透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「藤裏葉」

2022-06-30 | G 源氏物語

「藤裏葉 夕霧、長年の恋の結実」

 夕霧(宰相中将)と雲居雁は相思相愛の仲。ようやく内大臣(雲居雁の父親)も二人の結婚のことを考えるようになった。**あの内大臣も以前とは打って変わって弱気になり、ちょっとしたついでに、そう改まらずに、とはいえそれにふさわしい折に・・・と二人のことを考えている。**(247頁) 

内大臣は自邸で藤の花の宴を開き、夕霧宛ての便り(歌に託した招待状、藤の枝に結びつけてある)を息子の柏木(頭中将)に託し、夕霧を招く。宴席で二人は和解。

宴の後、夕霧は柏木に案内されて雲居雁の部屋へ。**中将は、内心では、妹の元に連れていくのは癪に障る気がしないでもない。しかし宰相の君の人柄が申し分なく立派であり、長年こうなってほしいと願ってきたことではあるので、安心して女君の部屋に案内した。**(252頁) で、二人は結ばれる。

ようやくここまでこぎ着けた夕霧について、紫式部は自分で自分を褒めたいと思ったことでしょう、と書く。バルセロナ五輪の女子マラソンで銀メダルを獲得した有森裕子のコメントのように。雲居雁の母親(按察使大納言の北の方)も二人の縁組をうれしく思っていた。

さて、明石の姫君の入内が四月二十日過ぎに決まった。養母の紫の上は、明石の君(実母)を後見に推薦した。入内に付き添って参内した紫の上が宮中から退出する日のこと。**紫の上に代わって明石の御方が参上する夜、二人ははじめて顔を合わせた。**(259頁)相手の印象は・・・。

紫の上は明石の御方について、**明石の御方が何かものを言う時の様子など、なるほど光君がこの人を大事にするのももっともだと、紫の上は意外な思いで彼女を見る。**(259頁)

一方、明石の御方は紫の上について、**たいそう気高く、女盛りである紫の上の容姿に圧倒される思いで、なるほど、大勢いらっしゃる方々の中でも、特別のご寵愛をお受けになって、並ぶ者のない位置に定まっていらっしゃるのも、まことにもっともなこと**(259頁)と思う。

光君は姫君の入内も望み通りになったし、夕霧もなんの不足もない暮らしに落ち着いたから、安心してかねてから願っていた出家を遂げよう、などと思う。光君も歳を取ってきている。このとき、39歳。ちなみに手元の資料によると、夕霧は18歳で、雲居雁は20歳。

その年の秋、光君は太上天皇(上皇)に准じる位を授与された。また内大臣は太政大臣に、宰相中将は中納言に昇進した。夕霧と雲居雁の夫婦は故大宮邸に移った。その邸は二人が幼い頃育ったところだ。

十月、紅葉の盛りの頃、帝(冷泉帝)が六条院に行幸する。朱雀院(光君の異母兄)も招かれて同行する。華やかな儀式。

**紫の雲にまがへる菊の花濁りなき世の星かとぞ見る(紫雲と見まごうほどの菊の花―格段に高い身分となられたあなたは、濁りなき御代の星のように見える) いよいよお栄えになりましたね**(265,6頁)と太政大臣。 

光源氏の栄華ここに極まれり。怜悧な紫式部は物語をここで終わりにはしない。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋  


ブックレビュー 2022.06

2022-06-29 | A ブックレビュー



 6月も明日で終わる。はや半年が過ぎる。

今年を『源氏物語』の年と決めて少しずつ読み進めている。「源氏」を読まない日は他の小説を読む。今月(6月)の読了本は7冊。20代で読んだ本には水色のテープが貼ってあるから分かるが、今月は3冊読んだ。

『どくとるマンボウ青春記』(中公文庫1973年6版)
北杜夫の作品では一番よく知られているだろう。繰り返し何回も読んだ。

『幽霊』北 杜夫(新潮文庫1981年29刷)
幼少期の記憶をたどる心の深層への旅。

『山の音』川端康成(新潮文庫1957年発行、2022年新版発行)
新たに買い求めて再読した。初恋の女性によく似た息子の嫁。幼い時に母親を亡くした川端康成の母親探し。光源氏然り。

