「結婚しよう」
「え」
「だから、結婚しよう」
「なに言ってんの?」
「聞こえないの? 結婚しようって言ってるんだよ」
「聞こえてるよ、あたしが言いたいのは、なんでそんなコト言うのかってことよ」
「いや、だって。ネットのニュースで」
「ニュースがどうしたのさ」
「その、結婚したら60万もらえるって」
「なにそれ」
「移住婚っていうやつがあるらしい」
「移住婚?」
「東京23区に住んでる女性が結婚で地方に移住するともらえるんだ」
「なにそれ、女だけなの?」
「そうみたい」
「アホらし! なんであたしが東京を出ないといけないのよ!」
「いや、でも60万だよ」
「あんただって東京に住んでるんじゃない」
「それはそうだけど、コレをきっかけにさあ」
「あんたの実家って名古屋じゃない」
「そうだよ」
「あんた名古屋が大嫌いで東京に出てきたって言ってたよね」
「いや、まあ。いまはそれほどでも」
「あたしは名古屋に縁もゆかりもないんだから、別に住みたくないよ」
「いや、俺、最近ドラゴンズの応援がしたくってさあ」
「知らないよ。あんな弱小球団」
「あ、ひどいコト言うなあ。名古屋がそんなに嫌いなのか?」
「別に何も思ってないよ。大してドラゴンズにも興味ないし」
「これを機会にプロポーズしたんだぜ」
「なにが “だぜ” よ? 金のために? 60万ぽっちで? あたしを名古屋に売り飛ばすつもり?」
「そ、そんなつもりはないよ」
「アホくさ! 名古屋に行っても仕事が見つかるかどうかわかんないじゃない」
「俺、親の鉄工所継ぐからさ」
「ウソばっかり! あんな鉄工所潰れちまえって言ってたじゃないの」
「いや、あれから考えが変わって、親父の鉄工所、けっこう地元で頑張ってるんだ」
「なんかいい話に持っていこうとしてる? ダマされないよ!」
「俺と結婚する気はないってこと?」
「そうね。60万であたしを名古屋に売り飛ばすつもりなら御免よ」
「物騒なコト言うなよ。そんなつもりはなくてさ」
「じゃあどんなつもりなのよ? 60万に目がくらんで、名古屋に引っ込んでドラゴンズ応援して、鉄工所を細々と経営して…あたしが専業主婦やって…うーん、それも悪くないかも」
「おお。じゃあ結婚してくれるの?」
「大阪の●●くんのところに嫁ごうかな。●●くんの実家不動産屋だし、あたしオリックスファンだし」
「ううう…つまりはドラゴンズが嫌いなのか?」
「あんたの次に嫌いかも」
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