昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

三鷹通信(152)第18回読書ミーティング(3)本屋大賞・「羊と鋼の森」

2016-05-24 05:38:52 | 三鷹通信
 講師推薦の本屋大賞・宮下奈都「羊と鋼の森」
 
 
 <解説>
 ピアノ調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った長編小説。
 草食系の青年と、優しい人達が、調律の道をめぐって様々な話をし、助け合い、思いやりをしめしていく。
 森で生まれた主人公が、ピアノの調律の厳しい道を進みながら、音楽の旋律に、人生の場面に、様々な場所で、森を感じる。森で生まれた自分というアイデンティティを再認識する物語でもある。
 今年の本屋大賞。初版6500部だが、本屋大賞ノミネートの時点で11万部。受賞で33万部。

 宮下奈都
 
 福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年「静かな雨」が第98回文学界新人賞佳作。2010年、「よろこびの歌」が第26回坪田譲治文学賞の候補。「誰かが足りない」が第9回本屋大賞で7位。「羊と鋼の森」で第154回直木賞候補。第13回本屋大賞受賞。

 <羊と鋼の森?>
 ピアノは羊毛を固めたフェルトで出来たハンマーが鋼の弦を叩くことで音が鳴る仕組みになっている。主人公は、弦がずらりと揃った状態を主人公はまるで森のようだと思う。
 調律師の道を、森で生まれた自分の道だと迷わず選ぶ。ピアノなどきいたこともなかった少年がただ一度、調律の作業に出くわして、調律師になる。よい調律師を目指していく道半ばの物語。

 感覚的な文体。今風でないかも。
 <冒頭>
 森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
 問題は、近くに森などないことだ。乾いた秋の匂いをかいだのに、薄闇が降りてくる気配まで感じたのに、僕は高校の体育館の隅に立っていた。放課後の、ひとけのない体育館に、ただの案内役の一生徒としてぽつんと立っていた。
 目の前に大きな黒いピアノがあった。大きな、黒い、ピアノ、のはずだ。ピアノの蓋が開いていて、そばに男の人が立っていた。何も言えずにいる僕を、その人はちらりと見た。
 その人が鍵盤をいくつか叩くと、蓋の開いた森から、また木々の揺れる匂いがした。夜が少し進んだ。僕は十七歳だった。


 前回の読書ミーティングで紹介の「きみの膵臓が食べたい」は惜しくも2位。
 

 キミスイも含めて、書店員が売りたい本とは?
 <キミスイとの共通点>は草食系男子と強い女の子の話。
 ただ、草食系男子だが自分というものがあり、向上心がある。社交的ではないが、親や学校の先生に褒められるようなタイプ。女子はみんな強く、自分にふりかかった死の恐怖や挫折というものを克服し、むしろ前向きなイメージに変えていく。
 ・・・この小説の主人公の生き方を否定する人はおそらくいないだろう・・・

 <本屋大賞設立の経緯>
 ・・・売り場からベストセラーをつくる・・・
 本が売れない時代と言われます。出版市場は書籍、雑誌とも年々縮小傾向にあります。
 出版不況は出版社や取次だけでなく、もちろん書店にとっても死活問題です。
 その状況の中で、商品である本と、顧客である読者を最も知る立場にいる書店員が、売れる本をつくっていく、出版業界に新しい流れをつくる、ひいては出版業界を現場から盛り上げていけないかと考え、同賞を発案しました。