=〈次のような〉思い当たることはありませんか」。
 これは、銀行や郵便局などの現金を出し入れするATMのサイドに置かれたチラシの書き出しである。キャッシュカードを持たず、いまもって通帳と印鑑しか信用しない私にとっては無縁に思われるが、詐欺師はいかなる悪知恵で通帳をも狙うかも知れたものではない。そこで、自分に言い聞かせるつもりで、振り込め詐欺の傾向と対策をチラシをもとに学ぶことにする。



 【犯人の使う主な口実
 ※痴漢、セクハラをして訴えられそう。※会社でトラブルを起こした。※医療ミスを起こした。※交際相手を妊娠させた。※怪我をさせた。「すぐに示談にしなければ大変だ」と急かす。
 【交通事故を起こした。示談金を送金してほしい
 ※暴力団の車にぶつけた。※相手が入院した。※相手が妊婦「すぐに治療費や修理費が必要」と迫る。
 【借金返済
 ※返済期日だが金がない。※騙されて保証人になった。※監禁されている「すぐに返済しなければ」と泣きを入れる。
 【第3者に電話を代わる手口
 ※複数犯は警察官、弁護士、医師、金融業者、暴力団を名乗る。※まるで仲介しているような口ぶりで示談金を請求する。
 いずれも犯人は、事前にターゲットの家族構成と名前、職業を調べ上げて犯行に及ぶ。そして息もつかせず至急、金を渡さなければ「大ごとになる」「危害を与える」などと言う。
 被害に遭わないための注意事項として、4つの項目を上げている。①警察官が交通事故の示談に関わることは職務上決してない。②弁護士や保険会社が事故直後に、示談金の振り込みを勧めることはない。③医師が電話で症状はもちろん、医療ミスや賠償金額の対応について話すことはない。④正規の貸金業は保険金や借入金データの末梢など、いかなる名目であっても、融資を前提に現金を振り込ませることはない。



 警察官40年勤めてきた石垣栄一著「刑事課長の備忘録」に異例の振り込め詐欺事件の顛末が載っている。
 自称観光ガイド・ルポライターのA男。スロットマシン遊技にのめり込んだ上、同棲中の女性からも愛想尽かしを食い、その日の飯にも困るに至った。そこで思いついたのが振り込め詐欺。A男がターゲットにしたのは、こともあろうに実父だった。
 「親父ッ。いま先、那覇市内で交通事故を起こしてしまった。相手は暴力団で組事務所に連れて来られた。現金300万円を払わないと殺すと言っている。助けてくれ親父ッ」
 ここまではよく聞く手口。しかしA男は役者顔負けの挙に出た。会話に間合いをとったあと、なんと声を変えてドスを利かせて言った。
 「オレは組の者だ。いますぐ息子の口座に300万円を振り込めッ!さもないと息子を殺すぞッ!」
 つまりは、ひとり芝居である。
 こう切羽詰まっては、親も息子の演技に騙されかかったが、父親のその後の対処は正しかった。仰天しながらも警察に届け出たのである。捜査員はただちにA男に接触して事情聴取をしたが、事故の事実がないことから虚偽の線を濃厚にした。時を同じくして、A男の住居近くのスーパーに設置されたATMから、現金を下ろしていた主婦が、数10万円を強奪される持凶器強盗事件が発生。犯人の逃走方向がA男の住居方向であること、防犯カメラに映っていた犯人がA男に似ていたことなどから、A男を任意同行で取り調べた。アリバイに不自然なものがあり、振り込め詐欺と並行して追求した結果、ふたつの件を自供するに至り、事件は落着をみた。
 動機は単純。スロットマシン遊技に凝ってサラ金からの借金返済のための犯行だった。この振り込め詐欺事件が未遂で解決したからっと言って、ホッとするわけにはいかない。親を騙そうとした男は厳罰に処すべきだが、実の息子にターゲットされた父親の心の傷は一生癒えないだろう。やりきれないもののみが残る・・・・。いやな世の中になったものだ。

 金銭の貸し借りについて、次の古諺がある。
 「今日十日 明日二十日=ちゅう とぅか あちゃ はちか」。
 今日中に返すからと言われて貸した金銭が返ってくるのは、10日後と観念せよ。同じく明日返すという借金の返済が履行されるのは20日後と覚悟せよとの戒めだ。親しい間柄であっても、金銭の貸し借りは慎重を期すに越したことはない。口約束だけのそれが親子や親戚縁者、友人との絶縁の基になった例は多い。
 私の場合。借金をしたことはあるが、借金を申し込まれたことはない。貸すほどの金銭がないことは、皆が知っている。詐欺に遭ったこともない。詐欺師も私なぞターゲットにする「価値なし!」と、正しい評価と判断をしているからだろう。
 若いころ、遊び好きの私におふくろは常々言っていた。
 「有る分し 暮らし=あるぶんし くらし」。
 【働いて得た金銭の分の暮らしをしなさい】。