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Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

歌って踊ってほしいひと

2021年07月30日 | 映画など
内山雄人監督「パンケーキを毒見する」を見る。
毒味、じゃなくて毒見。
それにしても、菅さん主演の映画ができるとは思わなかった。
とはいえ、菅さんが演技したり、
歌ったり踊ったりするわけではなく(当たり前だ)、
既存のニュースや国会中継などの映像を駆使しながら、
菅義偉という人物を浮き彫りにしようとするドキュメンタリー。
いや、バラエティーとうたっているから、
そのような感覚で見ると楽しめるというか。


村上誠一郎、石破茂、江田憲司といった国会議員や
元官僚の前川喜平、古賀茂明といった人たちが
管さんについて語っているのを聞いていると、
こんなワードが浮き上がってくる。

朴訥。
庶民派。
冷徹。
利にさとい。
成り上がり。
博打打ち。
権力大好き。

なるほど、そうなのか。と管さんのキャラクターが
少しずつわかってはくるのだけれど、
結局のところ、なぜいま管さんが現在のような
政治家になっていったのかよくわからない。
掘り下げが足らないのか、
それともそもそも掘り下げるような素材がないのか。
そのあたりもわからないのだけど。

この映画オリジナルで管さんの肉声が聞けるわけではないので、
結局のところ映画で語られるのは推測でしかない。
ただ、少なくとも言えるのは、
この人をトップに据えたままにしておくのは、
あんまりよろしくない、ということだと思う。

でも結果的に、自分たち国民が管さんがトップでいい、
と認めているわけで、それを変えようと思ったら
ちゃんと声を上げ、選挙に行くしかないのだろう。
この映画の作り手の目的は、まさにそこにある。

管さんって映画の主役を張るには少し弱いというか。
強烈なキャラクター性に欠けると感じるのはなぜだろう。
いや、まあ。政治家に特別な個性など求めてはいないし、
ちゃんとやることをやってくれればいいのだけど、
もっと極悪で業の深い人だったらスクリーンで栄えるのになあ、と。

本作は「新聞記者」や「宮本から君へ」
を手掛けた河村光庸プロデューサーによるもの。
「宮本から君へ」が文化庁より
助成金交付を不当に取り消された事件も記憶に新しいけれど、
めげずにお上が眉をひそめるような映画を
公開する心意気は大いに応援したいところ。

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行き止まりの先

2021年07月27日 | 映画など
日向史有監督「東京クルド」を見る。
東京近郊に住むクルドの人は1500人以上だという。
その中で少なくない人たちが国に難民申請をしているが、
まだ一人も認定されていないらしい。
本作は、日本に住むオザンとラマザンというクルドの青年を通して
日本という国が浮かび上がってくるドキュメンタリーだ。


映画の冒頭、この二人がボーリングに興じるところ。
屈託のない普通の若者に見える。
夢もやりたいこともあるみたいだから、
そのまま頑張れ、と観客の多くは思うだろう。

彼らは終始、穏やかで
でも、いつまで経っても仮放免のままで。
難民として認められず、就労すらできない現状に
薄ら笑いを浮かべ、カメラに向かって
「どうしたらいいんでしょう」と嘆く場面に
どうにもならない絶望感がにじみ出る。

後半、二人が将来について話しながら、
川の中州を歩く場面が象徴的で、
この映画の作り手の意思と意図を強く感じる。
中州は行き止まりになっていて、
そこから先に進めないのだ。どん詰まり。

この国には、人権がないがしろにされている人々がいる。
かたや、国をあげての大イベントが開かれている。
多様性が大いにうたわれた国立競技場から
さほど遠くない映画館で本作を見て、多様性を感じております。

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奈落の底でしみじみと

2021年07月26日 | 映画など
スタンリー・キューブリック監督「シャイニング」を見る。
何を今さら、という気はするけれど、
やっぱり、いい。震えるほど素晴らしい。


冒頭から圧倒的なカメラワークで見せる。
山並みの道路を走る車を空からゆっくり追う俯瞰ショット。
当時はドローンなどなかったはずなのに、
よくもまあこれほど美しく
山をなめるようなショットが撮れるものだなあ、と。

