旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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世・世・世=ゆ・ゆ・ゆ

2017-05-10 00:10:00 | ノンジャンル
 一門・縁者が墓前に集い「御蔭さまで、子孫一同皆、息災にしています」。
 言葉通り、辺りが清く明るくなった4月。各地の霊園、墓所は馳走を詰めた重箱などを携えた人出で賑わった。「清明祭」である。わが一門のそれは4月30日、清明の節の末日に行った。本来、清明の入り早々になされる季節行事だが、生活の様相が近代化するにつれ、それぞれ自分たちの都合に合わせて5月のゴールデンウイークに行う一門も多くなった。これを「終ゐシーミー」に続く「流りシーミー」と称する。
 4月中に成すべき日取りを流してしまったが、それでも「清明祭」は執り行う。そこに他の「日に決まった」法事ごと・祀りごとの相違がある。時期は過ぎても流れても、短絡に休止はせずに実施する。この辺にも沖縄人に先祖崇拝の精神がうかがえる。
 沖縄の墓所は本土のそれと比べて敷地の規模が大きく、墓前は最低2、30人は坐れる。もっとも、日本復帰は、本土のそれに習った墓も多く見掛けるようになってはいる。
 通常「墓ぬ庭=はかぬなぁ」では、長老を中心に先祖ばなしや近況報告が主になされるが、今年は違った。
 「いよいよ戦争になるのかな。アメリカのトランプ大統領の言動を見聞きするにつけ現実味をおびてきた」
 「駐留アメリカ軍の動きも尋常ではない。国も参戦の構え。戦争には戦勝国、敗戦国もない。両方が敗戦国だ」
 「去年から選挙権を18歳に引き下げたが近々、徴兵制度を実施する下敷きではないのか」
 「徴兵を拒否したら罰せられるのか。そうなったら徴兵を拒否し、刑務所でもどこでも入っていよう。戦地よりはそこのほうが命が守れるという若者もいる」
 「かの大戦で死に、墓に眠る人たちの前で、そんな話をしなければならないシーミー・・・・。平和はどこへ行ったのだろう」
 そんな会話を打ち消すように、オスプレイが3機、北の方へ飛んでいく。

 ♪唐ぬ世から大和ぬ世 大和ぬ世からアメリカ世 うすまさ変わたる くぬウチナー

 昭和32年頃、
 風狂の歌者故嘉手苅林昌が「花口節」という風俗歌に乗せて作詞し、歌った「時代の流れ」と称する世相口節の出だしの文句である。
 (古くは中国介入の唐の世。明治維新の廃藩置県で日本に属した大和の世。その日本のアメリカ相手の戦争の結果、母国独立の代償として売り渡されたアメリカ世。もの凄く変わりゆく沖縄。これから何処へ、どんな世になるだろう)
 そのアメリカ世から1972年5月15日、日本復帰・再び大和ぬ世へと世替わりしたことだが、ここへきて「戦争勃発の危機」。基地を抱える沖縄。世替わりを強いられ、どんな世へ向かうのか・・・・。

 世替わりとは、外からの力によって沖縄の世の中が変わることを指している。
 では「唐ぬ世」「大和ぬ世」「アメリカ世」とは?「世・ゆう」は、その時代の為政者の直接的支配を意味する。

 ◇唐ぬ世。
 *琉球国第一尚氏国王尚巴志(しょうはし)=1372~1439=時代は、奏(中国)皇帝の冊封を受けた上、琉球最高権力者「琉球の世の主」を内外に示した。中には薩摩支配時代がありながら、それは明治2年(1879)まで続く。
 仮に尚巴志が即位した1416年を元年とすると「唐ぬ世」は463年ということになる。

 ◇大和ぬ世。
 *明治12年4月4日「沖縄県」は成立したものの、県政の中枢は明治政府の任命によるものであった。県令1代。県令5代、知事23代。さらに司法、文教、教育もすべて大和人によって運営され、それは終戦時の島田叡知事まで続く。因みに沖縄でいう「大和・やまとぅ」とは、広義には日本全体を指すが、語源としては、薩摩の国府があった川内地方の山門院(やまといん)に寄るという説と、朝廷があった近畿地方の「大和の国」に因むともいう。

 ◇アメリカ世。
 *アメリカが支配宣言をした昭和20年(1945)4月18日から昭和47年(1972)5月15日を指す。県政は確立したものの、日本の独立は「沖縄のアメリカの統治下に置く」という条件付きの独立。それも「半アメリカ世・半大和世」の態である。軍備以外のなにものでもない軍事基地は、ますます補強拡大される沖縄のアメリカ世は現在も続いている。

 古謡には「神ぬ世=かんぬゆ」という言葉が多く見受けられる。
 神の世は弥勒世(みるくゆ)のことで、神仏に加護された「平和の世」を意味している。沖縄が、いや、日本国が半アメリカ世から神ぬ世になるのは、何時の日か。

 梅雨のはしりか、雨の日がつづく。時を違わず季節が巡るのはありがたい。45年前の5月15日「復帰の日」は豪雨だった。