昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「女の回廊」(5)男を魅惑する下宿の奥さん

2019-05-18 04:29:28 | 小説「女の回廊」
 しばらく奥さんも黙っていた。
 ・・・狭いタクシーの中、こんな状況が何時間も続くのでは息苦しくてたまらない・・・とボクは思い始めていた。
「あら野球をやっているわ・・・。あなた、野球やるの?」
 多摩川を渡るところで彼女は外を見ながら訊いてきた。
 この言葉をきっかけに会話が始まった。

「いえ、・・・」
 ・・・ボクが野球なんかやれるわけがない・・・
「あなた、パチンコがお上手なのね?」
 
「・・・」
「だって、いつも景品をいっぱい抱えて帰ってきたじゃない」
 ようやく、ボクの現実に奥さんの話がつながった。 

 奥さんはそんなにおしゃべりではなかった。
 むしろ話すより、何か他のことを考えている方が多かったかもしれない。
 だからといって、初めて<女>を意識したボクに対して、<男>を意識している風にはまるで見えない。
 ・・・何を考えているんだろう・・・
 ボクは一方的に妄想をたくましくした。
 しかし、彼女に関する具体的なストーリーを紡ぎだせたわけではない。

 ありきたりの街並みから、さすが大都会というビル街を抜けると、大河端の堤防沿いの風景・・・。
 
 
 次から次へと、気が触れたように、景色が窓の外を通り過ぎて行った。

 道中は長いようで、目的地へ着いてみると短かった。
 その間、同居する連中のことなども話し合ったと思うが、後で思い起こそうとしても、奥さんから放出される魅惑的な香りにからめとられていて、具体的に解きほぐすことは不可能だった。
 
 
 奥さんなどというと、おばさんぽく聞こえるが、実際は違う。
 ボクら下宿人と、年齢は5歳ぐらい上か?
 知性を秘めたつぶらで、うっとりとした大きな瞳と、ぶちゅっとした唇。
 すっきりとした、しかもちょっと肉感的ななま脚が短パンからむき出しにつっぱって、ボクらを挑発する。
  

 膝がしらの組んだ指先が絡み合って気持ちを表現し、しかも気取らないしっかりした口調でしゃべる。
 
 ・・・姉貴的な、包容力のある気取らない知性の持ち主・・・
 それがボクらの下宿の奥さんだ。

 ─続く─       

 今年の三鷹市民大学は、残念ながら「日本の文化」コースが外されてしまった。
 そこで、大久保喬樹東京女子大学名誉教授に、特別講座「日本の文化」をお願いすることになった。
 
 昨日、20名ほど集まった。今後の講義内容が先生より披露されたが、期待に胸が高鳴る。





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