『収容所から来た遺書』辺見じゅん(文春文庫1992年1刷、2021年23刷)
おそらく今年もっとも印象に残る作品になるだろう。シベリヤ抑留、悲惨な日々。仲間を励まし続けたひとりの男、いつの世にも凄い人はいるものだ。
NHK・BS「週刊ブックレビュー」に出演しておられた辺見じゅんさんの和服姿が目に浮かぶ。

『小さな家の思想 方丈記を建築で読み解く』長尾重武(文春新書2022年)
**鴨長明は自らの終の棲家として、方丈庵を構想し、そこでの暮らしに安寧を見出しました。自分の死の形をそこに取り込み、そうすることによって生を輝かせることができた。そこに現代のわれわれが学べることは少なくないと思います。**(244,5頁)

『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム(ハヤカワ文庫1977年発行、1993年22刷)
SF小説の中でもっとも印象に残る作品。

『第四間氷期』安部公房(新潮文庫1970年発行、1971年2刷)
名作は再読に耐える。今読んでも古びてはいない。安部公房の他の作品も再読したい。そのために、自室の書棚に残したのだから・・・。


 


記憶

2022-06-28 | D 新聞を読んで



 6月27日付信濃毎日新聞の9面(科学面)に「まるでSF小説・・・脳に光照射  つらい記憶消去」という見出しの記事が掲載されていた。

記事のリード文に京都大や理化学研究所、大阪大などのチームが**特殊なタンパク質と光を利用してマウスの記憶を消すことに成功。**とある。一体どのような方法によってマウスの記憶を消去したのかということ、それからどのような方法で記憶が消去されたことを確認、実証したのかということに興味を抱き、記事を読んだ。

記憶のメカニズム:新しい記憶はいったん脳の「海馬」に不安定な状態で一時保存され、その後「大脳皮質」に転送されて長期保存されると考えられている。

記憶の形成を阻止する方法:活性酸素は記憶の形成に関わるシナプスのタンパク質の働きを妨げる。特定の波長の光を照射すると活性酸素を放出するイソギンチャク由来の蛍光タンパク質、このタンパク質をつくる遺伝子を脳に組み込む。脳の狙った場所に光を照射して活性酸素を放出させ、シナプスのタンパク質の働きを妨げる。こうして記憶の形成を阻止する。なるほど。

では、このような方法でマウスの記憶を消すことができたことをどうやって実証したのか。

記事には分かりやすいイラストが掲載されている。暗いボックス(部屋)と明るいボックスをつなげた実験装置。暗い場所を好むマウスは明るいボックスから暗いボックスに移動する。そこで電気刺激、マウスびっくり恐怖体験。で、光ファイバーで脳に光を照射したマウスと照射しなかったマウスを翌日明るいボックスに入れる。すると光を照射されて恐怖体験の記憶を消されたマウスは躊躇せずに暗いマウスに移動し、記憶が消えていないマウスはおびえてなかなか移動しない。なるほど。

動物実験の実証方法には感心する。

『魚にも自分がわかる 動物認知研究の最先端』幸田正典(ちくま新書)や『モンシロチョウ キャベツ畑の動物行動学』小原嘉明(中公新書)で紹介された実験は実に興味深く、おもしろかった。

 

新聞記事を読んで思った。消してしまいたい記憶だけ無くなるならいいけれど、ずっと覚えていたい記憶まで消されてしまったらやだなぁ、どうしても思い出せない記憶をよみがえらせてもらえないかなぁ、脳内の映像記憶をディスプレイに映し出すというアイディアは実現できるかもしれないなぁ、などと・・・。


 


「梅枝」

2022-06-27 | G 源氏物語

「梅枝 裳着の儀を祝う、女君たちの香」

 光君の正月は明石の姫君の裳着(成人式)の準備に忙しい。朱雀院の皇子である東宮も二月に元服が予定されている。その後、姫君は東宮妃として入内(じゅだい)が決まる予定。

正月末、光君は薫物(たきもの)を調合する。で、六条院の女君たちにも香木を割り当て、調合を依頼する。薫物合わせが行われることになり、女君たちの調合した薫物が集められた。優劣の判断をするのは兵部卿宮(光君の弟)。宮は絵合でも審判役を務めている。二種類ずつという光君の依頼に対し、紫の上は三種、花散里は一種だけ調合した。ここでも花散里は控えめだ。

