「結婚しよう」
「え?」
「だから、結婚しよう」
「なに言ってんの?」
「いや、だって」
「だっても何もないじゃん、いきなり結婚って」
「いますぐ結婚したほうがいいと思うんだ」
「なんで? あんた就職決まってないでしょ」
「うん」
「こないだ、あそこの会社落ちたって言ってたよね」
「就職とか関係ないよ」
「なんで? あたしも就職決まってないのに」
「だって、減免されるんだよ」
「なにが?」
「奨学金」
「ああ〜ニュースで見たけど、あれホントなの?」
「結婚すれば奨学金の返済が減るよ」
「そうかもしれないけど、そのために結婚するの?」
「いや、だって。俺、卒業したらいきなり500万の返済が始まるんだよ」
「あたしだって、300万ぐらい返済しなきゃいけない」
「結婚すると3分の1減るっていうからさ」
「あたしの返済が100万減るってこと?」
「たぶん」
「お金のために結婚するわけ?」
「だって大変だよ。就活がうまくいかなかったら、地獄だよ。借金生活」
「そもそも、あたしたち付き合って2年ぐらいじゃん。結婚なんて考えてないよ」
「子供もつくろう」
「はあ? なに言ってんの? バカじゃないの?」
「バカでもいい。子供が生まれるとさらに3分の1減るんだ」
「あたしが子供を産んだら、返済が200万減るの?」
「そうだよ。俺の返済も減るし」
「さらにもう一人産んだら、残りの100万も返済しなくていいの?」
「それはどうかわからないけど、たぶんそうなんじゃないの?」
「アホらし! 減免されるだけじゃんか。あたしのお金は1円も増えないよ」
「でも返済は減るからさ」
「あんた、子供は嫌いって言ってたよね」
「あれは他人の子供だから」
「教育実習行ったとき、クソガキとか悪態ついてたじゃないの」
「そうだっけ?」
「それで教職あきらめて、就活始めたんでしょ」
「そっちだって、教職試験落ちたじゃんか」
「はあ? あたしは教職と一般企業の両方で就活してるんだよ。教職がだめなら企業に入るから」
「大企業ばかり受けてもね」
「それはあんただってそうでしょ」
「あのさ。このまま行くとやばいからさ、ね、結婚すればお金が入ってくるよ」
「減免されるだけじゃん! あんたホントにバカ! 結婚にいくらかかると思ってるの? 式とかやるんでしょう。おまけに子供が生まれたらバカみたいにお金かかるじゃないの? バカなんだからもう」
「そんなにバカとか言わないでよ。せっかく政府がそう言ってるんだからさ」
「やだよ! お金につられて結婚とか出産とか。そんなことで決めたくない!」
「綺麗事じゃやっていけないじゃないか」
「あたしはあたしで働いて返済するから! 国の助けなんかいらないよ! それより子育てのお金とか教育費を援助してくれればいいだけなのに」
「困るなあ、結婚しないと減免されないし」
「知らないよ。あたしはいやだからね。どうしてもそうしたかったら、他のひとと結婚しなさいよ」
「そんなあ。俺はお前ひとすじなんだ」
「お前とか言わないでよ。ああいやだ、あんたと結婚して子供産んだら地獄を見そう! 家事とか育児とかぜったいやりそうもないよね」
「借金地獄よりいいじゃないか」
「あ、否定しなかった」
「おい、泣くなよ」
「泣きたくもなるわよ。返済を少しでも減らそうとして、プロポーズするあんたみたいなバカしかいないの?、この国の男って」
「日本の悪口は言うなよ。男をおとしめるような発言も」
「なに、そのネトウヨみたいな感じ。じゃああんた自身の悪口を言ってやる!」
「ひい。ヘイトだ暴力だ。返済を減らしたいだけなのに」
「あんたにはお金だけじゃなくて、いろんなものを返済してもらうから」
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