goo blog サービス終了のお知らせ 

Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

こころからのものがここに

2024年12月16日 | 映画など
フランシス・フォード・コッポラ監督
「ワン・フロム・ザ・ハート」を見る。
たまに好きな映画は何ですか? 
と聞かれることがあって、
そんなときは「脱獄広島殺人囚」とか
「実録外伝 大阪電撃作戦」と答えるのだけど、
じつはこの映画がいちばん好きなのかもしれない。


人工美きわまるラスベガスのセットと
めくるめく色彩のなか、ずんずん動く
ヴィットリオ・ストラーロのカメラワーク。
トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルのムードあふれる主題歌。
美男美女ではないカップルが主役という意外さで、
一世一代の役をモノにした
フレデリック・フォレストとテリー・ガー。
初公開時のポスターでは主役扱いだが、
あくまで助演で可憐なサーカス娘に扮するナタキンと、
軽すぎるプレイボーイのラウル・ジュリアに、
フォレストの親友役を
やる気無さそうに演じるハリー・ディーン・スタントンと、
俳優たちの一挙手一投足を見つめる映画でもある。

倦怠期のカップルがケンカして、
お互い刹那的な浮気をするが、
結局、元の鞘に収まるという他愛のない物語を、
ここまで贅沢に(無駄ともいう)作り込んだ映画は、
見ていて感服するやら溜息をつくやら。
公開時は駄作だとずいぶん叩かれ、大コケして
コッポラは所有していたゾーイトロープスタジオを
売却せざるを得なかったという。そんな残念な顛末を持つ映画が、
これほど愛らしくできているというのは皮肉。

今回のリプライズ版の公開で、久しぶりに見返してみて、
冴えない俳優だと思っていたフレデリック・フォレストも、
三枚目なコメディエンヌだと思っていたテリー・ガーも
どんどんカッコ良くなっていき、美しくなっていくのは
まさに映画のマジックだなあ、と感慨しきり。
美男美女じゃないとの発言は撤回したい。
今は二人とも鬼籍に入ってしまっていて、
ラウル・ジュリアもスタントンも亡くなってしばらく経つ。
心あたたまるラストシーンのあと、
なんともしみじみとしてしまったのでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

チビる準備はできているか

2024年12月08日 | 映画など
パブロ・ベルヘル監督
「ロボット・ドリームズ」を見る。
じつはこの手の映画にとてつもなく弱いのです。
絶対号泣するだろうなと思ったら案の定、
身体のありとあらゆるところから
液体がドバドバと分泌(やめてほしい)しまくりだったという。
この手の映画って、ほら、アレですよ、アレ。
「シェルブールの雨傘」とか「草原の輝き」とか、
「不良少女モニカ」とか「花束みたいな恋をした」といったアレですよ。


一人(一匹)の犬が、孤独を癒やすために
友達ロボットを購入し、仲睦まじく過ごす。
二人でビーチに遊びにいった際、ロボットが故障し、
動かせなくなってしまう。仕方なく次の日に運ぼうと
手はずを整えるも、ビーチが閉鎖されていて
ロボットと会えなくなってしまう。

ここまでで冒頭から15分ぐらい。
102分の上映時間のなかで、前半も前半である。
そこからが長い。
残り90分ほどのあいだに、犬とロボットの
それぞれの生活と心象風景が描かれる。

犬は再び孤独を抱えながら、
友達を求め、さまざまな交流を試みるが、
なかなかうまくいかない。

ロボットはビーチに横たわったまま、
犬との再会を願いながら、
それがもろくも崩れ去る夢を何度も見る。

この映画は二人の絆を描きながらも、
一人でいること、孤独であることに
とことん向き合ったものだと言えるだろう。

お互い離ればなれになっているからこそ、
お互いのことが忘れられず、思いが募る。
が、時間は残酷であり、二人はそれぞれ
あらたなパートナーと出会い、それなりの幸福を求めていく。
二人は再会しないの? どうなの?
という観客の期待に応えてくれるようで、
応えてくれない苦みのあるクライマックス。
あの幸せな時は戻ってこない。かつて幸せだったんだから、
それでいいじゃないの、という諦念と少しの前向きさ。