夜、月が上ってきたので内大臣家の息子たちも交えて宴、そう、月の宴が催された(いつ頃だろう、月を愛でる習慣が無くなったのは。銀閣寺も観月用に建てられたそうだ。路傍などに祀られている二十三夜塔は月が信仰の対象であり、愛でる対象でもあったことを示している)。

翌日、秋好中宮(六条御息所の娘)の御殿で明石の姫君の裳着が行われた。明石の君(姫君の実母)は身分が低いことを憚り参列しなかった。**このような邸のしきたりは、ふつうの場合でもじつに面倒なことが多いし、今回もほんの一端だけを、いつものようにだらだらと書き記すのもどうかと思うので、くわしくは書かないこととします。**(232頁)とは作者・紫式部の弁。

東宮の元服が二月二十日過ぎ頃に行われた。よその姫君たちが遠慮して入内を見合わせているという噂を聞きつけた光君は明石の姫君の入内を延期して四月に、と決める。その間に光君は道具類をさらに整え、数々の草子(物語や歌集)を選ぶ。

光君は紫の上を前にして六条御息所、秋好中宮、藤壺、朧月夜(なつかしい)、朝顔、それから紫の上の筆跡について批評する。六条御息所の筆跡は格段にすぐれていると思ったものだとか、朧月夜こそは**当代の名手だが、あまりに洒落ていて癖があるようだ**(234頁)などと。

明石の姫君の入内の準備が進んでいることが内大臣には気に掛かる。こんなことになるなら、夕霧が強く望んでいた娘(雲居雁)との結婚を認めてやればよかった・・・。光君もまた、夕霧(宰相の君)の身がいつまでも固まらないことを心配している。で、**「あちらの姫君のことをあきらめたのなら、右大臣や中務宮などが、婿にとの意向をお伝えになっているようだから、どちらかにお決めなさい」というが、宰相の君は何も言わずにかしこまった様子でいる。**(238頁)夕霧は雲居雁のことが忘れられないのだ(このふたりはいとこ同士)。

光君は息子の夕霧に結婚について説教する。ここで光君の結婚観が語られる。そのポイントを長くなるが引用する。**あなたはまだ位も高くないし気楽な身分だからと、気を許して、思いのままに振る舞ったりしてはならないよ。自分でも気づかないうちにいい気になっていると、浮気心をおさえてくれる妻もいない場合、賢い人でもしくじるという例が昔にもあった。恋するべきではない人に心を寄せて、相手も噂になって、自分も恨みを買ってしまうなんて、往生の妨げになる。**(239頁)千年も昔のこの教訓は現代にもあてはまりそうだ。

光君の説教は続く。**もし間違った相手といっしょになって、その人が気に入らず、どうも辛抱できないような場合でも、やはり思いなおして添い遂げようとする気持ちを持ち続けなさい。(後略)** これはどうだろう・・・、離婚率が高まっている現代において受け入れられる教訓ではないように思うけれど・・・。

『源氏物語 中巻』 次は「藤裏葉」。その次の「若菜上」と「若菜下」は長い。ふたつの帖で269頁から440頁まである。この大河小説の峠かな・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                            


SF映画の原作を読む

2022-06-26 | A 読書日記

480

 先日「ソラリス」というSF映画を観た。DVDのケースの作品紹介にSF映画の三大金字塔として「2001年宇宙の旅」と「ブレードランナー」、それから「惑星ソラリス」が挙げられていた。映画の評価はさまざまで、ベスト3の作品も定まらないが、ネット検索してみると「2001年宇宙の旅」と「ブレードランナー」は上位によく挙げられている。「惑星ソラリス」は上位にはないことが多いようだが、この作品のリメイク版が「ソラリス」だから三大金字塔として挙げた、という広告事情があるのかもしれない。

この3作品の原作が手元にある。

『2001年宇宙の旅』を書いたアーサー・C・クラークのSF小説は何作も読んだが、手元に残したのはこの作品だけ。代表作だと思うから。カバー裏面に**巨匠クラークが、該博な科学知識を総動員してひとつの思弁世界を構築する現代SFの金字塔!**と本作が紹介されている。SF小説をそれほど読んではいないが、この作品は確かに金字塔、ベスト3に入ると思う。映画も。

