旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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長寿ばんざい・・・か?

2018-01-10 00:10:00 | ノンジャンル
 戌年は夜中の排尿ばなしに始まった。
 古馴染みの友人Kとの(初飲み)をしたことだが、彼が2度目のトイレに立ち、洗った手が渇かないうちに切り出してきた。
 「キミはどうかね?」
 「何が?」
 「シーバイ(排尿)だよ。就寝後オレは毎晩2度は起こされる」
 「それはボクも同様だ。まったくうんざりするね。なんとかならないかな」
 「いまでなんともならないのだから、諦めることだ」
 さあ、元の席につき泡盛をぐっと飲みほし、そこからKの「老いと排尿」に関するご高説を承ることになった。
 「60歳までは、どんな水分摂取をしても就寝前に排尿すれば翌朝まで深い眠りが得られたが、いつごろか夜中に1度尿意に起床警報を発せられようになった。それがいまではレギュラーで2度。満足を通り過ぎてアルコール及び水分過多になると女房に(また夜中に起きるわヨ)と指摘される場合は3度、ときには4度になることもある。そのときにシーバイをしながら、こう考えることにしている」
 K先生は、ぐいっとグラスを空にしてから高説の本旨に入る。
 「若いころより勢いが失速している行為を認識しながらも(ああ、今日もオレは生きている。高齢になったからと言って、尿意にも反応せず、寝具を濡らすようではもうおしまいだ。尿意に意識が啓発されて、夜中に起き出すことができる!ここに生きている歓びを感応できなければだめだ。(煩わしい)なぞと眉をしかめては、本モノの老人になるぞ。夜中の放尿は(生きていること)の証明だ」。
 Kの「尿意生存論」は、無茶苦茶な屁理屈論と知りながらも、どこか納得してしまうボクがいる。

 「高齢化社会」「長寿日本」なぞという文字が毎日の新聞に躍っている。年末の新聞に(平均寿命・沖縄の女性は7位。男性は36位・伸び幅小さく順位後退)という見出しを見つけた。

 「厚生労働省は12月13日に発表した2015年の都道府県別平均寿命で、沖縄の女性は、前回の調査から0.42歳延び、87.44歳。沖縄男性は0.87歳延び80.27歳となってた。男性は初めて80歳代に到達した。都道府県別の順位は前回調査で3位だった沖縄女性は7位にに、30位だった沖縄男性は36位に後退。男女ともに平均寿命は延びたが、伸び幅が他県に比べて小さく、低下に歯止めがかからなかった。
 2040年に平均寿命日本一を目標に掲げ、健康長寿ブランドの再構築をめざす沖縄にとって厳しい順位となった。
 沖縄は65歳未満の働き盛り世代の死亡率が男女とも全国ワーストで、平均寿命の延びを抑制する要因となった。
 全国より多い飲酒量や脂肪分の多い食事、運動不足などに起因する生活習慣病の肝疾患や糖尿病、喫煙が要因の慢性閉塞性肺疾患などの死亡率は全国に比べて高水準にある。男性は大腸ガン、女性は子宮ガンによる死亡率が高い。
 県保健医療部の砂川靖部長は「結果的に平均寿命が延びたのはいいが、20歳から64歳の死亡率が悪い要因を分析し、対策を立てなければいけない。地域コミニュティーで健康づくりに取り組む人材の育成支援に力を入れたい」と話している。 
 全国平均は女性が87.77歳。男性は80.77歳。女性は長野県が87.67歳で2回連続でトップで、男性は滋賀県が81.78歳で初の首位となった。最下位は男女ともに青森県で男性78.67歳。女性85.93歳だった。

 「来年の桜を見ることができるだろうか」
 いい歳になると明けた年よりも、来年の春を気にする。逝き急ぎはしないが、やはり余命を考えるようになる。ボクも例外ではない。まして「尿意健康論」を展開するKも、本音のところでは(残り時間)を感じている。尿意健康論は、単にKの強がり、いや、生への執着とみているが・・・。
 いつのころからかKとボクの共通して好んで口に乗せる琉歌がある。
 
 ♪年寄たん思むてぃ徒に居るな 一事どぅんすりば為どぅ成ゆる
 <とぅしゆたん とぅむてぃ いたじらに WUるな ちゅくとぅどぅん すりば たみどぅなゆる

 歌意=もう歳だと自らを放棄し、無駄に時を過ごしてはならない。幾つになっても、自分にできる(ひと事)を成せば、大層なことではなくても、周囲の人の役にも立つし、自分に命を永らえることにもなる。

 さて。
 Kの人生論?はまだつづく。
 「最近開拓したのだが、道向こうに小粋な小料理屋をみつけた。齢のころは50をひとつふたつ出た、いける女がひとりでやっている。キミ好みだ。これから行くかい?男は色気!色気だよ!譬え実践力はなくても、他所見ができないようでは、なんの人生!」
 ますます意気盛んなK。いつもより泡盛と口元の距離が短くなっている。このぶんだと帰宅後、就寝しても明日の朝までに4回はトイレ行きの持論を実践することになるだろう。
 長寿ばんざい!としておこう。