小説「ある倉庫係の死」(6)
葬儀後、社長名、社員一同、そして自分名のお香典を持参して、帰京されたお姉さんにお目にかかった。
石山からの印象とまったく異なり、しっかりした落ち着いた方だ。
お姉さんは少ない口数の中から、ぽつりぽつりと彼のことを語ってくれた。
会社に入る前は、夜中でもやって来て、酒やパチンコなどににからむ金銭面の無心が絶えず、お姉さんにいろいろと迷惑をかけていたようだ。
葬儀にも参列しなかったことで、社内では石山に対する会社の対応が冷たいと噂している者がいるというので、ボクは社内レターを書いた。
・・・この度、業務課の石山さんが不慮の事故で亡くなられました。
入社されてわずか三か月、ようやく皆さんとも気心を通じ合い、これからという時でした。
残念というほかありません。
たまたま不運なことに土日が重なり、連絡を頂いたのは仙台で12時に葬儀が行われる当日の10時でした。
葬儀に参列できませんでしたが、弔電を打ち、帰京されたお姉さんのところへ、社長と社員一同の香典を預かり弔問いたしました。
「ふしだらな生活をしていた弟が、いい会社に入れていただき、皆さんからよくしていただいたのに、かえってご迷惑をおかけすることになって、真にに申し訳ありません。このところわずか3か月でしたが、弟の人生にとって、かけがえのない期間だったと思います。皆さんに心から感謝の気持ちをお伝えください」とのお言葉をお姉さんから託されました。
わずかな期間ではありましたが、石山さんとの出会いを偲びたいと思います。
社員の中にこのレターを見て涙が出ましたと言ってくれる者がいて、これまで揺れていた気持ちがやっと落ち着いた。
─了─
このところ、日本海側ではたいへんな大雪に悩まされているという。
ボクの故郷、金沢のことを思い出した。
小学校のころ、雪が多かった。狭い商店街など二階から出入りしていたほどだった。
昨日の東京は雪に悩まされる日本海側の方々には申し訳ないほどの快晴だった。
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