透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

長野市のマンホール蓋

2017-03-30 | B 地面の蓋っておもしろい



◎ 長野市のマンホール蓋のデザインは複数ある。所用で長野県庁に出かけて近くの歩道で見かけたマンホール蓋。自治体名などの表示は無く、SEWERAGEとあるのみ。SEWERAGEって? 下水道という意味だった。デザインは長野市の花、リンゴの花と周囲に14個のリンゴ。蓋が円いことを意識したデザインは好ましい。


 


魅力的なまちが備えている要素

2017-03-29 | A あれこれ

 弘前や角館に行きたいと前々から思っていた(過去ログ)。

全国各地の魅力的なまちはどこも次のような共通する要素を備えているのではないか、という仮説を私は持っている。このことについては既に書いたが(過去ログ2)、ここに改めて挙げる。

①まちが小規模なこと
②まちの全体像が把握できる「俯瞰場」があること
③まちなかを川が流れていること
④まちにシンボル・ランドマークがあること

これらはまちの空間的な構造を把握しやすくするという点で共通する要素。空間的構造が分かりやすいまちは魅力的なのだ。これは分かりにくいこと、理解し難いことは脳が歓迎しない、分かりやすいこと、理解しやすいことを脳は歓迎し、魅力的だと認識するという私なりの前提に立っている。

上掲した①から④の要素に別の視点から⑤としてまちに歴史的な重層性があることを加えたい(*1)。

これらの要素を弘前や角館が備えているかどうか、現地で検証(確認)したい。それで4月27日から2泊3日で出かける計画を立てた。ここ何年かの希望がようやく叶いそうだ。 

弘前の近くの黒石市には火の見櫓が何基もあるし、古い消防屯所もある。電車で行くので行動範囲が広くはないが、何基か観てきたい。

桜の開花状況と天気が気になるが、たぶん大丈夫だろう・・・。


*1 魅力的なまちにはこれらの他にも例えば祭りなどのイベントや美味い料理など、文化的な営みもあることは承知しているが、私の関心はこのようなソフトな面ではなく、ハードな面にある。
 


日本列島はなぜ弓形をしているのか?

2017-03-23 | A 読書日記



『日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語』山崎晴雄・久保純子/講談社ブルーバックスを買い求め、スターバックスで読み始める。そう、スターバックスでブルーバックス。

書店で平置きされていたこの本を手にして裏表紙の日本列島はなぜ弓形をしているのか?が目に入った。日本列島が弓形をしている理由? いままで考えたこともなかった。その答えを読みたくてレジに直行した。

**1500万年前、ユーラシア大陸の東の端から分かれて生まれた日本列島。
現在、私たちが目にする風景を主に形作った100万年前以降(第四紀後半)を中心に、複雑な地形に富んだ列島の成り立ちを解き明かします。
見慣れた景色に隠された意外な歴史。
足下に広がるドラマチックワールドへようこそ!**(裏表紙の紹介文)

**日本海開裂によって分断された東側の細長い大陸地殻は、回転しながら東側へ移動しました。この時、現在の東北日本は反時計回りに、西南日本は時計回りに回転し、両者の間にはフォッサマグナと呼ばれる大地溝帯が形成されました。**(19頁) 

この壮大なドラマに想像力がついていけるのかどうか・・・。





「日本十二支考」

2017-03-23 | A 読書日記



■ 『日本十二支考 文化の時空を生きる』濱田 陽/中公叢書 を読み終えた。

内容を一言で言えば、十二支動物文化論。

巻末に示された主要参考文献リストはなんと20頁に及ぶ。子、丑、寅、卯、辰、巳・・・。古事記の神話から中世、近世の物語や民俗にでてくる十二支の各動物の紹介と文化論的論考。話題は時に現代にまで及ぶ。第2部では各動物について詳述しているが、興味深い内容だった。

それぞれの動物には実に多くの物語があることを再認識した。それは日本人が自然や動物と常に関わりながら暮らしてきたことの証左。

内容を十分理解できなくても、このような本を読むのも好い。


 


「みをつくし料理帖」を読み終えて

2017-03-19 | A 読書日記



 あるひとからこのシリーズを薦められていた。昨年のことだったかと思う。その後、いつか読みたいと思ってはいたが、他にも読みたい本があり、なかなか読む機会がなかった。それが、毎週末、仕事モードを解くために立ち寄るカフェでたまたま居合わせたIさんからこのシリーズを貸してもらえることになり、今月(3月)初めから読み始めて今日(19日)全10巻を読み終えた。