谷川俊太郎に「あなたはそこに」という詩がある。
この映画をまさに言い当てているというか。
以下、引用。

ほんとうに出会った者に別れはこない
あなたはまだそこにいる
目をみはり私をみつめ 繰り返し私に話しかける
あなたとの思いが私を生かす
早すぎたあなたの死すら私を生かす
初めてあなたを見た日からこんなに時が過ぎた今も

絵柄も可愛らしいし、
演出も的確で、台詞がない分、
背景や音楽、犬とロボット以外のキャラクターの
造形の多様さには目を見張るというか。
ものすごい情報量なので、何度見ても新しい発見がありそうだし、
何度見ても号泣しそう。傑作です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

踊る大巴里

2024年11月23日 | 映画など
ジャック・リヴェット監督
「パリでかくれんぼ」を見る。
さまざまな境遇におかれた3人の女性を中心とした
ミュージカルコメディ。やれリヴェットだ、
ヌーヴェルヴァーグだ、という気構えで見た
頭の悪いシネフィル(自分、だ)にとっては
かなりの裏切りと、大きな感動が待っていたのでした。


長い昏睡から目覚めたルイーズ。
盗癖のあるバイク便ドライバーのニノン。
そして自分探しをしている図書館司書のイダ。
この3人の若い女性の日常生活に、
一人の中年男が絡み、ラブコメ的展開に。
人物関係が(リヴェット作品にしては珍しく)わかりやすく、
登場人物にすんなり感情移入できて飽きることがない。
いい意味で裏切られたというか。
この監督、こんな映画も撮っているんだなと。

本作は、特にドラマチックな展開はなく、
ミュージカル場面もあるにはあるけれど、
3時間近くの上映時間のあいだに
ほんの数えるほどで、とてもミュージカルとは言えない。
ふつうミュージカルというのは、気持ちが(映画が)
高揚するのだけれど、微笑ましく感じるとはいえ、
大きな感動を呼ぶものではないかなあ、と。

じゃあお前はどこで感動したのか、というと、
そりゃあ、貴方。アンナ・カリーナに決まってるじゃないですか。
当時、55歳の彼女が、
相変わらずの美しさとオーラ全開で、登場した瞬間、
「おお」と声を上げてしまいました。
主人公たちに絡む狂言回しのような酒場のマダムを演じ、
歌声まで披露してくれる大サービス。年齢を重ね、
酸いも甘いもかみ分けた彼女が、新しい世代の
背中をそっと押す役割を果たしているんじゃないか、
といったら深読みのし過ぎかな。

山田宏一や四方田犬彦の本を読んで、
アンナ・カリーナが本作に出ているのは知っていたにもかかわらず。
そして、蓮實重彦は本作をボロクソに叩いてはいるけれど、
彼女の悪口は書いていないことも
知っている自分が、なぜこれまで見ていなかったのだろう。
そんな自分をお許しください、と、スクリーンに向かって
平身低頭にならざるを得なかったのでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

少しだけ心の奥底

2024年10月27日 | 映画など
ホン・サンス監督「川沿いのホテル」を見る。
タイトル通り、漢江沿いにある
ひなびたホテルを舞台にした人間ドラマ。
ゆるくて淡々とした映画かと思いきや、
これって浅く見えて深いの? それとも
深く見えて浅いの? と感情が右往左往する。


川沿いのホテルに滞在している詩人のヨンファンは、
疎遠だった2人の息子の訪問を受ける。
父親のことをそれなりに思っている息子たちに対し、
この老詩人はどこか上の空で、
かみ合わない会話をしながら、別の部屋に泊まっている
二人の女性にのみ関心が向かっているようだ。

