旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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本部町・副業節

2018-06-10 00:10:00 | ノンジャンル
 廃藩置県後、間切(まじり)だった本部は、市町村制度の施行により(村・そん)を名乗っていたが、昭和15年(1940)12月15日。町制を施行し(本部町・もとぶちょう)を成立させ、現在にいたる農業、漁業で栄えてきた沖縄県北部の要所である。
 便宜上、五十音順に(字名)を記してみる。
 *石川。*伊豆味(いずみ)。*伊野波(いのは)。*大堂(うふどう)。*浦崎。*大嘉陽(おおかよう)。*大浜。*嘉津宇(かつう)。*北里。*具志堅。*健堅(けんけん)。*崎本部。*謝花(じゃはな)。*新里。*瀬底。*谷茶(たんちゃ)。*渡久地(とぐち)。*東。*豊原。*並里。*野原(のばる)。*浜元。*備瀬。*古島。*辺名地(へなち)。*山川(やまがわ)。*山里。計27字。現在は合併、新名所などが誕生し、通称の字もある。

 その本部町全体を対象にして「経済的生活向上を図ろう」という、町奨励の「副業節」が生れた。作詞仲宗根善幸。当時の文化人のひとりと言われる。曲は、これまた当時の流行り唄「県道節」のそれ。
 大意は「時は新時代に向かっている。本業以外に副業を持ち、まずは暮らしの向上、経済力向上!」としている。
 歌詞を追って本部町の、沖縄の世相を感じ取ってみよう。

 「副業節」

 1.瀬底ムンジュルや 暑さ涼だますし 夜なび片暇に 情き込みてぃ
    ※アラ!副業的やらや(合いの手)。
  《しーくムンジュルや あちさ しだますし ゆなび かたひまに なさき くみてぃ

 歌意=字瀬底特産物の麦の茎で作るムンジュルーは日除け笠として、また、涼を呼ぶ。昼間の労働に加えて、夜の間も惜しまず(夜なべ)して作り、県下に出荷しよう。なんとも副業的だねー。

 2.鰹魚釣やい 節なすし男 ワタガラス漬きしぇー 刀自ぬ仕事
  《カチューいゆ ちやい フシなすし ゐきが ワタガラス ちきーしぇー トゥジぬ しぐとぅ

 歌意=鰹を釣り上げ、鰹節にするのは男(夫)の仕事。陸揚げされたばかりの鰹を捌いて内臓を取り出し、ワタガラス(腹辛ら塩・塩辛)にするのは女(女房)の仕事。

 3.伊豆味女童や 紺地カナ染みてぃ 沖縄紺絣 後ぬ世までぃん
  《いずみ みやらびや くんじカナすみてぃ うちなークンガスリ あとぅぬゆまでぃん

 歌意=伊豆味の女性は、家業のみかん栽培とともに糸を紡ぎ、紺染めにする。これは(副業)のみならず、琉球絣として後世に残る。 

 4.伊野波・並里に 伊豆味山国や 山ん切り拓らち みかん・タイナンプ
  《いぬふぁ・なんじゃとぅに いずみやまぐにや やまん ちりふぃらち ミカン・タイナンプ


 歌意=伊野波、並里、伊豆味は山野に囲まれている。その山野を開墾してミカン・パイナップルの一大産地にしよう。附=台湾を含む東南アジアから移入された横文字名パイナップルを耳にした通り(タイナンプ)と受取り方言化した。因みに八重まではパイナップルの実が見た目、阿檀の実に酷似しているところから(やまとぅアダンぬミー)と称する俗語がある。

 5.百姓畑戻ゐ はまてぃ草刈やい 牛馬ゆからてぃ 家庭や豊か
  《ひゃくしょう はるむどぅゐ はまてぃ くさかやい うし・ンマゆからてぃ チネーやゆたか

 歌意=農民は畑仕事の帰りといえども、手ぶらでは帰らず、飼っている牛馬のし飼料にする草を刈って帰ろう。その努力が暮らしを豊かにする。

 6.二千五百余ぬ 家数ウァー飼らてぃ 豚小屋ぬ改良 忘しりみそな
  《にせんごひゃくゆぬ やーかじ ウァーからてぃ ぶたごやぬ かいりょう わしりみそな

 歌意=二千五百余の本部村。各家庭で養豚をしよう。そのためには衛星第一。豚小屋の改良を随時、心掛けよう。

 7.うぬ他いるいるぬ 日々ぬ成業ぬ 暇ぬ片時ん 無駄にするな
  《うぬふか いるいるぬ ひびぬなるわじゃ ひまぬかたとぅちん むだにするな

 歌意=(ここまで述べた)ことの他、成業(なりわい)・本業の寸暇も無駄にせず、副業に精出そう。
 ※ウネー村ゆ興くさ~。と結んでいる

 今日言うアルバイト、パートタイマー、契約社員等は本業か?副業か?注目の「働き方法(案)」とともに考えてみよう。