よく人生は川の流れに喩えられる。秋元 康が作詞した「川の流れのように」、この歌詞に美空ひばりは自分の人生を重ねたという。この物語に描かれた主人公、澪の十数年(水害で両親を失ったのが享和二年、医者の源斎と夫婦になって、大坂に戻ったのが文政元年。この間、十六年)は急峻な谷を流れ下る川のように変化に富んでいた。そして、奇しくも物語は橋の上で終わる。

まだ澪は若いのに人生の大きな岐路に何回も立たされる。そのたびに助けの手を差し出す大人たちに澪は臆することなく対峙し、自分の考えを曲げずに前に進む。大人たちは好意を無にする澪に腹を立てるも、その筋の通った考え方・生き方に共感し、澪を助けることになる。

澪が働くつる屋のひとたちは、店主をはじめ皆情に厚く、家族のように澪に接する。

澪が進むべき道で迷う時、アドバイスをしてくれるひとがいる。「食は、人の天なり」このキーワードを澪に示した医師、源斎。

やはり大坂の水害で孤独の身となり、その後行方が分からなくなっていた幼馴染みの野江が吉原にあさひ太夫として生きていることを知った澪。あさひ太夫の身請けをする、という大きな課題を背負い込みながら、料理に打ち込む澪。

**霞み立つ遠景を背負った男は、淡い褐返の紬の綿入れ羽織がよく似合う。
小野寺数馬、そのひとだった。
澪の様子を、そこでじっと見守っていたのだろう。ふたりは暫し、無言で互いを見合った。二年の歳月が、小松原と澪との間に優しく降り積もる。**(234頁)

10巻の中で一番印象的なシーン。澪は心の奥底に小野寺数馬を留めて大坂に向かったと思う。

*****

大坂は四ツ橋、澪の店「みをつくし」の料理、病しらずが文政十一年の料理番付で大関になっている。生まれ故郷の大坂に帰って、十年後の快挙。

この先、澪はどんな人生を歩むことになるのだろう。晩年は海に向かってゆったりと流れゆく大河であろう・・・。占い師によって「雲外蒼天」という人生が示されているのだから。

最後も今までのように引用文を載せる。

**「頭上に雲が垂れこめて真っ黒に見える。けんど、それを抜けたところには青い空が広がっている――。可哀そうやがお前はんの人生には苦労が絶えんやろ。これから先、艱難辛苦(かんなんしんく)が降り注ぐ。その運命は避けられん」(中略)
「けんど、その苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことが出来る。他の誰も拝めんほどの済んだ綺麗な空を。ええか、よう覚えときや」**(第1巻『八朔の雪』98頁)

これは作者の高田 郁さんが読者に宛てた応援メッセージ、この長編のテーマ。

今年は早くも好い小説に出合うことができた。


 


「天の梯」 高田 郁

2017-03-19 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ 全10巻 高田 郁/ハルキ文庫   
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ みをつくし料理帖シリーズ 全10巻 高田 郁/ハルキ文庫  を読み終えた。

**「これで私は永田家という寄る辺を失いましたが、大坂に移り、この澪さんとふたり、手を携えて生きて参ろうと存じます。私は医学の道、そして澪さんは料理の道。互いの道を重ねて、実りのある人生にします」**(303、4頁)つる屋の座敷で皆に挨拶をする源斎、そして澪。このふたりが夫婦になるという予想は当たっていた。

**躊躇うことなく、澪は声を振り絞る。これまで呼ぶことを許されなかった名を、大切なそのひとの名を、あらん限りの声で叫んだ。
「野江ちゃん」
その声に、野江はゆっくりと振り返る。(中略)潤み始めた瞳を見開いて、野江もまた、封印していた名を口にする。澪ちゃん、と呼ぶ声は掠れていたが、澪の耳にははっきりと届いた。**(327頁)

引用した下りが全10巻という長編の結末を示している。

澪があさひ太夫の身請けに必要な四千両もの大金をどうやってつくるのか、ひとつ百六十文の鼈甲珠を日に三十売るという小さな商いでそれは可能なのか・・・。澪が考えついたその方法が、私は全く思いつかなかった。頭が固いといことだろう。澪がその方法を摂津屋に説明する下りを読んで、なるほど!こんな方法があったか、と澪の賢さに改めて感心した。

