旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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昔節・五節=んかしぶし いちふし

2009-03-19 12:41:00 | ノンジャンル
★連載NO.384

 琉球古典音楽の中の「昔節」は「工工四・中巻」に収められている。後にふれる「大昔節」に対して「前ぬ五節」とも称する。

 ※琉歌百景○29〔昔節五節その①作田節=ちくてんぶし〕
 ♪稲花咲ち出りば 塵ふぃじん着かん 白実にやなびち あぶし枕
 〈ふばな さちじりば ちりふぃじん ちかん しらちゃにやなびち あぶしまくら〉
 *白実=しらちゃに。稲の穂。米粒。他に赤実=あかちゃにもある。*ちりふぃじ=土や塵などの汚れ。
 歌意=労を惜しまず育てた稲が見事に実を結んだ。白い実は黄金のモミに包まれ、塵ひとつついてはいない。あぶし〈畦〉に近い稲穂は、それを枕にするほどの実りだ。
 豊作の光景が見えるようだ。五穀の内でも、米の出来不出来はそのまま国力に関わり、人びとの暮らしを左右する。稲穂を「菩薩花」と称したのも、その辺に裏づけされた尊称だろう。また俗に作田類として「早作田節=はいちくでんぶし」「揚作田節=あぎちくてんぶし」「伊集早作田節=んじゅはいちくてんぶし」がある。
 これら古節には〔御供・うとぅむ〕あるいは〔チラシ〕という短い節がついているが、「作田節」のチラシは、次の「早作田節」。

 ※琉歌百景○30〔早作田節〕
 ♪銀臼なかい 黄金軸立てぃてぃ たみし摺り増しゅる 雪ぬ真米
 〈なんじゅうし なかい くがにじく たてぃてぃ たみし しりましゅる ゆちぬ まぐみ〉
 歌意=銀の突き臼で脱穀した米を金の尺棒を立てて量を計ってみると、予想以上の増産である。しかもその米は雪のように真っ白で美しい。
 実際には木臼を用いたのだろうが、この句は、琉球王代第2尚氏11代・尚貞王〈1645~1707〉の詠歌とされる。


 ※琉歌百景○31〔昔節五節その②ぢゃんな節〕
 ♪昔事やしが 今までぃん肝に 忘ららんむぬや ありが情
 〈んかしぐとぅ やしが なままでぃん ちむに わしららんむぬや ありがなさき〉
 歌意=もう遠い遠い日のことではあるが、老境に入っても心の奥に残り、忘れがたいのは、彼女の熱い情愛である。
 ものの本には、詠み人しらずになっているが、男性の詠歌と思われる。琉歌の用語としては”ありが情”のように「あり」は、男性が女性をさす言葉。逆の場合は「あま」と表現する。舞踊曲「浜千鳥節=通称・ちじゅやー節」に、“あまん眺みゆら今日ぬ空や”の例がある。人間、長い人生の間には男女を問わず、胸に秘めた想いがあり、老境の精神生活の支えになる。思い出づくりは、常々していたほうがよいということか。〔ぢゃんな〕の語意については、優雅、温情の意を表わす古語とする説のほかに諸説あるようだ。チラシは「大兼久節=うふがにくぶし」

 ※琉歌百景○32〔大兼久節〕
 ♪名護ぬ大兼久 馬走らちいしょしゃ 舟走らちいしょしゃ 我浦泊
 〈なぐぬ うふがにく んまはらち いしょしゃ ふにはらち いしょしゃ わうらどぅまい〉
 *いしょしゃ=口語では「いそうさ」「いそさ」と言い、嬉しいさま。歓喜の意。
 歌意=名護間切〈現名護市〉大兼久には、松の木に囲まれた馬場があり、若者たちが乗馬、競馬を楽しんでいる。いきいきとして頼もしいかぎり。一方、毎年イルカがやってくる我が名護浦、湾に舟を走らせ白波を蹴っているさまは絶景。爽快。
この白砂青松の中の光景に詠み人は、大いに“いしょしゃ”歓喜を覚えたことだろう。

「ぢゃんな」には、旋律を異にする「長ぢゃんな節=なが」がある。
琉歌百景○33〔長ぢゃんな節〕
 ♪首里天加那志 十百とぅとぅちゅわれ 御万人ぬまぢり 拝でぃしでぃ 
  ら
 〈しゅい でぃんじゃなし とぅむむとぅとぅ ちゅわれ うまんちゅぬ まじり WUがでぃ しでぃら〉
 *首里天加那志=国王の尊称。*十百とぅ=十の百倍・千年。この場合、永遠の意。*まぢり=すべて。全体。
 歌意=国王様にあらせられましては、幾久しくおわしませ。われわれ万民は、その徳をいただき、奉公いたしましょう。
この家臣の王寿万歳に対して、国王は返歌をしている。それが「長ぢゃんな節」のチラシ「伊集早作田節」の歌詞。

琉歌百景○34〔伊集早作田節=んじゅ はいちくてんぶし〕
 ♪蘭ぬ匂い心 朝夕思みとぅまり 何時までぃん人ぬ 飽かん如に
 〈らんぬにうぃ ぐくる あさゆ うみとぅまり いちまでぃん ふぃとぅぬ あかんぐとぅに〉
 歌意=蘭の香りに飽きを覚えるものはいまい。人の心もそれにならいたい。皆の者もこのことを朝夕忘却せず、身も心も蘭の如く香しくあってほしい。万民に飽きられてはならない。
君臣和睦というところか。


*来週号につづく。

次号は2009年3月26日発刊です!

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