その女性のうちの一人は、
最近ひどい失恋をしたらしく
もう一人が慰めるためにホテルにやってきたことがわかる。
この二人もいくら親身になっても、
なぜか相手に伝わらない感じがあり、
彼女たちのコミュニケーション不全も
かなりのものだという感じがする。

つまり登場人物たちはたまらなく孤独で
うわべの優しさとか気遣いが完全にスルーされているような。
そういえばカットつなぎもなんか変だ。
いきなりいなくなった父親を探す息子たちが
ホテルの外に出たカットのあとに、
部屋にいる寡黙な父が突然映し出される。
いきなり姿を消した理由を説明するカットなどまったくなく、
ただ別の場面に移動していたという。
ちょっと不可解というか。老人の心理なんか
わかるわけないだろう、とあえて言ってるような。
人と人なんてそんなにわかり合えるわけではない、
ということなのだろうか。

小津とかエリック・ロメールみたい、
と言われればそうかもしれないけれど、
スタイルが似ているというだけで
同系統の映画の枠に収めてしまうような薄っぺらい感覚で見る
シネフィルを拒否している気がしてならない。
見ていてなんか不安になり、
虚無感で心が真っ白にさせられそうな映画で
驚くばかりだったのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この世に二人だけ

2024年10月14日 | 映画など
トッド・フィリップス監督
「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」を見る。
賛否両論らしいけど、個人的には前作より好き。
そして、ホアキン・フェニックスから
レディー・ガガへと華麗に受け継がれていく
邪悪かつ崇高なモノを感じ取る138分。


貧困に苦しみ精神を病んで、
恋人もおらず妄想のなかに入り込み、
うまくやっている連中に憎悪を膨らますジョーカーには
大いに共感できるものがあった。

ただ、それは前作の話で、
続編である今作は法廷劇とミュージカルという、
キテレツな見せ方で、ジョーカーの罪と罰を描いていく。
何人もの人を殺したジョーカーには
もちろん罪が着せられるが、自分を精神異常として
無罪を主張する弁護士を解任し、自らを弁護するジョーカー。
この男はあくまでも正気であり、自己を正当化しようと
法廷で詭弁を振りかざす姿に惚れ惚れする人も多いだろう。

しかし、自分を崇拝するハーレイ・クイン(リー)と出会い、
恋愛関係に陥ったあげく、このジョーカーは
ただの臆病な男に成り果てていく。
ジョーカーが持つ闇の深さに恋をしていたリーは、
当然のごとくジョーカーに三下り半をつけるわけで。
悪のヒーローだったジョーカーは失墜し、
自滅の道をたどっていく過程の残酷さ。

リーを演じるレディー・ガガが素晴らしい。
彼女がいたからこそミュージカルになったのだろう。
実際、「バンドワゴン」の「ザッツ・エンタテインメント」の
サビのフレーズが繰り返し引用されることからもわかるように
すべてを邪悪な笑いで覆い尽くし、
どんな悲劇もエンタテインメントと歌ってのける
彼女のファムファタールぶりに魅せられたのでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

分析より恐怖

2024年10月07日 | 映画など
黒沢清監督「Cloud」を見る。
この監督は、またしても
禍々しいものを見せてくれたというか。
全編にわたって疑問と不安と恐怖に襲われつつも、
最後の最後に感動させられてしまう不可思議さ。
菅田将暉が主演だが、じつは古川琴音から目が離せなかった、
って別に彼女のファンではないのだけど。


菅田将暉が演じる良介は転売屋だ。
映画の冒頭、町工場からワケありの製品を
安く仕入れて高値で売る。工場の女の人から
あんた、人の心はないの? 的な罵倒を浴びせられるが、
まったく動じることなく、さっさと買って、
ネットに上げ、何百万もの売り上げを得る。

