透明タペストリー

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「帝国ホテル建築物語」

2023-02-27 | A 読書日記

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『帝国ホテル建築物語』植松三十里(PHP文芸文庫2023年)

『帝国ホテル建築物語』を一気に読んだ。建築本と鉄道本はできるだけ読むことにしている。

**二十世紀を代表する米国人建築家、フランク・ロイド・ライトによる飽くなきこだわり、現場との対立、難航する作業、襲い来る天災・・・。次々と困難が立ちはだかったが、男たちは諦めなかった。**   プロジェクトXのナレーションのような本書のカバー裏面の紹介文。

**製図台が並ぶ事務所以内に、黒電話のベルが鳴り響いた。近くにいた若い建築士が、立ち上がって受話器を取る。
「谷口吉郎建築設計事務所です」**(7頁) 小説は唐突にこんな場面から始まるが、なぜ谷口吉郎が出てくるのか、分からなかった。読み終えて、そういうことだったのか、と納得。

帝国ホテルの新館については近代建築の三大巨匠のひとり、フランク・ロイド・ライトが設計したこと、遠藤 新がライトの助手として奮闘したこと、関東大震災の年にオープンしたが(*1)、震災の被害をほとんど受けなかったということくらいしか知らなかった。

いや、『旧帝国ホテルの実證的研究』明石信道(東光堂書店1994年)という写真・図面版によって、建築の概要もある程度知ってはいた。それから、この小説のプロローグとエピローグに描かれているけれど、明治村に移築・復元された新館(ライト館)のエントランスを何年か前に見てもいる。予備知識はこのくらい。



林 愛作が帝国ホテルの支配人になるまで、遠藤 新がライトの下で働くことになるまでの経緯が描かれている。どちらも感動的だ。

この小説で初めに描かれる大きな出来事は、主要な材料であるスクラッチブリックと呼ばれる表面に引っかき線を入れた煉瓦の製造をめぐるトラブル。それから、この煉瓦とともに帝国ホテルの空間を印象付ける石材(大谷石)の施工をめぐる石工たちとのトラブル。

更にクライアントたちとライトの設計・建設工事をめぐる考え方の相違。軟弱地盤への技術的対応(*2)。プロジェクト進行中に発生した既存別館の火災、さらに本館の火災(*3)。オープニング当日の大震災。

林 愛作は火災の責任を取って支配人の職から離れる。ライトはホテルの完成を見ることなく帰国する。遠藤 新は幼い我が子を病気で亡くす。

知らなかったなあ、帝国ホテルの設計施工にこんな劇的な出来事があったなんて・・・。


*1 関東大震災は1923年に発生している。今年、2023年はライト館開業100周年。
    帝国ホテルの新たな建て替え計画が発表されている。
*2 建設地は徳川家康が埋め立てた日比谷入江。
*3 巻末に示された主な参考文献は2頁に及ぶ。