あさひ太夫の身請け主は澪ではなく、高麗橋淡路屋、野江の生家だったことにもびっくり。

この最終巻で、つる屋をライバル視していた登龍楼の采女宗馬の悪行が明らかになり、**「哀れ登龍楼は取り潰し、立派な店も取り壊し、いずれは別の店が建つ。悪運強い采女宗馬は逃げおおせたが、行方しれず。采女と関わり甘い汁を吸った二本挿しは揃って詰め原切らされる、詳しい話はこちらの読売、お代は四文、お代は四文」**(228頁)と、読売の口上の事態に。

この事件のことは第4巻に既に出てきている。これはものがたり全体の構成を予め構想していないとできない。

この事件に巻き込まれたお芳の息子、佐兵衛を助ける進言をした御膳奉行がいたことが知れる。澪は小野寺数馬がそのひとだと気がつく。 澪が思慕した小松原こと、御膳奉行小野寺数馬は澪から離れていったが、最後に存在感を示した。

**霞み立つ遠景を背負った男は、淡い褐返の紬の綿入れ羽織がよく似合う。
小野寺数馬、そのひとだった。
澪の様子を、そこでじっと見守っていたのだろう。ふたりは暫し、無言で互いを見合った。二年の歳月が、小松原と澪との間に優しく降り積もる。**(234頁)

恋愛小説としてこの長編は読まなかったけれど、この場面は切なくて泣けた。これが映画だったら実に印象的なシーンになっただろう。

船でひとり江戸を発って大坂に向かい、住まいを整えて澪を迎える源斎。摂津屋の同行を受けて、野江とともに大坂に向けて歩いて旅をする澪。思い出深い大坂の天神橋から空を仰ぎ見るふたり。雲が途切れて、そこから覗く真っ青な空。

雲外蒼天

*****

巻末に文政十一年版の料理番付表が載っていて、東の大関はつる屋の自然薯尽くし、西の大関はみをつくしの病知らずとなっている。勧進元は日本橋柳町一柳改メ天満一兆庵。これ以上ないハッピーエンド。


 


「美雪晴れ」 高田 郁

2017-03-18 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ みをつくし料理帖シリーズ全10巻の第9巻『美雪晴れ』を読み終えた。これで最終第10巻を残すのみとなった。

「食は、人の天なり」

いままで各巻を読み終えた後、自分の言葉で綴ることなく、大半を引用で済ませてきた。本巻のメインとなる場面のひとつはここだろう(215頁)。

**「俺ぁ、お澪坊を嫁に出す覚悟はしていたが、よもやご寮さんが先とはなぁ。そのせいか、今日の幸せは一層、身に沁みるぜ」**と種市。

このことばに、**「旦那さんと知り合うて五年、今日までまるで身内のように大事にして頂いて」**と返すお芳さん。

そして**「つる屋の旦那さん、私からもお礼を申します。江戸に寄る辺のない母と澪とを今日まで守り、支えてくれはった。本来なら私がせなならんことを代わりにしてくれはった。どないにお礼を申し上げても足らしまへん」** これはお芳さんの息子佐兵衛のことば。

お芳さんが老舗料理屋一柳の店主の後添いになることが決まり、居所の分かった息子も祝いの席に参列することになったのだった。

そして、澪もつる屋を出ることになる。一柳の店主は後継候補として、澪と佐兵衛を挙げていることを明らかにする。

それから、もうひとつ。

**「(前略)『食は、人の天なり』という言葉を体現できる稀有の料理人なのです。私からすれば、あなたほど、揺るがずに、ただひとつの道を歩き続けるひとは居ない」**(305、6頁)澪の迷う心を解きほぐす源斎のこのことばに対し、**叶うことなら、この手で食べるひとの心も身体も健やかにする料理をこそ、作り続けていきたい。この命ある限り。そう、道はひとつきりだ。「食は、人の天なり・・・・・・」**(306頁) 澪が源斎に向かって「食は、人の天なり」と繰り返すこの場面。

澪が迎えた大きな転機。澪は源斎と結ばれるかもしれない。澪はあさひ太夫を野江に戻すことができるだろうか、それはどうようにして・・・。

次の『天の梯』で物語は大団円を迎える。


 


