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竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 三〇三 今週のみそひと歌を振り返る その一二三

2019年01月26日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 三〇三 今週のみそひと歌を振り返る その一二三

 今週は主に巻十二の「悲別歌」に部立される歌々を鑑賞しています。その中で好みですが、標準的な解釈する歌の風景と違うものを再度、鑑賞します。
 取り上げる歌は集歌3183の歌ですが、弊ブログと標準的な解釈では見る景色が違います。そこで、歌の鑑賞比較のため弊ブログ、伊藤博氏の萬葉集釋注、中西進氏の万葉集全訳注原文付を比べてみました。

弊ブログ
集歌3183 京師邊 君者去之乎 孰解可 言紐緒乃 結手懈毛
訓読 都辺(みやこへ)し君は去(い)にしを誰が解(と)けか言(こと)紐し緒の結ふ手たゆきも
私訳 奈良の都へと貴方は旅立って行ってしまったので、誰が解くと云うのでしょうか。貴方との操を神に誓ったこの下紐を結ぶ、この手がやるせない。

萬葉集釋注
訓読 都(みやこ)辺(へ)に君は去(い)にしを誰が解(と)けか我が紐の緒の結(ゆ)ふ手たゆきも
意訳 都に向かって我が君は行ってしまったのに、いったい誰が解くというのか、すぐ解けてしまう私の着物の紐、この紐を結び直すのも物憂い。

万葉集全訳注
訓読 京師(みやこ)辺(へ)に君は去(い)にしを誰が解けかわが紐の緒の結(ゆ)ふ手たゆしも
意訳 あなたは都へいってしまったのに、一体誰の思いがわが下紐を解くのか、紐を結ぶわが手もけだるいほどよ。

 最初に原歌表記において四句目「言紐緒乃」に三人が扱う原歌では異同はありません。ただし、四句目の頭となる「言」の漢字の扱いが弊ブログと他とでは違います。一般には「言」の漢字は音仮名文字と解釈し「いう」と訓じます。対して弊ブログでは「こと」と云う発声に対し「言」、「事」、「辞」と云う各種の漢字表現があり、それぞれの漢字表現ではその意味合いが違うとするように、ここでも「言」と云う漢字表記に人と神との誓約の意味合いを見ているため、それを尊重し「言」の漢字表記を「こと」と訓じています。
 次に男女関係での紐と云うものは、弊ブログでは白栲の衣のような夜衣を結ぶ紐と考えています。可能性で、あって下着の紐です。昼間の活動で着る衣をまとめる紐ではありません。また、妻問ひの場面では女はその場面に相応しい夜衣に着替えていると考えています。日中に着るような衣ではないとしています。
 弊ブログでの歌の解釈ではこのような男女関係における特別な綬を背景としていますから、標準的なものとの解釈に相違が現れてきます。妻問ひの予告の使者を受けた女性はその男性のために特別な夜衣に着替え準備します。着替えの時、夜衣の下紐を結ぶのは女性本人ですが、当然、その下紐を解いて夜衣を開くのは恋人たる男性です。本来、夜衣の紐を女性が自ら解く必要はないのです。その心情が重要です。
 ただ、恋人たる男性は公の御用で都へと旅立っています。日中の着物を着換えずに丸寝をするのでなければ夜着に着替えますが、着替えた夜着の紐を誰が解いてくれるのでしょうか。それを思うと、やるせないし、心がときめかないのです。万葉集の歌々に示すように夜、男を待つ女は、自分に似合う染め色に絹製の下着を身に着け準備をします。その男を待つために準備をする、そのようなことは今はできないのです。その心情が末句「結手懈毛」なのです。この「懈」は『説文解字注』に「懈、怠也。古多假解爲之」と解説するように、語感的に暇すぎてすることが無いというようなものがありますから、夜衣に着替えたからと云っていつもなら貴方とのことがあるが、することがないという暗示があります。
 さて、斯様な雰囲気を歌から感じ取っていただいたでしょうか。

 集歌3183の歌は、場合により柿本人麻呂の恋人が詠ったと思われる集歌2409の歌を踏まえたものかもしれません。集歌3183の歌と集歌2409の歌とで、その歌を詠う発想は同じです。ただ、弊ブログは男と女の夜の場面を前提としていますが、伊藤博氏も中西進氏ともにそのようには解釈していません。特に伊藤博氏の場合は日中に女が男のことを思っているような場面を想定していますから、これでは女から男への恋文にはなりません。

弊ブログ
集歌2409 君戀 浦経居 悔 我裏紐 結手徒
訓読 君し恋ひうらぶれ居(を)れば悔(くや)しくも我(わ)が下紐(したひも)し結(ゆ)ふ手いたづら
私訳 貴方を慕って逢えないことを寂しく思っていると、悔しいことに夜着に着替える私の下着を留める下紐を結ぶ手が空しい。

万葉集釋注
訓読 君に恋ひうらぶれ居(を)れば悔しくも我が下紐の結(ゆ)ふ手いたずらに
意訳 あなたに恋い焦がれてしょんぼりしていると、腹立たしいことに、私の下紐がしきりにほどけてきて、紐を結ぶ手間を繰り返すばかりで。

万葉集全訳注
訓読 君に恋ひうらぶれ居(を)れば悔しくもわが下紐を結(ゆ)ふ手たゆしも
意訳 あなたに恋して心がしおれていると、残念なことに私の下紐を結ぶ手がものういことだ。

 時代、庶民は夜、寝る時は藁や萱などで敷いた土間のその藁や萱の中に潜り込んだとします。一方、貴族階級では板の間に置いた筵畳を布で覆い床とし、その床で脱いだ衣を掛け布団のようにして寝たとします。そのため、妻問ひでは互いに脱がした下着となる衣を掛け布団として抱き合う体に掛けたとします。多数の召使を使う貴族の人は、日中と夜とでその着物を着換えたでしょうが、寝る時は衣を纏めていた紐を解き、その衣を身に掛けて寝ることになりますが、女にしますと、男が夜衣の紐を解き、脱がせ、そして、体に掛けれくれるべき事柄です。その夜の務めをする貴方はなにをしているかと、女は問いかけていますし、責めているのです。集歌2409の歌とは、そのような感覚の歌ではないでしょうか。

 感覚の問題ですが、さて、弊ブログでの鑑賞態度が問題なのか、一般的な鑑賞が歌に似合わないのか、どちらでしょうか。
 弊ブログは基本、酔論・与太話が中心ですが、歌の鑑賞ではこのような感覚で行っています。

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