そんな、およそ人間味がないというか、
何を考えているかわからない主人公を菅田将暉が演じている。
映画館にはふだん黒沢映画を見に来るような
暗い目をしたシネフィル(自分、だ)だけでなく、
菅田ファンらしきまともそうなお客さんがけっこういて、
さぞかし戸惑っているに違いないと思ったり。
とにかく感情移入できないのだ。菅田くんに。

そんな菅田くん演じる良介が、
いわれのない憎悪を集め、制裁を受ける物語であり、
そのいわれのなさがものすごく怖い。
なぜ殺したいほど憎まれるのか、転売であくどいことを
しているとはいえ、そこまでのことなのか。
頭の中は疑問符で一杯になりながらも、
良介に危機がせまってくるわけで、
わけもわからず荒川良々がライフルを持って
ぶち殺しに来る。殺される殺される。助けて。
黒沢監督はいつになく、恐怖演出がストレートだ。

でも、いちばん怖いのは
古川琴音演じる恋人の秋子だ。
この女が映画で初めて登場する場面では、
良介の部屋のベッドで死んだように伏せっていて、
そこからゾンビのようにふらっと現れる。
以後も直接物語に関わることなく、
良介との結婚をほのめかしたり、
転売仕事で雇った佐野という青年(奥平大兼)に
色目を使ったりと、この映画の流れを
遮断するかのような役割なのである。

そして最後の最後に、
そうか、これはどう見ても決して結ばれない女と男の
悲恋の物語だったんだと思い知らされる。
よくぞこんな役をやってくれたと
思わせる怪演の荒川良々をはじめ、
岡山天音も窪田正孝も奥平大兼も怖いけど、
古川琴音の生々しい恐ろしさはその比ではない。
そしてようやく、良介への憎悪は
この女が発しているものだということがわかるのだ。
なんと恐ろしく、魅力に溢れているんだろう。
って、古川琴音のファンだったかな、自分。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

More Than This

2024年10月01日 | 映画など
クリス・クリストファーソン追悼ということで、
少し前、ずいぶん久しぶりに見て、書き途中だった
「アリスの恋」についてつらつらと。


マーティン・スコセッシ監督「アリスの恋」を見る。
遠い遠い昔。テレビでやっていたのを見たきりで、
いい映画だったという記憶がうっすらとあるのだけど、
その認識は間違っていた。いい映画どころか、
とんでもない傑作ではないか。
そんな映画を35ミリで見られるとは
ありがとう早稲田松竹。



本作は日本で初めて公開されたスコセッシ作品であり、
ほとんどの日本人は「明日に処刑を…」も
「ミーンストリート」も見ていなかったはず。
監督の名ではなく、作品自体が評価されたようで、
実際、主演のエレン・バーンスティンが
オスカー主演賞を獲ったし、キネ旬ではベストテン3位。
かなり高い評価を受けたのに、
なぜか忘れられた映画になっている感がある。

才気走ったカット割りやカメラワーク、
Tレックスやレオン・ラッセルなどの
ロックミュージックの使い方など、
スコセッシらしい演出が見受けられるけれど、
これはバーンスティンの映画であり、
女性のための映画であることがわかる。
今見ると、シスターフッド的な側面も強い。

DV夫と死に別れ、
生意気な息子と共に、
仕事を探しながら旅をする主人公。
どうしてもDV男に惹かれてしまう性分もありつつ、
比較的まともな男である
(というか、本作に出ている男の中で、いちばん真っ当な)、
クリス・クリストファーソンの愛を受け入れる物語で、
最後の最後にほっこりして終わる。

本作のクリストファーソンは、
けっこうマッチョではあるけれど、
少なくともバーンスティンを尊重する姿勢はあり、
対話を重んじる傾向も感じられて好感が持てる。
50年前の映画とは思えない、かなり現代的で理想的な
男性像かもしれないと思ったりする。

追悼クリス・クリストファーソン。
本作は彼の代表作とは言えないかもしれないが、
いまだテーマは古びていないことがわかるし、
あらためて再評価するべきだと思うわけです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロックがぼくを待っててくれる

