旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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ウチナーむん=沖縄もの

2013-10-01 00:08:00 | ノンジャンル
 およそ沖縄に発生した物、民芸品、食べ物、生活用品、農作物エトセトラ・・・。音楽、言葉を含めて(沖縄的)とされる、すべてのものを[ウチナーむん]と呼称してきた。
 歌謡を例にとれば子守唄、学校唱歌、歌謡曲など共通語の歌詞のモノを「大和唄(やまとぅうた)・大和ムン]と言い、三線を基調にした宮廷歌謡や島うたを[ウチナーむん]と、色分けしている。また物品にしても日本製は大和ムン、西欧製はウランダむんと言う。これには背景があって15、6世紀頃から琉球を経て日本、アジアを目指した西欧の航海者はオランダ人がその先駆者だったことから沖縄人は色白の西欧人をウランダー、彼らが持ち込んだ文化を(ウランダむん)と言い切って定着させた。遠い国からの航海のことで台風などによって難破、命を落とした西欧船の乗組員の霊を祀った墓地が数ヵ所現存するが、これがアメリカ人であれ、イギリス人、フランス人であれ墓所は「ウランダ墓」として残している。
 終戦このかたは、地球も狭くなり西欧人もひと目見てアメリカ人、イギリス人、ドイツ人、フランス人、北欧人の区別がつくようになった。それでも(ウランダー、ウランダーむん)なる言葉は残っている。これは沖縄だけなのかも知れない。私なぞ、いまでも何の疑問もなく使っている。行政上、日本復帰後、沖縄的な言い回しが否定、訂正されつつあり、ウランダむん、大和ムンなる表現は
薄れつつあるように思われる。琉球放送ラジオで、今年2月から52年目に入る番組「民謡で今日拝なびら」の冒頭「10月1日火曜日。ウチナーぬクユミん8月ぬ27日にぬ日=沖縄の暦も子の日」とフリを入れるのだが(沖縄暦)という表現に疑問を呈された。投書の主は(ウチナー口研究クラブ)とあって氏名は記していない。
 「旧暦をなぜ沖縄暦(ウチナークユミ)というのか。辞書には(沖縄暦)なる言葉は記載されていない。下手な造語は、ウチナー口復活運動を阻害する」。
 待て。陽暦・西暦に対する陰暦・旧暦を沖縄では(ウチナーぬクユミ)と、はっきり言って、いまなお使われている。本土の気候と沖縄のそれはひと月ほどの差があり、どうしても陽・陰併用したほうが確実な季節感を把握できるからだ。地方語を日本語辞典に当てはめるのはどうか。その時点で地方語にはならないのではないか。投書者の属する「ウチナー口研究クラブ」の(ウチナー口)からして辞書には見当たらない。しかし、沖縄語を考える示唆には確かになった。古来のそれもさることながら(現代のウチナー口)を模索するヒントにはなった。

 ユネスコの指摘により「沖縄語は絶滅の危機」にあるという。
 それを受けて8月30日「しまくとぅば連絡協議会」が発足した。しまくとぅば=沖縄方言=の復興と継承を目指し、関連団体の連携を深めることを目的とした協議会である。設立総会では「先祖が残したシマンチュ=沖縄人=のチムグクル=肝心・精神=、芸能文化の誇りを取り戻し、子孫に残していかなければならない。今年をしまくとぅば再生元年としたい」との設立宣言をした。
 「そうウチナーむん=本当の沖縄もの」が始動したことになる。
 ウチナーむんの原点は(ウチナー口)である。

 9月18日は県条例による「しまくとぅばの日」。
 行政が動き、学校現場でも方言指導の準備がなされている。民間にも方言教室が多少あり、関心は高まっている。しかし、実際にはいかにして「復興、継承」していくか。糸口を見つけるのに苦慮しているのも確か。言葉は日常の中に生きているもの。識者や有志者だけの議論、活動だけでは普及、浸透が遅延しかねない。日常レベルで行動を起こさなければならないだろう。
 ある野菜市場では、、県産の野菜に和名と沖縄名の表示をして売り出している。
 例=大根・デークニ。にんじん=チデークニー(黄大根。かつては黄色のにんじんが主流だった)。なすび=ナーシビ。かぼちゃ=チンクァ。ナンクァー。南瓜。ほうれん草=フーリンナー。草を葉にしたところが面白い。キャベツ=タマナー。玉葉などなど。これが地域の子どもたちに好評で、ノート片手に学習する児童グループもあるそうな。野菜市場の人は言う。
 「生きた学習の手伝いが出来て楽しいですよ。でも、パクチョイは方言で何て言うの?の問いには困った。でも、パクチョイは新しく入ってきた野菜だからパクチョイでいいのよと、答えておいた」。
 この場合、地域の子どもたちとの会話の場を持ったことに意味がある。言葉は、実生活のコミュニケーションを図るためにあるのだから。これらの学習はスーパーでも鮮魚店でも、あらゆる現場で容易に実践できる。自分たちが日常、口に入れているもの、身に着けているもの、使っている家庭用品、道具。それらの名称から入っても関心、興味の持ち方は実質的に言葉を使いこなせるきっかけにはなるだろう。人体図を描いて身体の部称名を親子で書き込んでみるのもいいのではないか。要するに「ウチナー口の復興と継承は大仰に構えるのではなく、身近な所から楽しみながら実践しよう。根気よく」と、考えているのである。
 いまひとつ。
 「島うたを大いに歌い聞こう」。このことを私個人はお奨めする。
 20歳過ぎまでウチナー口をうまく使えなかった私だが、放送屋という職業に就き沖縄芸能、殊に宮廷歌謡や島うたを担当することで、ウチナー口を操ることができるようになった。
 琉歌には、ウチナー口たちがキラキラと呼吸をして生きている。それらに出逢って唇に乗せ、日常会話に引用、活用してみると何かしら自分が賢くなったような気分になる。もちろん、すでに死語になったことばもあるが、それらを知らべてみると、かつての(沖縄人の思考や生活感)が見えて沖縄人に生まれてよかった!とさえ思う。言葉は生きもの。時代によって変遷する。
 いままさにウチナー口は死活の分岐点にある。死語を多くするか。それらを活語にするか。この時代に生きている者の(ふるさととの向かい合い)ひとつに掛かっている。

 ※10月上旬の催事
 *第43回 那覇大綱挽まつり(那覇市)
  開催日:10月12日(土)~14日(月)
  場所:国際通り・国道58号線久茂地交差点・奥武山公園

 *第7回 八重瀬町青年エイサー祭り(八重瀬町)
  開催日:10月12日(土)~14日(月)
  場所:東風平運動公園陸上競技場

 *第19回 伊平屋ムーンライトマラソン(伊平屋村)
  開催日:10月19日(土)
  場所*伊平屋島・野甫島一周

 *第26回 いぜな88トライアスロン大会(伊是名村)
  開催日:10月20日(日)
  場所:伊是名村内