『ソラリスの陽のもとに』の発表は1961年、60年以上も前の作品だが、今なおSFファンは読むだろう(*1)。この作品を先日再読した。惑星ソラリスを覆う海が知的生命体だということ、それからソラリスを観測している科学者たちの記憶を検索し、それを実体化して目の前に出現させてしまうという発想がとにかく凄い。哲学的思索。この作品も私のベスト3。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック。この作品を知ったのは20代のころだった。奇妙なタイトルが印象に残った。初めて読んだのはそれからだいぶ後のことで、手元のハヤカワ文庫の奥付を見ると1977年の発行、2003年46刷となっている。

昨日(25日)の夕方この作品が原作の映画「ブレードランナー」を観た。映像表現が高く評価されている作品だ。安部公房の『第四間氷期』を読んでいる途中で観たので、両作品に描かれる未来の姿が妙に重なって、爽やかな気分とは真逆の気分で夜を過ごすことになった。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んでからもう20年近く経っている。再び読み始めた。

今月は新書をまだ1冊しか読んでいない。この頃、新書より小説が読みたいと思うのはなぜ?


*1 『ソラリス』(ハヤカワ文庫2015年)


「真木柱」

2022-06-25 | G 源氏物語

「真木柱 思いも寄らない結末」

 玉鬘は鬚黒の大将の手に落ちた。鬚黒は玉鬘がいやだなぁって思っていた男。玉鬘は情けない運命だった・・・、と嘆くばかり。光君は女君をきっぱり忘れることができない。大将がいない昼頃、光君は女君の部屋に行く。そこで**おりたちて汲みは見ねどもわたり川人の瀬とはた契らざりしを**と詠む。**(あなたとは立ち入って親しい仲になれなかったけれど、あなたが三途の川を渡る時、私以外の男に背負われて渡るとは約束しなかったのに)** それに対して**みつせ川わたらぬさきにいかでなほ涙のみをの泡ときえなむ**と返す。この歌の意味も本文から引く。**(三途の川を渡る前に、どうにかして、涙の川の流れの泡となって消えてしまいたい)** 自分の境遇を嘆き悲しんで詠んだ歌。光君へのその場限りの返歌、ではないと思う。かわいそうな玉鬘。 彼女はこの先どうなるのだろう・・・。 

(鬚黒・・・、どこかで聞いたことがあるような名前だなぁ。「ひょっこりひょうたん島」に登場していたキャラ、あれはトラヒゲか。

鬚黒には北の方という奥さんがいるけれど、長年物の怪に取り憑かれている。ふたりの間には3人の子どもがいる(男の子ふたりと女の子がひとり)。ある夜、玉鬘のところに出かけようとする鬚黒の身支度を手伝っていた北の方・・・、**がばりと起き上がり大きな伏籠(ふせご)の下から香炉を取って大将の背後にまわり、ぱっと灰を浴びせかけた。何が起きたのかわからないほどの一瞬のことで、大将は驚きのあまり茫然としている。**(198,9頁) 鬚黒灰だらけ、この帖の印象的な出来事。

この後、鬚黒は北の方には近寄ろうともしない。北の方の父親(式部卿宮)は娘と孫を引き取る。娘は邸を去るとき、**今はとて宿かれぬとも馴れ来つる真木の柱はわれを忘るな**と悲しむ。この娘(こ)は小学6年生くらいだけれど、歌を詠む。真木は檜(ひのき)かな、檜柱さん、私のこと忘れないでね。詠む歌もかわいらしい。歌を檜皮色の紙に書いた姫君は柱のひび割れたところに笄(こうがい)の先で押し込む。

鬚黒は息子ふたりだけ連れ戻す。鬚黒は落ち込んでいる玉鬘を慰めるために内侍として宮中入りを許す。冷泉帝がさっそく玉鬘の部屋を訪ねる。玉鬘は**このままでは、あってはならぬことも起きかねない身の上なのだ、と情けなく思っている(後略)**(212頁)大将も心配になって、早々と退出を願い出し、自邸に連れて帰る。その際、玉鬘が帝に宛てて読んだ歌。**かばかりは風にもつてよ花の枝(え)に立ち並ぶべきにほひなくとも** 何回も書くけれど、玉鬘は理知的な女性だ。鬚黒の息子たちは玉鬘によくなつく。11月にはかわいらしい男の子が生まれる。 