「残月」 高田 郁

2017-03-17 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ 全10巻の第8巻目『残月』を読み終えた。

この巻では登龍楼の店主が澪を引き抜こうとしたり、澪と同じ裏店で暮らしていたおりょうさん家族が引っ越していったり、お芳さんの息子の居所が分かって再会の見通しがついたり・・・。

で、この巻のハイライトはなんといっても澪と野江が直接逢う場面。いままでこのふたりは間接的に会っただけだった。私はお芳さんのことも気になるけれど、ふたりの行く末が一番気になるので。

吉原の大火の際、翁屋の料理人でつる屋の手伝いもしていた又次に助けられたあさひ太夫(野江)は翁屋の仮宅近くの寮に住んでいる。

大火以来、まるで覇気がないあさひ太夫のことを心配した楼主が**「太夫は上方の出。大坂で生まれ育った料理人のお前さんと話せば気も晴れようか、と思いましてね」**(205頁)と考えたのだった。このことを楼主に勧めたのは医者の源斎。楼主も野江と澪との間の深い事情を察している。

**「元飯田町つる屋の、料理人でございます」
返答はなく、ただ衣擦れの音が聞こえて、澪は顔を上げた。そのひとが身体ごと澪に向き直って、じっとこちらを見つめている。(中略)
「翁屋のあさひだす。今日は遠いところをお呼び立てしました」**(209頁)

あくまであさひ太夫として、料理人として逢うふたり。

**「私には、大事な幼馴染みが居るんだす。十四年前、大坂の洪水でともに天涯孤独の身ぃになった、大事な大事な幼馴染みが」**(213頁)

**「今は廓の籠の鳥。けれど、何時か、遊女の衣を脱ぎ捨てて、その幼馴染みだけが知っている、高麗橋淡路屋の末娘、野江の姿で逢うことを、生きる縁(よすが)としています」**(213頁)

本人を前にしてこう語るあさひ太夫。なんともせつない場面。

「野江ちゃん」、「澪ちゃん」と呼び合う日が来るんだろうか、来るとしたらそれはどのように・・・。


巻末に付録としてついている「みをつくし瓦版」、『心星ひとつ』の瓦版で作者は書き始める前に設計図を決めていることを明かし、何巻でどんな出来事が起こるか、大枠は最初に決めている、と書いている。10巻にも及ぶストーリーの大枠を決め、最終話のタイトルも場面も決まっているという。これほどのストーリーを構想する高田さんはすごい。 


「夏天の虹」 高田 郁

2017-03-16 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ 第7巻を読み終えた。ハイペースに自分でもびっくり。

想いびとと添う幸せ、料理人として生きる幸せ。澪は悩み苦しんだ末に後者を選ぶ。

**「魚の焦げる臭いも味も、わからんようになってしもたんです。風邪でこないなこと・・・」**(165頁)料理人として生きることを選んだ澪が匂いも味も分からなくなってしまう。ああ、なんということだ。

**かんかんかんかんかん、と甲高い鐘の音がはっきりと耳に届いた。長閑やかな刻を打ち壊す、容赦のない連打だ。**(286頁)

10巻もあればどこかで火の見櫓が出てくるかもしれないと思っていたが、擦り半か。この巻の終盤になって、吉原が火事になり(文化13年の吉原の大火という史実に基づいている)、野江(あさひ太夫)を助けた又次が命を落とす。**「頼む、太夫を、あんたの・・・・・・、あんたの手で・・・・・・」**(293頁)という最期のことばを澪に残して。この展開にはびっくりした。

遺骨替わりの灰を納めた壺に向かって種市は**「明日からまた、つる屋を開けるぜ。もう何処にもいかねぇで、俺たちとここで一緒に居てくんなよ」と話しかける。この場面に涙。

泣かせてくれるなぁ、この小説は・・・。


 


― 火の見櫓の青焼き図面

2017-03-16 | A 火の見櫓っておもしろい



 ある方から昭和30年ころに描かれた火の見櫓の青焼き図面をいただいた。大変貴重なものだ。これは図面の柱脚・基礎部分。図面全体は本には載せたいが、ブログでは部分掲載に留める。

