イ・ウォンテ監督「悪人伝」を見る。
いま旬の俳優というと、ティモシー・シャラメ君と、
この人、マ・ドンソクなのだろう。
なんともまあ強面というか凶悪というか、
このおっさんの顔だけで映画が2時間持ちそうだけど、
本作は旬の俳優におんぶにだっこではなく、
ハッタリの効いた演出と、
熱のこもった登場人物たちが跋扈し、暴発する。
気の利いたラストも楽しい、クライムアクションの快作。
極悪なヤクザの組長が、何者かに刺され、
奇跡的に命を取り留めたことから、
その謎の殺人鬼を追う刑事と結束するストーリー。
ヤクザはとことんヤクザだし、
刑事はとことん暴力上等だし、
殺人鬼はとことんサイコパスという。
わかりやすいトライアングルでありながら、
映画はこの3人の誰にも感情移入しない。
三者三様の血みどろの闘いをただ見せられることの快感。
こんな映画、前に見たことがある。
セルジオ・レオーネ監督「続・夕陽のガンマン」(66)は、
善玉、悪玉、そして卑劣漢の3人が金貨をめぐって争う西部劇だったし、
ウォルター・ヒル監督「ザ・ドライバー」(78)も、
ドライバーと刑事、それからギャンブラーの女の3人が入り乱れる
カーアクション映画だった。2作とも傑作だったのは、
登場人物の誰にも思い入れが込められていないこと
そして、登場人物は、ガンマンとか走り屋といった、
与えられた役割をひたすら果たしていたからだろう。
ひたすらハードボイルドな職業映画と言ってもいいかもしれない。
本作「悪人伝」もその継承にある映画かな、と。
ともあれ、意表を突いた展開と、
オチの付け方のセンスに感嘆。