この帖の最後に紫式部は唐突に近江の君(過去ログ)のことを書く。**そういえば、内大臣が引き取った近江の君を覚えていますか。**(221頁)今後の展開に必要なのだろうか。近江の君は夕霧に恋して、歌を詠むが、夕霧は返歌できっちり断る。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                                        
                            


新聞のコラムでもヘリポート 

2022-06-23 | D 新聞を読んで

 信濃毎日新聞の第1面のコラム「斜面」、昨日(22日)は上高地の散策で見つけたという花のことが書かれていた。エゾムラサキやミヤマカラマツ、イワカガミなどの紹介。河童橋から明神までの散策で最も多かったのはラショウモンカズラだったとのこと。この花について、次のように紹介されていた。

**青紫色の筒状の花は3~5㌢。花びらが唇に見える。上の花びらには雄しべと雌しべが隠れている◆下唇側の花びらは白地に紫色の斑点がある。蜜を吸いに飛来するトラマルハナバチには目印のあるヘリポートか。** ここを読んで、やはり花ってヘリポートだよねぇ、と思った。先日、信州スカイパークで花を観て、「花は昆虫用のヘリポート」と書いた(過去ログ)。同じように思う人っているんだなぁ。なんだかうれしくなった。

ラショウモンカズラってどんな花? 画像検索して確認した。なるほど、こういう花か・・・。

**トラマルハナバチは体がぴったり収まるサイズの花を選ぶそうだ。隙間がないほうが無駄がなく効率的なのだろうか** とコラムにある。「共進化」という言葉を同コラムで知った。

ここで余談。5つの段落から成るコラム「斜面」。各段落の文字数は毎日きっちり同じ。従って、段落の間に入る◆の位置は毎日変わらない。以前、信濃毎日新聞の論説委員の方の講演でこのことを知った。取り上げた昨日のコラムではセンチではなく㌢と1文字表記している。もしかして文字数合わせ? それとも新聞ではいつもの表記?


撮影日2018.08.25 高校の同級生と河童橋から明神めざして歩く。途中、花を愛でることはなかった。


 


「第四間氷期」安部公房

2022-06-22 | A 読書日記


『第四間氷期』安部公房(新潮文庫1971年2刷)

 今年を『源氏物語』の年と決め、1週間に1,2帖のペースで読んでいる。全54帖だから一日一帖のペースなら2カ月で読み終えることができるが、敢えてゆっくり読書。で、『源氏物語』を読まない日は他の本を読むという日常。

同じことを何回も書くが、一昨年(2020年)自室の書棚のカオスな状態を解決しようと約1,700冊の本を古書店に引き取ってもらった。文庫本が最も多く、約1,100冊だった。夏目漱石、北 杜夫、安部公房は残した。この3人の作品は再読することがあるだろうと思ったので。他の作家の作品を読みたくなったらまた買い求めればよい、と割り切った。絶版ならあきらめようと。

昨日(21日)安部公房のSF、『第四間氷期』(過去ログ)を読み始めた。手元の新潮文庫は1971年発行、今から51年も前。ちなみに定価130円。

50年も前の文庫本は文字が小さく、用紙も変色して薄茶色になっている。だが、今の上質な白い用紙に大きな文字の文庫本より、集中できるし、「読んでいる」と、より強く感じる。


追記:114頁/269頁まで読み進めた。これはおもしろい。推理小説的な要素もあるし、今から60年以上も前に発表されたとは思えないような未来的な技術(今では実現している技術)が予見的に描かれてもいる。脳内の映像記憶の再生、という技術的アイディアも実現性はともかく「あり」だと思う。読了後にもう一度書きたい。


「藤袴」

2022-06-21 | G 源氏物語

400

「藤袴 玉鬘の姫君、悩ましき行く末」

 玉鬘に尚侍(ないしのかみ)として出仕(宮仕え)することをだれもが勧めるが、玉鬘は悩んでいる。思いがけなく帝の寵愛を受けることになれば、秋好中宮(光君の養女)や弘徽殿女御(こきでんのにょうご)から疎んじられるかもしれない、と。光君も実の親でないと認められてから、遠慮することなく、馴れ馴れしく振る舞う。玉鬘には相談相手もいないので、苦悩は深まる・・・。

