旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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つれづれ・いろは歌留多=終章

2014-02-19 22:54:00 | ノンジャンル
 「沖縄の子だけでしょうかね・・・・」。
 地域の公民館を教室に小学生、中学生に習字を教えている知人が、しみじみと口にした。
 「習字の手始めは(いろは)から書かせるのだが、年の初めに自由な文字を書かせたみた。多くは、初日の出、はつはる、午年、希望、春風、赤い花、平和などの文字が見えたが、小学校6年生の男児は、“基地はいらない”“移設反対”“平和な沖縄”などの現実的な文字を並べている。どうしてこの文字を選んだの?」。
 やんわり聞いてみると、少年はにっこり答えた。
 「だって、近くの米軍基地のフェンスにそう書いたパネルが貼ってあるもの」。
 知人は(沖縄の子だけなのか)と、半ば深刻に考えさせられた・・・・」。
 「子どもは子どもらしく“いろはにをえど”とか”あさきゆめみし”とか、ごく普通の文字を書いてもらえる沖縄でなければならないと思いますねぇ・・・」。
 習字ではないが、筆者が小学校低学年のころ、直ぐに覚えた英語は、まずギブミー、テンキュー、ハロー、グットバイなどであった。その後、意味も知らないまま、遊びの中で囃子立ての言葉として発していたのが「ヤンキーゴーホーム」だった。異民族支配反対!日本復帰早期実現をスローガンに各地で展開された民族運動の集会で、大人たちが声を嗄らして叫んでいたからだ。戦争、基地に関わる言葉を青少年には(使わせたくない)とここに至って考える沖縄の日々である。
 さて「いろは歌留多」シリーズも今回で終章。{も・せ・す}で締めよう。

 【も】
 読み札=桃採りに!どこへ!森へさっ!
 取り札=むむ むいが!まーんかい!むゐんかい!
 「も」は、基本的に「む」に変化する語が多い。この変化について永六輔さんと語り合ったことがある。TBSラジオで長年放送していた人気番組「誰かとどこかで」のスポンサーが「海苔の桃屋」だったからだ。
 「では桃屋は、沖縄語では“むむや”になるの?」
 「その通り」。
 そのことがあった2,3日後の放送で「今日は沖縄風に提供名を言います。では遠藤靖子さんどうぞ」とふった。遠藤靖子さんは迷わずアナウンスをした。
 「はい。“誰かとどこかで”この番組はムム屋の提供でお送りします(お送りしました)」。
 「桃」とは言っても沖縄で普通に言う「ムム」は野生のそれで、サクランボ程度、もしくは、それよりちょっと小ぶりの実。越来間切(現沖縄市)山内、諸見里などには「ムムヤマ・桃山」と通称されるムムの木の群生があって、太陽が夏の輝きを増す「清明=シーミー」の頃に熟する。近隣の娘たちは、底に芭蕉の葉を敷いた大きめのバーキ(竹製のザル)いっぱいに実をもぎ入れ、頭の上に乗せて遠く首里那覇まで出かけて屋敷街を「ムム コーンソーリ!=桃を買ってください」と呼ばわりながら売り歩いた。その声に街方の人々は、夏の入り口を知る。初夏の風物詩といったところ。
 キームム(木桃)と称し、普通の桃と区別しているが、果肉と種が半々。青いムムや言葉通り桃色に半ば熟したものには塩をふって、朝のチャワキ(お茶請け)に。紫色に熟したムムは、梅干し弁当よろしく御飯の上に乗せて野良仕事の昼食用にしたり、昭和20年代までは学校への弁当にも重宝した。それは期間限定のおかず代用だった。
 [も]は[む]に変化する。例=*腿肉・ムムシシ。*諸人・ムルビトゥ。*問答・ムンドー。*文句・ムンク。*物・ムン。*餅・ムチなどなど。再三に及ぶが[も]が「む」に変化しない語も多少あることも承知しておかなければならない。

 【せ】
 読み札=先生 生徒 世間 世界
 取り札=しんしー しーとぅ しきん しけえー
 これまた[せ]は[し]に変化。所によっては[しぇー]とも発音する。若い世代はそうでもなくなったが、カラオケなどで年配の方の歌を聴いてごらんなさい。森昌子の「先生」は♪シェンシェイ それはシェンシェイ~になっているのに気付くだろう。ただし、これは決して発音があやしいのではなく、地方語の妙味の(訛り)。地方語から訛りを取っては、わさび抜いたにぎりで味気がない。余談ながらジャズの名曲「セントルイスブルース」を「シェントルイス~」の発音には失笑してしまう。1セントを「1シェント」としたのには驚いた。

 【す】
 読み札=酢 すごく すっぱいネ
 取り札=シー しぐく しーさんぬやー

 [す]は[し]に変化する語が多い。ヒラミレモンの名称を定着させた「シークァーサー」の「し」は「酢・酸っぱい」の「し」。柑橘類の1種シークァーサーは本来、飲食するものではなく衣類の繊維、殊に平民が着用した「あらバサー=織り目の荒い芭蕉布」の繊維を肌ざわりよくするために酸性の柑橘に浸したことから「酢をつける。酢に浸す」を「シークァーすん」になった。
 この場合の「クァーすん」は、ひたす・つける・塗るの意であって、同音の「クァーすん=喰わす」では決してない。
 かつてはシークァーサーの木は山野に自生。実はスーサー(ひよどり)など野鳥の好むモノだったが、白い清らかな花をつけるところから観賞用として屋敷内にも植栽された。木は2、3メートルにもなる。

 さてさて。
 「いろは歌留多」シリーズ。筆者のまさに(つれづれ)思い付くままに拙文を連ねてきた。多少なりと「うちなーぐち=沖縄口・語」に親しむ糸口になればこの上もない喜びである。連載中、ある小学校の教師から「児童の教材に使用してもよいか」の声があった。こんなものでよいのか。「これをベースに足りないことは補足して参考程度にどうぞ」と答えておいた。
 次回20日号からは地名、名所などを詠み込んだ「琉歌」をシリーズ化したいと思い付いているが如何。

 ※2月下旬の催事。
 *黒島牛まつり(八重山)
  期日:2月23日(日)
  場所:竹富町黒島多目的広場

 *おきなわECOスピリット~ランド&ウォークin南城市
  期日:2月23日(日)
  場所:ユインチホテル南城スタート・ゴール