岸政彦・柴崎友香
「大阪」(河出書房新社)を読む。
社会学者の岸さんは、
地方出身で大学から大阪に住み着いた人で、
作家の柴崎さんは、大阪生まれで
三十歳を越えてから東京に移り住んだ人。
それぞれの立ち位置から見えてくる
大阪という街の変遷を見つめたリレーエッセイ。
名古屋出身の自分には、大阪はわからない。
言葉も文化も食も違うし、
本書に出てくる地名も馴染みがない。
もちろん大阪には何度か行ったことはあるが、
交通網がやたらに過密なのと、
商店街がやたらに連なっていたり、
繁華街がやたらに活気に満ちあふれているといった、
大阪の印象を語るとき、
やたらに「やたら」という副詞をつけてしまうのは、
きっと自分の大阪への理解度が
高くないということなんだろう。
そんな戯れ言はともかく、
本書が無類に面白いのは何故だろう。
地名にまったく馴染みがないのに、
柴崎さんが書く、生まれ育った大阪市大正区の
商店街の描写がどこか懐かしい。市営団地と
小さな工場が建ち並ぶかつての風景。
岸さんが書く、大阪市の南部にある
寂れた商店街で、怪しげなコンサル屋と代理店が
わけのわからない再開発で蠢くエピソードは
住民の人たちはさぞかし大変だったろうけれど、
わくわくするほど面白い。
大阪という街も、バブル前後にそれはそれは
ものすごい変化があったんだろう。
さらに阪神大震災を経験しているというのも
大阪という街に陰影を与えていることも伝わってくる。
大きな災害を経験していないとしても、
名古屋に住んでいても、東京にいたとしても、
どこか大阪に住む人たちと似通った記憶が
誰にでもあるわけで。ローカルな話題が
時代を超えて、地域差を超えて普遍性を帯びてくる。
大阪が好きな岸さんは、
ここで生まれたら良かったと呟くが、
でももし、大阪生まれだったらこの街を憎悪し、
きっと出て行っただろうと書く。
大阪と決別して、作家として東京に住む柴崎さんは、
自分が育った故郷へのなんともいえない
少しの嫌悪をダダ漏れさせながらも、愛着と愛情を隠さない。
こういうアンビバレントな感情は、
故郷を持つ人に共通だと思ったりする。
とにもかくにも面白い。
故郷があり、今は別のところに住んでいる人には
特に強くお勧めしたいというか。