フランシス・フォード・コッポラ監督
「ワン・フロム・ザ・ハート」を見る。
たまに好きな映画は何ですか?
と聞かれることがあって、
そんなときは「脱獄広島殺人囚」とか
「実録外伝 大阪電撃作戦」と答えるのだけど、
じつはこの映画がいちばん好きなのかもしれない。

人工美きわまるラスベガスのセットと
めくるめく色彩のなか、ずんずん動く
ヴィットリオ・ストラーロのカメラワーク。
トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルのムードあふれる主題歌。
美男美女ではないカップルが主役という意外さで、
一世一代の役をモノにした
フレデリック・フォレストとテリー・ガー。
初公開時のポスターでは主役扱いだが、
あくまで助演で可憐なサーカス娘に扮するナタキンと、
軽すぎるプレイボーイのラウル・ジュリアに、
フォレストの親友役を
やる気無さそうに演じるハリー・ディーン・スタントンと、
俳優たちの一挙手一投足を見つめる映画でもある。
倦怠期のカップルがケンカして、
お互い刹那的な浮気をするが、
結局、元の鞘に収まるという他愛のない物語を、
ここまで贅沢に(無駄ともいう)作り込んだ映画は、
見ていて感服するやら溜息をつくやら。
公開時は駄作だとずいぶん叩かれ、大コケして
コッポラは所有していたゾーイトロープスタジオを
売却せざるを得なかったという。そんな残念な顛末を持つ映画が、
これほど愛らしくできているというのは皮肉。
今回のリプライズ版の公開で、久しぶりに見返してみて、
冴えない俳優だと思っていたフレデリック・フォレストも、
三枚目なコメディエンヌだと思っていたテリー・ガーも
どんどんカッコ良くなっていき、美しくなっていくのは
まさに映画のマジックだなあ、と感慨しきり。
美男美女じゃないとの発言は撤回したい。
今は二人とも鬼籍に入ってしまっていて、
ラウル・ジュリアもスタントンも亡くなってしばらく経つ。
心あたたまるラストシーンのあと、
なんともしみじみとしてしまったのでした。