ジャック・ニコルソンの狂気と
シェリー・デュバルの恐怖の表情。
この二人が見せる、笑い一歩手前の顔芸。
双子の姉妹。エレベーターからあふれる血の海のイメージ。
美しくも冷え切ったホテルの内部を、少年が三輪車で
ぐるぐると回る移動ショットに酔う。
絶望的なほどしんしんと降る雪。
クライマックスの迷路でのチェイス。すべてが素晴らしい。

初公開のときは高校生だった。ひたすら怖かった。
キューブリックのハッタリの効いた演出に、
10代のガキンチョはすっかり騙されたのです。
大人になってビデオで見直した。
そうか親子の戦いの映画なのか、と。
そしてくたびれたおっさんになった今、心の弱いDV男が
幽霊に取り憑かれてしまう、なんとも悲しい映画なんだなあと。
ホラーなのにしみじみしながら見る自分がいたのです。
偶然にも、今日はキューブリックの誕生日で、
健在なら93歳なんだな、としみじみさがより募ったという。

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朗らかなトライアングル

2021年07月12日 | 映画など
ホウ・シャオシェン監督「風が踊る」を見る。
監督40周年記念の特集上映で、
これまで未公開だった本作。
日本映画で言うと、60年代ぐらいの
明朗快活な松竹映画の肌触りがある。
東宝でも大映でもなく、松竹。
番匠監督の花嫁シリーズのような、
って力説するほどのものではないけれど、
台湾映画はやっぱり、いい。


カメラマンのシンホイは、
CMの撮影中に事故で視力を失った青年チンタイに出会う。
彼女にはローザイというCMディレクターの恋人がいるのだけど、
朴訥なチンタイにだんだん心を引かれていく。
かといって、彼との恋愛にのめり込むわけでもなく、
軽やかにローザイとも仲良くする。でもドロドロの三角関係など皆無。

チンタイが彼女の実家を訪ねる展開が
これまたのんびりしていて、心地良い。
二人は他愛のない会話をしたり、
子どもたちと遊んだりするだけなのだ。

結局彼女はどっちの男を選ぶんだろう、と思いつつ、
これまた軽やかに裏切られる結末とともに、
ゆるゆるの演出とレトロな台湾歌謡に酔いしれる。
後年、ピリピリした映画をつくり続ける
ホウ監督とは思えない可愛らしさだったのです。


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急がば回れとフィルムが

2021年07月02日 | 映画など
チェン・ユーシュン監督「1秒先の彼女」を見る。
楽しいなあ。大いに笑って、ドキドキして
ちょっと泣けたりもする、
ギミックの効いたラブコメディの快作でしょう。
「熱帯魚」「ラブ・ゴー・ゴー」以来、
ご無沙汰だったこの監督、
相変わらず面白い映画を見せてくれて、
やさぐれた心を大いにほぐしてくれたのでした。


おそらく、映画史上
もっともせっかちなヒロインではないだろうか。

郵便局で働くシャオチーは、街で出会った
イケメンのダンス講師と七夕バレンタインの日にデートの約束をするが、
気がついたときには、その日は過ぎ去っていて、
大切な日の記憶がまったくないことに驚く。
失った1日を取り戻そうと、タイムリープの謎解きに奔走。
そのバタバタぶりが笑わせてくれて、
そんな彼女に、いつも郵便局の客としてやってくる
ちょっとワンテンポ遅れたバス運転手の青年が絡んできて…。

時間が止まった世界で、ヒロインを本当の意味で
想い続ける人たちの姿がいとおしい。
異次元の世界となった台北の街を
バスが駆け抜け、やがて海岸にたどり着くときのリリシズム。

映画は時間の芸術だと言うけれど、
縦横無尽に時間をあやつり、観客をほっこりさせる
チェン・ユーシュン監督、お見事だなあ。
タランティーノがファンタジックなラブコメを取ったら、
きっとこんな映画になるんだろう、
と書いたらネタバレになるのかな。

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桃色の家のなか

2021年06月27日 | 映画など
ダニエル・ロアー監督
「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」を見る。
この人たちのドキュメンタリーと言えば
スコセッシの「ラスト・ワルツ」にとどめを刺すわけで、
あれ以上の記録はないだろうと
思っていたところに本作の公開。


ロビー・ロバートソンの視点で語られる
ザ・バンドの歩みとその終焉。
そうか彼の目からは、他のメンバーはこう見えたのか、と。
特にリヴォン・ヘルムに対しての視線。
ソングライターとして、家庭人としてストイックな生き方をしていた
ロビーとは反対に、ドラッグに蝕まれていき、
その豊かな才能を潰していくリヴォンの姿が多く語られる。
同じようにドラッグとアルコールに溺れていった
リチャード・マニュエルへの眼差しは温かく、
リック・ダンコやガース・ハドソンへの言及はほとんどない。
ただ一人、リヴォンに対しては、
ロビーが厳しい表情をするところがあったりして、
ふたりの間に相当な確執があったことは、想像に難くない。

ザ・バンドは「ラスト・ワルツ」のあと解散となり、
その後、何度か再結成したけれど、
ロビーが加わることはなかったわけで、
どうしても許し合えないものがあったのだろう。
本作は、生前のリヴォンとはついに和解できなかった
ロビーの贖罪の意味も込められているのかもしれない。
亡くなってからでは遅い、というツッコミはしないでおきましょう。

見たかったけど、見なくてもよかったような。
そんな複雑な思いがよぎるドキュメンタリーであり、
でもザ・バンドの曲はやっぱり極上だよなあ、と思ったりもする。
インタビューで登場するエリック・クラプトンが
「ザ・バンドに入れてくれ」と、彼らに直談判したらしく、
しかも「リズムギターでいいから」と言ったという
エピソードなどは、どんだけ入りたかったんだよ、
と、微笑ましかったのだけど。

個人的にザ・バンドのメンバーで気になるのは、
リチャード・マニュエルかな、と。
非業の死を遂げた人、ということも大きいのだろう、
「怒りの涙」とか「悲しきスージー」
ディランの「アイ・シャル・ビー・リリースト」など、
彼の魂が突き上がるような歌唱がふんだんに聞ける
「ミュージック・フロム・ビック・ピンク」は
いつも聞き入ってしまうのです。
彼のドキュメント、誰か作ってくださいな。

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喜びと慈悲

2021年06月22日 | 映画など
シドニー・ポラック監督
「アメイジング・グレイス  アレサ・フランクリン」を見る。
おお。劇場に倍音が響き渡る。歌と演奏のとんでもない力。


アレサ・フランクリン。このとき29歳。
偉大すぎる歌手であるのは、今さら言うことではないし、
彼女のファンだったわけでもないので、
1972年にLAのバプティスト教会で開かれたライブが
いかに伝説的だったかという情報にも疎い。

でも、その声量、歌に込められた思い。
神を讃え、人々に慈悲と高揚感をもたらす歌の数々。

どうしてこの人の歌を聴いてこなかったのだろう。
という後悔がひしひしと。
U2やディランといった人たち経由で、
ゴスペルの凄さはなんとなく
わかっていたつもりだった自分は愚の骨頂。
彼女の歌で、心が洗われるとともに、
これまでの汚れちまった自分を悔い改めるのでした。


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私は貝になりたい

2021年06月13日 | 映画など
フランシス・リー監督「アンモナイトの目覚め」を見る。
どんな映画なのか、ほとんど前知識がないまま
てっきりアンモナイトの化石をめぐるミステリーだと
思い込んでいた自分が恥ずかしい。
ポスターを見れば、
そんな映画じゃないことぐらいわかるだろうに。


主人公は、ケイト・ウィンストレット演じる、
考古学者のメアリー・アニング。実在の人物だ。
古代生物の化石を何体も発掘した優秀な学者なのだけれど、
時代は19世紀の英国。女性であることを理由に
ロンドンの学会から冷遇され、
海沿いの街で化石の土産物屋を営みながら細々と生きている。

海辺で石を観察しながら、地道に化石を見つけていく
メアリーは、世間をシャットアウトし、
まるで化石のように自分の殻に閉じこもる日々。
そんな彼女の前に現れたのが、シアーシャ・ローナン演じる
ロンドンの貴族階級の人妻シャーロット。

うつ病で療養に来たシャーロットを
看病することになったメアリー。
シャーロットが回復するにつれて、ふたりは惹かれ合っていく。
メアリーが自分を抑制すればするほど
ふたりがむさぼるように求め合うシーンが熱を帯びる。

観客はそのシーンを見つめ、いろんなことを思えばいい。
自分の人生になぞらえてもいいし。
ジェンダーとか時代性とか、
ちょっとアカデミックな考察をしても、いい。
あるいはほとばしる官能性に圧倒されるのも、ありだ。

似た映画を思い出した。
ケイト・ブランシェットと
当時若手のルーニー・マーラの
禁じられた恋愛を描いた「キャロル」だ。
単なる偶然だろうけど、こちらのケイトさんも
相手役に若手女優として人気上昇中の
シアーシャ・ローナンと恋のさや当てをする映画に
出ているのが興味深い。どこかの名画座で
2本立てでやってくれないかな。ケイト禁断の愛2本立て。



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海が呼んでいる

2021年06月12日 | 映画など
斉藤耕一監督「約束」を見る。
言わずとしれた岸惠子とショーケン主演の名作だけれど、
実はこれまで未見。
シネフィルってどんな映画でも見ているようで、
大して見ていないのです。
それはともかく、
人物は風景の一部であるという作り手の確信のもと、
決して結ばれることのない女と男の宿命が描かれ、
なんという名作なのだと、初公開から49年も経ったあとに
ようやく思い知ったのです。


岸惠子演じる女は受刑中の身であり、
警察の保護下に置かれつつ、亡くなった母の墓参りに行く。
列車で偶然乗り合わせたショーケン演じる青年のまっすぐな心根に
惹かれつつも、自分が犯した罪が足かせとなる。
彼女の悶々とした心が、ひなびた港町の風景とシンクロする。

なんとも言えない侘しさが漂ってくるのは、
70年代という時代の特異性なのだろうか。
いわゆるアウトローや負け犬が
映画のヒーローやヒロインだった時代。

ショーケン可愛いなあ。
カッコいい、というより可愛い。
岸惠子ならずともイチコロでしょう。
でも映画はそう素直に転がることはないのでした。


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パンデミックは心のなか

2021年05月31日 | 映画など
石井裕也監督「茜色に焼かれる」を見る。
コロナ禍となり、やれテレワークだ、
ステイホームだ、時短営業だと騒がれるなか、
それまでギリギリで生きてきた
非正規雇用の人たちやひとり親家庭の人たちは、
さらに打撃を受け、格差と貧困に苛まれている。
この映画の作り手たちは、
そうした状況を描かずにはいられなかったのだろう。
その熱量とメッセージに圧倒される144分。


尾野真千子扮する良子はシングルマザー。
思春期の息子を抱え、公団住宅に住む。
ホームセンターのバートと風俗店を掛け持ちしながら
「まあ、頑張りましょ」と呟く。

「パート時給900円」「飲み代5000円」といった、
お金の収支が字幕で映し出される。
経済にがんじがらめになりながらも
ギリギリのところで自分自身であろうとする。
風俗の仕事をして、息子になじられても、
自分の夫を交通事故で殺した
上級国民からの保証金は受け取らない。
ろくでなしだった夫を愛し、
その夫がよそでつくった子どもに送金する律儀さ。
端から見たら、無意味な意地を張っているに過ぎないけれど、
そうすることが彼女であるのだろう。

意味のわからない意地を張ることってある。
自分の身近でも、そういう人がいる。
そしてそうした人たちは、総じていい人たちだと思う。

悲惨な境遇に置かれながらも、
彼女とその息子は立ち向かいながら、
ささやかな勝利を得るクライマックスの小気味よさ。

石井裕也監督って、
「川の底からこんにちは」「あぜ道のダンディ」など
オフビートなコメディが得意な人だと思っていたけれど、
「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」あたりから、
シリアスでストレートな作風に変わっている。
ただ、一貫して弱者とか社会に埋没している人たちを
すくい上げた映画をつくっている。次作も楽しみ。


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