そんなとき、祖母(夕霧と玉鬘、ふたりのおばあちゃん)の大宮が亡くなる。喪服姿の玉鬘のもとをやはり喪服姿(色の濃い鈍色の直衣(のうし)を着ている)の夕霧が訪ねる。実の姉ではないということが分かって、夕霧の玉鬘に対する恋情は募る。野分の朝に垣間見た玉鬘の美しさが忘れがたく、藤袴を差し出して歌を詠む。玉鬘の返歌。**尋ぬるにはるけき野辺の露ならば薄紫やかことならまし**(177頁)あなたと深い縁などありませんわ。やはり玉鬘は理性的で冷静な対応をする女性だ。

夕霧は光君の元へ行き、玉鬘の処遇について真意を問いただす。そこで、**なかば捨てるつもりで実の父である私に押しつけて、尚侍という役職で宮仕えをさせておき、自分のものにしてしまうつもりだろう、(後略)**(180頁)と内大臣が非難していると詰め寄る。ひとりの女性をめぐる父と息子の駆け引きとも取れる場面。光君は夕霧の話を聞き、内大臣に心を見透かされていることに驚く。で、玉鬘の出仕を決める。

実の姉ではないことが分かった夕霧の募る恋情、実の姉だと分かった柏木の戸惑い。**妹背山ふかき道をば尋ねずて緒絶の橋にふみまどいける**(182頁)この歌に玉鬘は次のように返す。**まどひける道をば知らで妹背山たどたどしくぞ誰もふみ見し**(183頁)やはりこの女性は賢い。

あの鬚黒の大将も実に熱心に奔走し、手紙も出す。ほかに兵部卿宮(光君の弟、光君の蛍を使った業(わざ)で完全に恋に落ちた)や左兵衛督(さひょうえのかみ)も手紙を出す(左兵衛督って誰だっけ、登場人物系図で確認する)。玉鬘は兵部卿宮だけに返事を書く。**心もて光にむかふあふひだに朝おく霜をおのれやは消つ **(186頁)あふいは葵のこと。 決してあなたのことを忘れたりはしません なんて書かれていたらうれしいよなぁ。

源氏物語にはいろんなタイプの女性が登場する。その中で夕顔は人気があるようだが(僕も前々から夕顔という名前は知っていた)、彼女の娘の玉鬘もなかなか好いと思うな、紫式部もこの女性が好きだったんじゃないかなぁ。玉鬘はこれからどんな人生を送ることになるのだろう・・・。


  1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                                          

 


蠶玉神社の道祖神

2022-06-20 | B 石神・石仏


 既に書いたが今月(6月)16日に諏訪大社 4社巡りをした。その時、上社本宮のすぐ近くにあるこの神社に道祖神が祀られていることに気がついた。




額に書かれた神社名、蠶玉(こだま)神社。 この文字はしばらく前に調べたから知っている。蚕(蠶 かいこ)の神様をお祀りした神社。


石灯籠の横に双体道祖神が祀られていた。




お互いに内側の手を相手の肩にかけ、外側の手を握りあう「抱肩握手像」。像の上に紙垂が陽刻され、像の右に神宮寺村、左に中町と陰刻されている。残念ながら、顔が損耗していて表情は分からない。建立年は裏面にも彫られておらず、分からなかった。

像を浮き彫りにするために像の周りを一段深く平らに彫り込まなければならない。彫り込んだ部分を「中区」といい、中区と碑の周辺を区画する形状を「くり型」ということが手元の資料(*1)に出ている。同資料には40ものくり型が示されていて、この道祖神の型は「雲版」という名前の型に似ているが、同じ型なのかどうか、分からない・・・。


*1 『『双体道祖神』伊藤堅吉(緑星社出版部 出版年不明)


「小さな家の思想」を読む

2022-06-20 | A 読書日記

 
『小さな家の思想』長尾重武(文春新書2022年)   『方丈記』鴨長明(岩波文庫2001年25刷)


復元された鴨長明の方丈の庵 撮影日2015.12.23

 京都の下鴨神社の境内に鴨長明の方丈の庵が復元されている(確かめてはいないが今でもそのままあると思う)。この庵を2015年の12月に見ている。方丈記の詳細な記述をもとに中村昌生氏の監修により復元されたという。方丈の庵は簡単に分解することができ、好きなところに運び、組み立てることができるので、プレファブシステム、モバイルハウスのルーツとして取り上げられることもある。学生の時にこのような説明を聞いた(ような気がする。あるいはその後の学習の成果かも)。

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 朝カフェ読書は週2回、火曜日と金曜日の午前の早い時間帯と決めているけれど、昨日(19日)の日曜日も朝カフェ読書した。松本は渚のスタバの開店は朝7時半、読む本は持参していたが少し早く着いたので隣のTSUTAYA北松本店で本を探した。新書の新刊コーナーで『小さな家の思想』長尾重武(文春新書2022年)を手にした。「方丈記を建築で読み解く」という副題に惹かれて買い求め、さっそく朝カフェで読み始めた。

方丈記は世の無常を綴ったエッセイ(同じ意味だが随筆の方がふさわしいかな)として知られているが、本書のカバー折り返しには**「終の棲家」としての方丈庵を作るまでの「家」の物語でもあった。**とある。なるほど、そういう読み方もできるのか・・・。

著者の長尾氏によって作成された方丈庵における「臨終の行儀」としての設えの様子を示す図が載っている。(93頁) 庵の東側に北枕になるように整えられた寝床、西の壁に掛けられた阿弥陀絵像。

長尾氏は方丈庵を往生のための住まいだと指摘し、(125頁)さらに次のように続けている。**長明にとって、「死の形」の確認は、「生の原点回帰」を促したように思えます。つまり、方丈庵を建て、自らの死のイメージを具体化したことによって、かえって充実した生を送ることができたのです。**(126頁)

最終章の「おわりに」で同様の指摘を繰り返している。それは次の一文。**鴨長明は自らの終の棲家として、方丈庵を構想し、そこでの暮らしに安寧を見出しました。**(244頁) 

本書の幅広の帯に**人生の締めくくりを過ごすなら、どんな家がいいですか?**という問いかけの一文がある。著者の答えは「方丈庵のような家」なのでは。本書を読み終えて、私も鴨長明の暮らしぶりに惹かれた。注意すべきは自然とのつながりはもちろん、人とのつながりも保持しているということ。


本書で取り上げられている『地球家族』(TOTO 出版)について以前書いている(過去ログ)。


「行幸」

2022-06-19 | G 源氏物語

「行幸 内大臣、撫子の真実を知る」

 この帖のポイントは光君が内大臣と会って、玉鬘が内大臣の実子ということを伝えたこと。その前に12月に行われた冷泉帝の大野原への行幸で、玉鬘が帝や内大臣、兵部卿宮らを見て評価することもこの帖の見逃せないポイントだろうか。右大臣(鬚黒)のことは色黒で顔じゅうひげだらけで好きになれそうにないなぁ、と思う玉鬘。「野分」では夕霧が女性たちを評価し、花に喩えていた。そう、夕霧、女君の品定め。

光君と内大臣は昔からのライバル同士。玉鬘の真相が明らかになると、**かつて、ずっと昔の雨の夜、あれこれと恋の品定めについて話したことを思い出して、泣いたり笑ったり、二人ともすっかり打ち解けた。夜もずいぶんと更けて、それぞれ帰っていく。**(159頁)まあ、ふたりは義兄弟でもあることだし。

だが、その後ふたりは政治的な思惑から腹のさぐり合いを始める・・・。雲居の雁を夕霧と結婚させる気はあるのか、玉鬘の今後の処遇は・・・。

♪ここかと思えば またまたあちら 浮気なひとね、な光君。サーフィンボードはかかえていないけれど、とにかく美女から美女へのプレーボーイなんだなぁ、と『源氏物語』を読み始めて思った。だが、このあたりまで読み進めてくるとだいぶ光君は変わり、物語の様相も「雨の品定め」のころとは変わってきていることを感じる。 ♪あの時 君は若かった

これから光君はどうなっていくのだろう・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                     

*1 復習:玉鬘は内大臣と夕顔との間に生まれた娘