透明タペストリー

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「星を継ぐもの」再読

2023-02-22 | A 読書日記

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塩尻のスタバで朝カフェ読書
『星を継ぐもの』J・P・ホーガン(創元SF文庫2017年99刷)

 このSFは2019年の8月に読んでいるが、この数日間でまた読んだ。海外作品を再読することは稀だ。東京創元社が2009年の3月に実施した「創元SF文庫を代表する1冊は何か?」という読者アンケートで第1位になった作品で、帯に**圧倒的な支持!100刷突破**とある。いかにおもしろいか、分かる。

この作品を一言で評するなら、フィクションだけれど、サイエンスだということ。月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体(現代人とほとんど同じ生物)が5万年前に死亡していた、という謎を科学的な理路によって解き明かしていくという内容。ぼくはこの謎を巡る科学者たちの議論に興奮し、魅せられもした。この作品が多くのSFファンに支持されている理由もこのことにあるのではないか。

**「科学の方法において最も基本的な原則は、観察された事実が、すでに確立された理論によって充分説明し得るものである限り、新たな思惑による仮説は顧慮するに値しないということです。(中略)超越的な力であるとか、摂理であるとかいう考えは、観察者の歪んだ意識の中にあるのであって、観察の対象となった事実の中にあるのではありません」**(88頁)これは登場人物のひとり、ダンチェッカーという生物学者の発言。

月面で発見された死体にはチャーリーという名前が付けられる。チャーリーがこのSFの主人公だと言えなくもない。チャーリーの生殖細胞の遺伝情報と現代の平均的な女性の遺伝情報をコンピュータ・シミュレーションによって掛け合わせ、生まれる子孫に何ら異常がないことも確認される。現代人とほとんど同じ生物と上に書いたが、これはもう全く同じということだ。謎、謎・・・。

謎は深まり、それを解き明かす条件は厳しい。超越的な力によるなどという都合のよい種明しはできない。J・P・ホーガンは厳しい条件を自らに課し、それを解いてみせる。

謎解きの過程をここに記すことは避けなければならない。なるほど、こんなに壮大でダイナミックな物語が宇宙で起きていたのか・・・。