2024年09月28日 | 映画など
奥山大史監督「ぼくのお日さま」を見る。
今年の2月にハンバートハンバートのライブに行ったとき、
この映画の音楽と主題歌を担当しているという
アナウンスがあって、へえそうなんだ、
公開されたらまあ見ようかなと。
そんな割と軽い気持ちでいて、実際見たら、
いやはや、これは傑作だと感じ入ってしまったという。


場所は特定されないが、
どこかの北国が舞台で冬は雪が降り積もる街。
冬のあいだホッケーのチームで練習していた
小学生のタクヤは、リンクで華麗な舞をしていた
中学生のさくらの姿に憧れ、池松くん演じる
荒川コーチの指導のもと、ペアでアイスダンスの練習を始める。

自然光だけで映し出されたスケートリンクに、
ガリガリッ、ザザッというスケート靴の音が鳴り響く。
だんだん上達していくタクヤをさくらが受ける形で、
ふたりして見事な滑りを見せるショットの美しさ。
それを見守るコーチのあたたかな目。三人揃って
カップ麺をすする場面が挿入される小気味良さ。

ゾンビーズの「Going Out of My Head」が流れるなか、
氷の張った池で戯れる三人の様子などは、
なんだかとても懐かしい光景というか。
ずっといつまでも見ていたいと思わせるほどだ。

しかし、あたたかなトーンはいつまでも続かず、
ちょっとした誤解というか思い込みが
三人のあいだに亀裂が入り、切なさが募る結末となるわけで。
それまで雪と氷ばかりのなか、あたたかな感じがあったのだけど、
急に冷たさが募り、自然光でキレイだなと思っていた画面が
暗く陰鬱な感じをまとっていく。
それはそうとして、あのときのタクヤとさくらは
とっても輝いていたよね。それはホントだよね。
それでいいんじゃないの。と諦観とともに納得する。

タクヤには吃音があり、
自分の言いたいことがなかなか口に出せない。
最後の最後にそれは吃音なの、それとも
ほんとに口に出せない何かがあるの?
と問いかけたくなるエンディング。
なんともお見事であり、作り手の「どう?いい終わり方だよね」という
意識を強く感じたりもするけれど、傑作であることには変わりはない。
で、ハンバートハンバートの主題歌も滲みたわけで、
エンドロールのデザインも素晴らしい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

その死にざまを見よ

2024年09月23日 | 映画など
藤田敏八監督「修羅雪姫 怨み恋歌」を見る。
おお。これは反権力映画の傑作ではないか。
梶芽衣子はもとより、原田芳雄に伊丹十三、
吉行和子、岸田森、安部徹、さらには南原宏治に山本麟一と
70年代日本映画が誇る鉄壁のキャスト陣を堪能する。


修羅雪姫とは
無実の罪で惨殺された両親の怨念を背負った
鹿島雪(梶芽衣子)の通り名である。
蛇の目傘に仕込んだ刀で俗にまみれた連中を叩っ切るのだ。

第1作で両親の仇を取った雪は、
警察に捕まり死刑判決を受けるが、
特高の親玉(岸田森)に助けられる。
その代わりにアナーキスト(伊丹十三)を殺し、
彼が持つ政府の機密書類を奪うことを強いられる。

伊丹十三演じるアナーキストは、
幸徳秋水あたりをモデルにしているんだろうか。
ともかく時の明治政府の腐敗ぶりを
暴露しようとしているインテリで、いかにも伊丹らしい役柄。

その弟で貧民街の医者をしているのが原田芳雄。
この人が輝いていたのは
やっぱり70年代だなあと、最近とみに思う。
その野性味と色気、佇まいのカッコ良さと
なんといっても声の魅力である。

物語に戻ると、
政府のやり口はそれはそれは極悪非道で、
貧民どもなどいくら死んでも構わん。
それより儂らの金と名誉が大事に決まっとろうが。
そんな悪のオーラを撒き散らしている奴らを
皆殺しにする梶芽衣子と瀕死状態の原田芳雄。

