透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「若菜 上」

2022年07月04日 | A 源氏物語

「若菜 上 女三宮の降嫁、入道の遺言」

 『源氏物語』はここまで各帖(巻)すべて短く、2,30ページ位だった。だが「若菜 上」と「若菜  下」の2帖で約140ページある。「若菜」はこの長編の大きな峠のような気がする。峠を越えると今までとは違う風景が広がっているのではないか、そんな予感がする。

源氏物語の登場人物の多くに血縁的な繋がりがある。各帖のはじめに登場人物系図が載っている。いままでの帖では1ページに収まっていたが、「若菜 上」と「若菜  下」は見開き2ページ。

**朱雀院(光君の異母兄)は、先頃の行幸(みゆき)の後から、ずっと体調がすぐれないままである。**(272頁)「若菜 上」はこんな書き出しで始まる。出家を思い立った朱雀院には東宮の他に娘が3人いて、心配なのは女三の宮のこと。あれこれ思いをめぐらせる。光君の浮気心を心配するものの、**「本当に少しでも世間並みの暮らしをさせたいと思う娘がいるなら、どうせなら光君のような人と縁づかせたいものだ。(後略)」**(278頁)など考えて、後見に選ぶ。光君は一旦は辞退するが結局引き受けることに。

光君は40歳になる。いつまでも若いと思っていたのに、今やすっかりおじさん。

2月に女三の宮は降嫁、六条院に移ることになる。ずっと安泰だと思っていた紫の上は、落ち着いてはいられないし、居心地悪く思ってしまうが、平静を装っている。女三の宮に対する紫の上のコメント(ここに引用はしないけれど)を聞いた女房たちは**「お心が広すぎますよ」**と言っている。確かに寛大な女性だと思う。

**どうしてこの姫宮をこんなにもおっとりとお育てになったのだろう。とはいえ、たいそうご熱心にお育てになった皇女と聞いていたのに・・・(後略)**(306頁)と光君は女三の宮の幼稚さに落胆する。で、改めて紫の上の人となりをすばらしく思う。光君、紫の上の魅力再認識。

光君と朧月夜との関係は長年続いた、ということは前々から予備知識としてあった。この帖でその朧月夜が再び登場する。ここで復習。八帖「花宴」、当時光君は20歳。花見の宴が催された日、暗闇の中で朧月夜を抱き上げて部屋の中へ。彼女と一夜をともにする。その声から相手が光君だと分かった朧月夜は「光くん(ここは光君(ひかるきみ)ではなく、今風に光くんとしておこう)だったら、ま、いっか」と思ったのだろう。

光君は40歳にもなるが朧月夜との恋を再燃させる、朧月夜のことを軽々しい女と侮ってもいたのだが・・・。紫の上はふたりの関係を薄々感づいている。**「ずいぶん若返ったお振る舞いですね。昔の恋を今蒸し返されましても、どっちつかずの寄る辺ない私にはつらいだけです」**(314頁)と、光君に打ち明けられた紫の上は応える。

中年おじさんの光君は女子高生くらいの歳の女三の宮と結婚した。で、紫の上と姫宮は母娘ほど歳が離れているが仲良くつきあっている。やはり紫の上は人としてできている。

光君40歳。当時40歳といえば長寿の祝が催される年齢。で、いろんな祝いの催しが行われる。

翌年、明石の女御が東宮の子(男の子)を出産する。孫の女御が東宮に入内して男宮を出産したことを知った明石の入道、長年の念願が叶って人里離れた山奥に身を移す。この時代の人たちに晩年には俗世を断ち切りたいという願いがあったのだろう・・・。

長い帖のどこを切り取るか・・・。やはり柏木が女三の宮にずっと恋心を抱き続けていたことだろう。**衛門督(えもんのかみ)の君(柏木)も、かつて朱雀院につねに出入りし、ずっと親しく仕えていた人なので、この姫君を父朱雀院が帝の時からどんなにたいせつに育てていたか、その心づもりもよくよく見知っていて、だれ彼と縁談のさだめのあった頃から求婚の意を示していた。(中略)六条院に降嫁などと思惑外れのこととなったのは、まったく残念で胸も痛み、未だにあきらめきれないでいる。**(345頁)で、光君が出家したらその時は・・・、などと機会をうかがっているというのだから相当な恋心。

3月、六条院で蹴鞠が行われた時のこと。柏木もその場にいた。彼は猫が長い綱が何かに引っかかって、御簾の端がめくれたところを目にし、中にいた姫宮(女三の宮)の姿を見てしまう。**着物の裾が長く余るほど本人はほっそりと小柄で、姿かたち、髪のふりかかる横顔は、なんともいえず気品に満ちて、可憐である。**(348頁)

督の君(柏木)は**姫君のどんな欠点も思いつくこともなく、思いがけない隙間から、ほんのわずかにせよその姿をこの目で見られたのは、私が昔から寄せていた思いも成就する前兆でではないかと、こうした縁もうれしく思い、ますます慕わしく思う。**(350頁)

彼はとうとう姫君に恋文を書く・・・。あらら、知~らない。平安貴族の社会規範は今とはまったく違うんだろうな~。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋  


消えゆく火の見櫓

2022年07月03日 | A 火の見櫓っておもしろい




撮影日2022.07.03

 長野県朝日村には火の見櫓が17基あった(と過去形で書かなければならない・・・)。旧役場庁舎の敷地内に立っていた火の見櫓が昨年度末に旧庁舎と共に解体された。そして、数日前にもう1基、西洗馬という地区の消防団の詰所の横に立っていた火の見櫓が詰所と共に解体撤去された。この火の見櫓は1955年(昭和30年)の7、8月に建設された。建設費は13万円だった。



人には忘れたくない、いつまでも覚えていたい記憶があるものだが、風景も同じことで、いつまでも残しておきたい風景があるものだ。そんな風景が消えてしまうと、すごく寂しい。忘れてしまった記憶は何かの拍子にふっとよみがえることがある。でも、消えてしまった風景がよみがえるなどということはない・・・。


 


塩尻市片丘の火の見櫓

2022年07月03日 | A 火の見櫓っておもしろい

480
(再)塩尻市片丘 3脚66型 撮影日2022.07.02

 この火の見櫓は2012年1月に既に観察している。それから早10年、昨日(2日)再び観察した。


横架材が2段の櫓、見張り台の高さは6mくらいか。外付け梯子を掛けてある。


反りの付いた6角錐(平面形が6角形)の屋根、急勾配。てっぺんの避雷針にも、軒先にも飾りが無くてシンプル。6角形の見張り台は山形鋼の手すりに丸鋼の手すり子、飾りは無し。半鐘は表面に突起(乳)などが付いた古いタイプ。木槌を吊り下げてある。木槌があると現役感(今も使っているような感じ)がある。小さいソーラーパネルは何のためだろう。電線が無いから夜間照明用か? 他には浮かばない。反対側を見れば分かったかもしれない・・・。


交叉ブレースのリング。丸鋼をリングの外側に溶接している。垂直構面の補強にはなるからこれでも可か。建て方の時、櫓は修正が必要なほど変形しなかったとも聞くから、ターンバックルは不要なのかな・・・。よく分からん。リングの無い単なる交叉ブレースだったら味気ない。やはりリングは飾りとしても欠かせない。


脚部を観る。柱材と2本の部材を横向きに入れた短材で繋ぎ、脚部を構成している。短材の設置の仕方がこれでよいのかどうか、これで補強効果があるのかどうか。効果はあるとは思うけれど、やはり3角形をつくってトラス脚にするのが正解だと思う。


脚元の花がきれいだった。 この写真が撮りたくて、車を停めた次第。ちなみに2012年に観た時は冬だったので下のような状態だった。火の見櫓は季節や時間帯、天候によっても印象が変わる。

 
撮影日2012.01.23


 


「雪国」

2022年07月02日 | A 本が好き



 川端康成の『雪国』を初めて読んだのは高校生の時だったと思う。以来何回か読んでいるが、また読み始めた。以前手元に3冊あった文庫本は古書店に引き取ってもらったので、昨日(1日)買い求めた。奥付を見る。昭和22年(1947年)発行、戦後の混乱期。令和2年(2020年)157刷となっている。すごい。名作は再読に耐える。



最近の文庫のカバーデザインは派手過ぎて好きではないが、これは好い。ただし文字が大きすぎると思う。上の写真を見ると分かるが、デザインが変わるたびに文字が大きくなっている。もっと控えめに、控えめに。こうして目立つようにしないと、名作と言えども手に取ってもらえないという事情があるのだろう。

**国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。** この書き出しとよく似ていると思うのが、「津軽海峡冬景色」の**上野発の夜行列車おりた時から 青森駅は雪の中**という歌い出し。どちらも一気に雪景色にズームインしている。


 


「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」

2022年07月01日 | A 本が好き


『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫1977年発行 2003年46刷)

 今日(07.01)の朝カフェ読書で『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読み終えた。このSFを読むのは今回が3回目だと思う(過去ログ)。

人間とは何か? という根源的な問いかけ。作者は火星から逃亡してきたアンドロイドを見つけて処分し、懸賞金を手にするという主人公を設定してこのテーマをSF小説に仕立て上げた。これは要するに「人間であるために何をなすべきか」という読者への問いかけであろう。なんとも難しい問いかけだ。

アンドロイドと人間はいったい何が違うのか、違いはあるのか・・・。

**感情移入はどうやら人間社会だけに存在するものらしい。**(41頁)**感情移入度測定検査**(41頁) 感情移入というキーワードが早々に出てくる。

「ブレードランナー」はこの小説が原作の映画だが、ラストで主人公のデッカードはレイチェル(アンドロイド)を連れてアパートを出る。この場面に原作のテーマ、人間であるためになすべきことに対する応答である感情移入、すなわち相手に対する共感が描かれていると私はみた。


 


「藤裏葉」

2022年06月30日 | A 源氏物語

「藤裏葉 夕霧、長年の恋の結実」

 夕霧(宰相中将)と雲居雁は相思相愛の仲。ようやく内大臣(雲居雁の父親)も二人の結婚のことを考えるようになった。**あの内大臣も以前とは打って変わって弱気になり、ちょっとしたついでに、そう改まらずに、とはいえそれにふさわしい折に・・・と二人のことを考えている。**(247頁) 

内大臣は自邸で藤の花の宴を開き、夕霧宛ての便り(歌に託した招待状、藤の枝に結びつけてある)を息子の柏木(頭中将)に託し、夕霧を招く。宴席で二人は和解。

宴の後、夕霧は柏木に案内されて雲居雁の部屋へ。**中将は、内心では、妹の元に連れていくのは癪に障る気がしないでもない。しかし宰相の君の人柄が申し分なく立派であり、長年こうなってほしいと願ってきたことではあるので、安心して女君の部屋に案内した。**(252頁) で、二人は結ばれる。

ようやくここまでこぎ着けた夕霧について、紫式部は自分で自分を褒めたいと思ったことでしょう、と書く。バルセロナ五輪の女子マラソンで銀メダルを獲得した有森裕子のコメントのように。雲居雁の母親(按察使大納言の北の方)も二人の縁組をうれしく思っていた。

さて、明石の姫君の入内が四月二十日過ぎに決まった。養母の紫の上は、明石の君(実母)を後見に推薦した。入内に付き添って参内した紫の上が宮中から退出する日のこと。**紫の上に代わって明石の御方が参上する夜、二人ははじめて顔を合わせた。**(259頁)相手の印象は・・・。

紫の上は明石の御方について、**明石の御方が何かものを言う時の様子など、なるほど光君がこの人を大事にするのももっともだと、紫の上は意外な思いで彼女を見る。**(259頁)

一方、明石の御方は紫の上について、**たいそう気高く、女盛りである紫の上の容姿に圧倒される思いで、なるほど、大勢いらっしゃる方々の中でも、特別のご寵愛をお受けになって、並ぶ者のない位置に定まっていらっしゃるのも、まことにもっともなこと**(259頁)と思う。

光君は姫君の入内も望み通りになったし、夕霧もなんの不足もない暮らしに落ち着いたから、安心してかねてから願っていた出家を遂げよう、などと思う。光君も歳を取ってきている。このとき、39歳。ちなみに手元の資料によると、夕霧は18歳で、雲居雁は20歳。

その年の秋、光君は太上天皇(上皇)に准じる位を授与された。また内大臣は太政大臣に、宰相中将は中納言に昇進した。夕霧と雲居雁の夫婦は故大宮邸に移った。その邸は二人が幼い頃育ったところだ。

十月、紅葉の盛りの頃、帝(冷泉帝)が六条院に行幸する。朱雀院(光君の異母兄)も招かれて同行する。華やかな儀式。

**紫の雲にまがへる菊の花濁りなき世の星かとぞ見る(紫雲と見まごうほどの菊の花―格段に高い身分となられたあなたは、濁りなき御代の星のように見える) いよいよお栄えになりましたね**(265,6頁)と太政大臣。 

光源氏の栄華ここに極まれり。怜悧な紫式部は物語をここで終わりにはしない。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋  


ブックレビュー 2022.06

2022年06月29日 | A ブックレビュー



 6月も明日で終わる。はや半年が過ぎる。

今年を『源氏物語』の年と決めて少しずつ読み進めている。「源氏」を読まない日は他の小説を読む。今月(6月)の読了本は7冊。20代で読んだ本には水色のテープが貼ってあるから分かるが、今月は3冊読んだ。

『どくとるマンボウ青春記』(中公文庫1973年6版)
北杜夫の作品では一番よく知られているだろう。繰り返し何回も読んだ。

『幽霊』北 杜夫(新潮文庫1981年29刷)
幼少期の記憶をたどる心の深層への旅。

『山の音』川端康成(新潮文庫1957年発行、2022年新版発行)
新たに買い求めて再読した。初恋の女性によく似た息子の嫁。幼い時に母親を亡くした川端康成の母親探し。光源氏然り。

『収容所から来た遺書』辺見じゅん(文春文庫1992年1刷、2021年23刷)
おそらく今年もっとも印象に残る作品になるだろう。シベリヤ抑留、悲惨な日々。仲間を励まし続けたひとりの男、いつの世にも凄い人はいるものだ。
NHK・BS「週刊ブックレビュー」に出演しておられた辺見じゅんさんの和服姿が目に浮かぶ。

『小さな家の思想 方丈記を建築で読み解く』長尾重武(文春新書2022年)
**鴨長明は自らの終の棲家として、方丈庵を構想し、そこでの暮らしに安寧を見出しました。自分の死の形をそこに取り込み、そうすることによって生を輝かせることができた。そこに現代のわれわれが学べることは少なくないと思います。**(244,5頁)

『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム(ハヤカワ文庫1977年発行、1993年22刷)
SF小説の中でもっとも印象に残る作品。

『第四間氷期』安部公房(新潮文庫1970年発行、1971年2刷)
名作は再読に耐える。今読んでも古びてはいない。安部公房の他の作品も再読したい。そのために、自室の書棚に残したのだから・・・。


 


記憶

2022年06月28日 | B 新聞を読んで



 6月27日付信濃毎日新聞の9面(科学面)に「まるでSF小説・・・脳に光照射  つらい記憶消去」という見出しの記事が掲載されていた。

記事のリード文に京都大や理化学研究所、大阪大などのチームが**特殊なタンパク質と光を利用してマウスの記憶を消すことに成功。**とある。一体どのような方法によってマウスの記憶を消去したのかということ、それからどのような方法で記憶が消去されたことを確認、実証したのかということに興味を抱き、記事を読んだ。

記憶のメカニズム:新しい記憶はいったん脳の「海馬」に不安定な状態で一時保存され、その後「大脳皮質」に転送されて長期保存されると考えられている。

記憶の形成を阻止する方法:活性酸素は記憶の形成に関わるシナプスのタンパク質の働きを妨げる。特定の波長の光を照射すると活性酸素を放出するイソギンチャク由来の蛍光タンパク質、このタンパク質をつくる遺伝子を脳に組み込む。脳の狙った場所に光を照射して活性酸素を放出させ、シナプスのタンパク質の働きを妨げる。こうして記憶の形成を阻止する。なるほど。

では、このような方法でマウスの記憶を消すことができたことをどうやって実証したのか。

記事には分かりやすいイラストが掲載されている。暗いボックス(部屋)と明るいボックスをつなげた実験装置。暗い場所を好むマウスは明るいボックスから暗いボックスに移動する。そこで電気刺激、マウスびっくり恐怖体験。で、光ファイバーで脳に光を照射したマウスと照射しなかったマウスを翌日明るいボックスに入れる。すると光を照射されて恐怖体験の記憶を消されたマウスは躊躇せずに暗いマウスに移動し、記憶が消えていないマウスはおびえてなかなか移動しない。なるほど。

動物実験の実証方法には感心する。

『魚にも自分がわかる 動物認知研究の最先端』幸田正典(ちくま新書)や『モンシロチョウ キャベツ畑の動物行動学』小原嘉明(中公新書)で紹介された実験は実に興味深く、おもしろかった。

 

新聞記事を読んで思った。消してしまいたい記憶だけ無くなるならいいけれど、ずっと覚えていたい記憶まで消されてしまったらやだなぁ、どうしても思い出せない記憶をよみがえらせてもらえないかなぁ、脳内の映像記憶をディスプレイに映し出すというアイディアは実現できるかもしれないなぁ、などと・・・。


 


「梅枝」

2022年06月27日 | A 源氏物語

「梅枝 裳着の儀を祝う、女君たちの香」

 光君の正月は明石の姫君の裳着(成人式)の準備に忙しい。朱雀院の皇子である東宮も二月に元服が予定されている。その後、姫君は東宮妃として入内(じゅだい)が決まる予定。

正月末、光君は薫物(たきもの)を調合する。で、六条院の女君たちにも香木を割り当て、調合を依頼する。薫物合わせが行われることになり、女君たちの調合した薫物が集められた。優劣の判断をするのは兵部卿宮(光君の弟)。宮は絵合でも審判役を務めている。二種類ずつという光君の依頼に対し、紫の上は三種、花散里は一種だけ調合した。ここでも花散里は控えめだ。

夜、月が上ってきたので内大臣家の息子たちも交えて宴、そう、月の宴が催された(いつ頃だろう、月を愛でる習慣が無くなったのは。銀閣寺も観月用に建てられたそうだ。路傍などに祀られている二十三夜塔は月が信仰の対象であり、愛でる対象でもあったことを示している)。

翌日、秋好中宮(六条御息所の娘)の御殿で明石の姫君の裳着が行われた。明石の君(姫君の実母)は身分が低いことを憚り参列しなかった。**このような邸のしきたりは、ふつうの場合でもじつに面倒なことが多いし、今回もほんの一端だけを、いつものようにだらだらと書き記すのもどうかと思うので、くわしくは書かないこととします。**(232頁)とは作者・紫式部の弁。

東宮の元服が二月二十日過ぎ頃に行われた。よその姫君たちが遠慮して入内を見合わせているという噂を聞きつけた光君は明石の姫君の入内を延期して四月に、と決める。その間に光君は道具類をさらに整え、数々の草子(物語や歌集)を選ぶ。

光君は紫の上を前にして六条御息所、秋好中宮、藤壺、朧月夜(なつかしい)、朝顔、それから紫の上の筆跡について批評する。六条御息所の筆跡は格段にすぐれていると思ったものだとか、朧月夜こそは**当代の名手だが、あまりに洒落ていて癖があるようだ**(234頁)などと。

明石の姫君の入内の準備が進んでいることが内大臣には気に掛かる。こんなことになるなら、夕霧が強く望んでいた娘(雲居雁)との結婚を認めてやればよかった・・・。光君もまた、夕霧(宰相の君)の身がいつまでも固まらないことを心配している。で、**「あちらの姫君のことをあきらめたのなら、右大臣や中務宮などが、婿にとの意向をお伝えになっているようだから、どちらかにお決めなさい」というが、宰相の君は何も言わずにかしこまった様子でいる。**(238頁)夕霧は雲居雁のことが忘れられないのだ(このふたりはいとこ同士)。

光君は息子の夕霧に結婚について説教する。ここで光君の結婚観が語られる。そのポイントを長くなるが引用する。**あなたはまだ位も高くないし気楽な身分だからと、気を許して、思いのままに振る舞ったりしてはならないよ。自分でも気づかないうちにいい気になっていると、浮気心をおさえてくれる妻もいない場合、賢い人でもしくじるという例が昔にもあった。恋するべきではない人に心を寄せて、相手も噂になって、自分も恨みを買ってしまうなんて、往生の妨げになる。**(239頁)千年も昔のこの教訓は現代にもあてはまりそうだ。

光君の説教は続く。**もし間違った相手といっしょになって、その人が気に入らず、どうも辛抱できないような場合でも、やはり思いなおして添い遂げようとする気持ちを持ち続けなさい。(後略)** これはどうだろう・・・、離婚率が高まっている現代において受け入れられる教訓ではないように思うけれど・・・。

『源氏物語 中巻』 次は「藤裏葉」。その次の「若菜上」と「若菜下」は長い。ふたつの帖で269頁から440頁まである。この大河小説の峠かな・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                            


朝の空はドラマチック

2022年06月27日 | C 朝焼けの詩


 今日(27日)の夜明け 東の空に釣り針のような月が浮かんでいた。


それから間もなくして空はなんだか不気味な表情に・・・。


そして空は爽やかな朝の表情に。

朝の空はドラマチック・・・。


 


SF映画の原作を読む

2022年06月26日 | A 本が好き

480

 先日「ソラリス」というSF映画を観た。DVDのケースの作品紹介にSF映画の三大金字塔として「2001年宇宙の旅」と「ブレードランナー」、それから「惑星ソラリス」が挙げられていた。映画の評価はさまざまで、ベスト3の作品も定まらないが、ネット検索してみると「2001年宇宙の旅」と「ブレードランナー」は上位によく挙げられている。「惑星ソラリス」は上位にはないことが多いようだが、この作品のリメイク版が「ソラリス」だから三大金字塔として挙げた、という広告事情があるのかもしれない。

この3作品の原作が手元にある。

『2001年宇宙の旅』を書いたアーサー・C・クラークのSF小説は何作も読んだが、手元に残したのはこの作品だけ。代表作だと思うから。カバー裏面に**巨匠クラークが、該博な科学知識を総動員してひとつの思弁世界を構築する現代SFの金字塔!**と本作が紹介されている。SF小説をそれほど読んではいないが、この作品は確かに金字塔、ベスト3に入ると思う。映画も。

『ソラリスの陽のもとに』の発表は1961年、60年以上も前の作品だが、今なおSFファンは読むだろう(*1)。この作品を先日再読した。惑星ソラリスを覆う海が知的生命体だということ、それからソラリスを観測している科学者たちの記憶を検索し、それを実体化して目の前に出現させてしまうという発想がとにかく凄い。哲学的思索。この作品も私のベスト3。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック。この作品を知ったのは20代のころだった。奇妙なタイトルが印象に残った。初めて読んだのはそれからだいぶ後のことで、手元のハヤカワ文庫の奥付を見ると1977年の発行、2003年46刷となっている。

昨日(25日)の夕方この作品が原作の映画「ブレードランナー」を観た。映像表現が高く評価されている作品だ。安部公房の『第四間氷期』を読んでいる途中で観たので、両作品に描かれる未来の姿が妙に重なって、爽やかな気分とは真逆の気分で夜を過ごすことになった。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んでからもう20年近く経っている。再び読み始めた。

今月は新書をまだ1冊しか読んでいない。この頃、新書より小説が読みたいと思うのはなぜ?


*1 『ソラリス』(ハヤカワ文庫2015年)


朝焼け

2022年06月25日 | C 朝焼けの詩


撮影日時2022.06.25 04:20AM

朝焼け。
東の空の右上方に爪の先のような月が浮かんでいた。
今日は何か好いことがあるかな・・・。


「真木柱」

2022年06月25日 | A 源氏物語

「真木柱 思いも寄らない結末」

 玉鬘は黒髭の大将の手に落ちた。黒髭は玉鬘がいやだなぁって思っていた男。玉鬘は情けない運命だった・・・、と嘆くばかり。光君は女君をきっぱり忘れることができない。大将がいない昼頃、光君は女君の部屋に行く。そこで**おりたちて汲みは見ねどもわたり川人の瀬とはた契らざりしを**と詠む。**(あなたとは立ち入って親しい仲になれなかったけれど、あなたが三途の川を渡る時、私以外の男に背負われて渡るとは約束しなかったのに)** それに対して**みつせ川わたらぬさきにいかでなほ涙のみをの泡ときえなむ**と返す。この歌の意味も本文から引く。**(三途の川を渡る前に、どうにかして、涙の川の流れの泡となって消えてしまいたい)** 自分の境遇を嘆き悲しんで詠んだ歌。光君へのその場限りの返歌、ではないと思う。かわいそうな玉鬘。 彼女はこの先どうなるのだろう・・・。 

(黒髭・・・、どこかで聞いたことがあるような名前だなぁ。「ひょっこりひょうたん島」に登場していたキャラ、あれはトラヒゲか。

黒髭には北の方という奥さんがいるけれど、長年物の怪に取り憑かれている。ふたりの間には3人の子どもがいる(男の子ふたりと女の子がひとり)。ある夜、玉鬘のところに出かけようとする黒髭の身支度を手伝っていた北の方・・・、**がばりと起き上がり大きな伏籠(ふせご)の下から香炉を取って大将の背後にまわり、ぱっと灰を浴びせかけた。何が起きたのかわからないほどの一瞬のことで、大将は驚きのあまり茫然としている。**(198,9頁) 黒髭灰だらけ、この帖の印象的な出来事。

この後、黒髭は北の方には近寄ろうともしない。北の方の父親(式部卿宮)は娘と孫を引き取る。娘は邸を去るとき、**今はとて宿かれぬとも馴れ来つる真木の柱はわれを忘るな**と悲しむ。この娘(こ)は小学6年生くらいだけれど、歌を詠む。真木は檜(ひのき)かな、檜柱さん、私のこと忘れないでね。詠む歌もかわいらしい。歌を檜皮色の紙に書いた姫君は柱のひび割れたところに笄(こうがい)の先で押し込む。

黒髭は息子ふたりだけ連れ戻す。黒髭は落ち込んでいる玉鬘を慰めるために内侍として宮中入りを許す。冷泉帝がさっそく玉鬘の部屋を訪ねる。玉鬘は**このままでは、あってはならぬことも起きかねない身の上なのだ、と情けなく思っている(後略)**(212頁)大将も心配になって、早々と退出を願い出し、自邸に連れて帰る。その際、玉鬘が帝に宛てて読んだ歌。**かばかりは風にもつてよ花の枝(え)に立ち並ぶべきにほひなくとも** 何回も書くけれど、玉鬘は理知的な女性だ。黒髭の息子たちは玉鬘によくなつく。11月にはかわいらしい男の子が生まれる。 

この帖の最後に紫式部は唐突に近江の君(過去ログ)のことを書く。**そういえば、内大臣が引き取った近江の君を覚えていますか。**(221頁)今後の展開に必要なのだろうか。近江の君は夕霧に恋して、歌を詠むが、夕霧は返歌できっちり断る。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                                        
                            


新聞のコラムでもヘリポート 

2022年06月23日 | B 新聞を読んで

 信濃毎日新聞の第1面のコラム「斜面」、昨日(22日)は上高地の散策で見つけたという花のことが書かれていた。エゾムラサキやミヤマカラマツ、イワカガミなどの紹介。河童橋から明神までの散策で最も多かったのはラショウモンカズラだったとのこと。この花について、次のように紹介されていた。

**青紫色の筒状の花は3~5㌢。花びらが唇に見える。上の花びらには雄しべと雌しべが隠れている◆下唇側の花びらは白地に紫色の斑点がある。蜜を吸いに飛来するトラマルハナバチには目印のあるヘリポートか。** ここを読んで、やはり花ってヘリポートだよねぇ、と思った。先日、信州スカイパークで花を観て、「花は昆虫用のヘリポート」と書いた(過去ログ)。同じように思う人っているんだなぁ。なんだかうれしくなった。

ラショウモンカズラってどんな花? 画像検索して確認した。なるほど、こういう花か・・・。

**トラマルハナバチは体がぴったり収まるサイズの花を選ぶそうだ。隙間がないほうが無駄がなく効率的なのだろうか** とコラムにある。「共進化」という言葉を同コラムで知った。

ここで余談。5つの段落から成るコラム「斜面」。各段落の文字数は毎日きっちり同じ。従って、段落の間に入る◆の位置は毎日変わらない。以前、信濃毎日新聞の論説委員の方の講演でこのことを知った。取り上げた昨日のコラムではセンチではなく㌢と1文字表記している。もしかして文字数合わせ? それとも新聞ではいつもの表記?


撮影日2018.08.25 高校の同級生と河童橋から明神めざして歩く。途中、花を愛でることはなかった。


 


「第四間氷期」安部公房

2022年06月22日 | A 本が好き


『第四間氷期』安部公房(新潮文庫1971年2刷)

 今年を『源氏物語』の年と決め、1週間に1,2帖のペースで読んでいる。全54帖だから一日一帖のペースなら2カ月で読み終えることができるが、敢えてゆっくり読書。で、『源氏物語』を読まない日は他の本を読むという日常。

同じことを何回も書くが、一昨年(2020年)自室の書棚のカオスな状態を解決しようと約1,700冊の本を古書店に引き取ってもらった。文庫本が最も多く、約1,100冊だった。夏目漱石、北 杜夫、安部公房は残した。この3人の作品は再読することがあるだろうと思ったので。他の作家の作品を読みたくなったらまた買い求めればよい、と割り切った。絶版ならあきらめようと。

昨日(21日)安部公房のSF、『第四間氷期』(過去ログ)を読み始めた。手元の新潮文庫は1971年発行、今から51年も前。ちなみに定価130円。

50年も前の文庫本は文字が小さく、用紙も変色して薄茶色になっている。だが、今の上質な白い用紙に大きな文字の文庫本より、集中できるし、「読んでいる」と、より強く感じる。


追記:114頁/269頁まで読み進めた。これはおもしろい。推理小説的な要素もあるし、今から60年以上も前に発表されたとは思えないような未来的な技術(今では実現している技術)が予見的に描かれてもいる。脳内の映像記憶の再生、という技術的アイディアも実現性はともかく「あり」だと思う。読了後にもう一度書きたい。