この図面で柱脚をタイバー(べた基礎部分の水平部材)で繋いでいることが分かる。部材の記載はないが、山形鋼ではないかと思う。柱脚の開き止めを意図した部材であろうが(それ故タイバーと記した)、柱脚にかかる引きぬき力に抵抗するスタッドボルトのような効果もある程度期待できるだろう。

コンクリート基礎に埋められているので現地で見ることはできないが、この火の見櫓を設計施工した鐵工所ではこんな配慮をしていたということがこの図面で分かる。


 

 


― 半鐘を叩く消防団員

2017-03-15 | A 火の見櫓っておもしろい


松本市笹賀の火の見櫓 撮影日時 170315 朝7時過ぎ

■ 消防団員が見張り台に立っていて、ちょうど7時になったところで、半鐘を叩き始めた。今やこのような光景を目にすることは滅多にない。松本市内で半鐘を叩く消防団員を見る機会があるとは・・・。


 *プライバシーに配慮し、顔が手で隠れている写真を採用しました


「心星ひとつ」 高田 郁

2017-03-15 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫 第6巻「心星ひとつ」を読み終えた。

二十歳そこそこの主人公、澪は人生の大きな岐路に立たされる。

吉原の翁屋の楼主の誘いを受けて吉原で天満一兆庵を再建するのか、登龍楼の店主の神田須田町の店を居抜きで買わないかという申し出を受けてつる屋を移すか・・・。

**「ひとは与えられた器より大きくなることは難しい。あなたがつる屋の料理人でいる限り、あなたの料理はそこまでだ」**(75頁)という料理番付の行司に名を連ねる料理屋の店主の言葉。

この巻の終盤。**「妹早帆から、母がつる屋に乗り込んだ、と聞いたのはこの夏のこと。さらにその母から、澪という娘を小野寺家へ嫁として迎えよ、と命じられたのは、半月ほど前のことだった」**(252頁)**「腎の臓を病んだ母の、命がけの懇願だった。それに詳しくは申さぬが、文月の初めに同役の者が二名、失態で腹を切ったことも重なり、ふと、このまま死ぬるならば悔いは何か、と柄にもなく考えた」**(252頁) 小野寺が澪にこう語る。(中略)**「俺の女房殿にならぬか」**(253頁

**源斎先生、と澪は口を開いた。
「道が枝分かれして、迷いに迷った時、源斎先生なら、どうされますか」
(中略)
「私なら、心星を探します」
(中略)
「悩み、迷い、思考が堂々巡りしている時でも、きっと自身の中には揺るぎないものが潜んでいるはずです。これだけは譲れない、というものが。それこそが、そのひとの生きる標となる心星でしょう」**(281、2頁)

敢えて引用しないが、澪が出した結論が巻末、最後の2行に書かれている。

経緯は書かないが、この巻で澪は野江と最接近する。澪はこれからどう生きていくのだろう、野江はこの先どうなるのだろう・・・。

お芳さんのことも気になる。**「(前略)どこか大店の旦那の後添いにおさまって、女将としての采配を振るなんてのが、ご寮さんには、いかにもはまり役だと思いますがねぇ」**(32頁)と、おりょう。


 **百五十年ほど昔のことだが、「明暦の大火」では、死者は十万人を超え、千代田の城も本丸を失った。**(147頁)つる屋のある元飯田町でぼやが頻発して、火の使用時間の制限を受けてしまうなどということも起きた。その時、澪は料理を工夫して切り抜けたが。


「小夜しぐれ」 高田 郁

2017-03-13 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫 その第5巻「小夜しぐれ」を読み終えた。いろんなことが起きるから展開が気になって読み進めることになる。高田 郁さんはストーリーテラーだ。

この巻ではまずつる屋という店の名前の由来の娘つるが17歳で亡くなった経緯が明らかになる。**種市を人殺しにしないこと。種市に死を選ばせないこと。**(82頁) え、何が起こった?

**おつるを死に追い込み、それを償うことなく逃げた男、それが錦吾なのだ。錦吾を殺めることでおつるの敵を討ちたい、と種市が思うのはしごく当然だった。**(82頁) ここでは意図的に引用する順序を逆にした。

次は野江がいる吉原の翁屋で毎年行われている花見の宴の料理を澪が作ることになる、という出来事。

**「旨い料理を出す、としながら料理が客の口に合わなければ翁屋にとっての恥。けれども、もし客の気に召せば最高の趣向。これほど誉れなことはありますまい」**(100頁)と翁屋の楼主。

この話を受けた澪は献立作りに悩む。源斎は**「あなたらしく料理をすれば良い。吉原廓の上客だから、と構える必要はないと思いますよ」**とアドバイスし、続けて**「この度の宴はあさひ太夫とはかかわりの無いものでしょうが、太夫に食べてもらいたい、と思う料理を作ってみてはどうですか」**という。

宴に招かれた上客は十人。**「花見の宴とは即ち、桜花を愛で、酒を汲み交わすものではないのか。これではただの会食ではござらぬか」
男の言葉に、隣席の摂津屋が僅かに眉を曇らせる。内心、厄介な、と思っていることが窺えた。**(141頁)こんな下りを読めば驚くし、先が気になってしかたがない。これ以上ここに引用するのは野暮というもの。

宴の後、澪に楼主はこの吉原で料理屋をやる気はないかと尋ねる。**「(前略)年に千両稼ぐことも夢ではあるまい。遣り方次第ではもっと稼げるかも知れぬ」**(155頁)澪の心は揺れる・・・。

この巻の終盤で小松原の正体が明らかになる。小松原は偽名、小野寺数馬という名の御膳奉行だった。

小野寺の妹の早帆は兄が澪を好きなことに気付く。

小野寺と早帆が夜中に台所で大豆を煎って、きな粉をつくりながら交わすやり取りがほほえましい。**「兄上とその娘とで料理屋でもされてはいかが?存外、町人の方が兄上にはお似合いか、と早帆は思いますゆえ」**(273頁)

この先どうなるのだろう・・・。


 


「今朝の春」 高田 郁

2017-03-12 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



 みをつくし料理帖 第4巻「今朝の春」を読み終えた。高田 郁さんの作品を読むのは初めてだが、ようやく文体にも慣れて読みやすくなった。

この巻で澪と同じ長屋で暮らすおりょうの旦那、伊佐三の浮気騒動が起きる。

**「伊佐三さん、私もこの歳だす。男と女が割りない仲になり、堕ちていくんも、よう見聞きしてます。お前はんとお牧いうひともそうなんか、と。けど、子盗りの一件で、もしかしたらそれは違うかもしれん、と思うたんだす。割りない仲なら、子はむしろ邪魔なはず」**(202頁)とお芳さん。

鋭いお芳さんは伊佐三の浮気騒動には裏があると見抜き、**「若い娘と割りない仲になった、と周りに思わせておいて、お前はんは何ぞほかに、隠しておきたいことがあったんやないか、と」**(202頁)と続ける。

その後、ことの真相が分かるのだが、それでまた涙。これは私好みの涙小説だ。真相については、子を思う親の気持ちから出たこと、とだけ記しておく。

この巻でも大きな出来事が起きる。それはつる屋と登龍楼との料理対決。

ある日、料理番付の版元の使用人がつる屋を訪ねてくる。**「この度は、登龍楼さんとつる屋さんとで、料理の競い合いをお願いしたく、こうしてお訪ねしました」**(218頁)

**「うちの番付で大関を取る、というのは即ち、江戸一番の証。ここ数年は登龍楼の独壇場だったのですが、今年は票が割れて割れて。(中略)決着を見ないままなのです」**(219頁)というのがその理由。料理対決は同じ食材を使った料理を三日間提供して、行司役たちが密かに二軒の店を巡り、料理を食べ比べて優劣を決めるというものだった。

対決の結果は・・・?

それから、澪の幼馴染みの野江がなぜ吉原にいるのか、その訳も明らかになる。

**「水害で記憶を無くして自分が何処の誰かもわからねぇ、そんな小せぇ子を手前は御助け小屋から連れ出して、吉原へ売り飛ばしやがった。旭日昇天てぇ触れ込みでな」**(123頁)「江戸へ向かう道中、手前は散々、嘘の話をその子に吹き込みやがった。そうして無くした記憶の分を手前の嘘で埋めた。(後略)」**(124頁) 野江がいる吉原翁屋の料理人の又次が男に迫る。

それから、澪と野江の今後をおそらく暗示するこんな言葉が常連客の戯作者、清右衛門から出る。**「お前がその身請け銭の四千両を用意して、あさひ太夫を吉原から出してやれ」**(143頁)

もう、先が気になって、気になって・・・。第5巻「小夜しぐれ」を読む。