梶芽衣子はたとえば
「緋牡丹博徒」のお竜(藤順子)のような
様式美あふれる殺陣とは異なり、
どこか危うい不安定さがあるというか、
虚無感を漂わせながら悪党どもを殺しまくるわけで。
原田芳雄はといえば、この人には型などなく、
情念だけを背負いながら、ぐにゃぐにゃと
よろめきながら敵に立ち向かっていく。

靖国神社のような英霊たちが眠る境内で、
血みどろになりながら権力の犬どもをぶち殺していく。
これが日本という国なんだという、
あからさまなカメラワークが最後の最後に示されて、
なんという反権力な。そしてものすごい傑作だと
確信せざるを得ないラストだったのです。

ともあれ、どなたかシネフィルの人、
原田芳雄という俳優の身体性について論じてくれませんかね。
とか思いつつ、そうだ山根貞男の「活劇の行方」(草思社)が
あったとひもといてみたら、澤田幸弘監督の
「反逆のメロディー」における原田芳雄を
「跳梁」というキーワードで論じていた。
その中味については長くなるのでまたの機会に。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

次にさよならを言うまで

2024年09月17日 | 映画など
マイケル・トゥーリン監督
「セッション・マン ニッキー・ホプキンス」を見る。
音楽ドキュメンタリーも多種多様なものが
公開されていて、追いかけるのも大変だけど、
ニッキー・ホプキンスのドキュメントがあるなんて、
それは何はなくとも見るだろう、とロック貧乏は映画館に走る。


ストーンズの「シーズ・ア・レインボウ」の
イントロのバロック調のピアノを弾いてる人、
と言ったらわかるだろうか。
ほかにもジョンの「ジェラス・ガイ」や
ジョージの「ギヴ・ミー・ラヴ」など、
なんて美しくて情緒的なピアノを弾くんだろうと思うわけで。
彼がいたおかげで、ビートルズやストーンズはもとより
ロックの歴史はずいぶん豊かになったと確信する。

クラシックやジャズに造詣が深く、
ほんとに天才だったことがわかる半生。
クローン病という難病に悩まされたことと、
我の強いロックスターたちと比べると線の細さもあって、
知る人ぞ知るミュージシャンなのだろうけど、
本作をきっかけにもっと知られてほしい人だ。
証言者として登場するミックやキース、ビル・ワイマンらの
リクペクトぶりは半端なく、ベンモント・テンチなどの
後進のキーボーディストたちへの影響も計り知れない。

ジョンの「イマジン」で大きな貢献をしたにもかかわらず、
肝心の「イマジン」のピアノはジョン自身が弾いたとか、
ウイングスに入ろうとしたけれど、キーボードは
リンダだったから加入は叶わなかったとか。
まさにセッションマンなこの人らしいというか、裏話も興味深い。

アート・ガーファンクルとも懇意にしていたらしく、
ツアーも一緒に行っていたことが語られる。
実は88年にガーファンクルのライブに行ったことがあるのだけど、
あのときのピアノはホプキンスだったのかな。
当時はこの人のことを意識していなかったので、
もし本人が帯同していたとしたら、ナマで聞いたことになる。
誰か知っている人がいたら、教えてくださいな。
あのときの「明日に架ける橋」のピアノは
ホプキンスだったんでしょうか。

ともあれ、50歳での逝去は早すぎる。
彼のソロアルバム「夢見る人」を聞こうと思ったけど、
家のCD棚を探しても見つからない。
おかしいな、あるはずなのに。いつもそうだ。
なので、ストーンズ「Till The Next Goodbye」の
公式プロモで我慢。ホプキンスは写ってないけど。
アコギの音が印象的なるも、
実はホプキンスのピアノが主役なのでは、
と思わせるほどの名演であり名曲だと思います。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする