透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 2023.02

2023-02-28 | A ブックレビュー

 

 

 


 2月は寒くて外出するのが億劫、自宅で本を読んで過ごすことが多かった。読了本7冊のレビュー。

『江戸一新』門井慶喜(中央公論新社2022年 図書館本)
明暦の大火の後、松平信綱や阿部忠秋、酒井忠清らが中心となり、江戸全域を再構成する。その大胆な発想と具現化の物語。

『紫式部考 雲隠の深い意味』柴井博四郎(信濃毎日新聞社2016年 図書館本)
「熱力学の第二法則」。著者はこの自然科学上の大法則が「源氏物語」にもあてはまるとして、**紫式部は物語の中で、構造的に退廃と停滞に向かう宿命(これが熱力学の第二法則の考え方)を負った平安貴族社会が必然的にすたれていく運命にあることを、源氏に語らせている。**(22頁)と書いている。そうか、こんな理系的な捉え方もあるのか・・・。『源氏物語』には多くの女性が登場するけれど、最後のヒロイン・浮舟がこの長大な物語の意味を解く鍵となると理解すれば、紫式部が伝えたかったことがわかる。

『地形で見る江戸・東京の』鈴木浩二(ちくま新書2022年)
この本について、**百の文章より一の説明図。できればもう少し説明図を載せて欲しかった、というのが理解力不足な私の率直な感想。**と2月4日に書いた(過去ログ)。

2月25日付信濃毎日新聞の書評面に掲載された「売れてる10冊」(22日・丸善日本橋店)で『ビジュアルで分かる江戸・東京の地理と歴史』鈴木理生、鈴木浩三(日本実業出版社)が9位で載っていた。この本を偶々書店で見たが、まさに上掲本の内容を百の文章より一の説明図で構成したものだった。

『玉麒麟 羽州ぼろ鳶組⑧』今村翔吾(祥伝社文庫2019年初版第1刷、2021年第4刷)
1年で50冊の本を読むことができるとすれば、この先10年で500冊。この数は多いのか、少ないのか。少ない。だから小説では余程読みたいと思う作品で文庫になっているものに限定して読もう、としばらく前から思っている。羽州ぼろ鳶組シリーズはそのような作品。江戸の火消事情が分かるし、物語の展開もおもしろい。人物のしぐさや表情といった細部の描写も今村さんは上手い。このシリーズは既に完結しているのかどうか、とにかく最後まで読みたい。

『星を継ぐもの』J・P・ホーガン(創元SF文庫2017年99刷)
既に100刷、名作の証。月面で発見された真紅の宇宙服をまとった現代人と変わらない死体が5万年前に死亡していた、という謎が提示される。この謎を科学的な理路によって解き明かしていくという内容。読了後、なるほど、こういうことかと納得。

『2001年宇宙の旅』アーサー・C・クラーク(ハヤカワ文庫1981年19刷)
この小説を読んだことがなくても同名の映画は観たという人は多いのでは。『星を継ぐもの』では月で宇宙服を着た死体が見つかるが、『2001年宇宙の旅』では月でモノリスと呼ばれる石板が見つかる。モノリスはヒトに進化を促す謎の物体。

この小説も映画も難解な内容で、解釈は様々。要は造物主(神)が存在すると仮定しないことには、ヒト(ヒトに限らないのか)の進化は理解できないということ。モノリスはその存在を可視化したもの、というのが私の解釈。地球上に出現したモノリスはヒトザルに道具を与え、300万年後、月面のモノリスはヒトに他の惑星まで行くことができるような技術を与える。その後、木星の衛星上のモノリスは遥か宇宙の彼方までヒト(宇宙船のボーマン船長)を連れて行く・・・。ラスト、老いたボーマン船長の前に出現したモノリスはボーマンをスターチャイルドに進化させる(単に胎児のような姿に変えただけではないだろう)。宇宙というのか宇宙的な時間の流れというのか、私はよく分からないが、それが仏教の輪廻思想に通じるような円環構造をしていると小説のラストから理解した。

**それから彼は、考えを整理し、まだ試してもいない力について黙想しながら、待った。世界はむろん意のままだが、つぎに何をすればよいかまだわからないのだった。だが、そのうち思いつくだろう。**(264) 小説は最後の「星の子(スターチャイルド)」のこの一文で終る(太文字化は筆者がした)。さらなる先の人類の進化に関する、作者・クラーク、というより造物主のつぶやきと理解でるだろう。

『帝国ホテル建築物語』植松三十里(PHP文芸文庫2023年)
全く知らなかった、帝国ホテルの設計・施工に劇的な出来事が次々起きていたなんて・・・。


明日から弥生3月。どんな本とめぐり合うことができるだろう。