喫茶C店・店内風景
江嵜企画代表・Ken
近くの喫茶C店にほぼ日参している。時間帯はまちまちだがランチが多い。カウンターをスケッチしていた時、ある高齢の男性が店に入ってきた。
マスターとのやり取りを聞いていると初顔らしい。いきなり「瓶ビールある?」と聞いた。「缶ビールなら大がありますが」と答えた。「缶ビールでええよ」と客人は応じた。
客人は窓際に座った。筋向いにたまたま座っていた老齢の女性と客人との対話が聞くとはなしに聞えた。男性は今年80歳。25歳から鳶(トビ)をしていた。スポーつ新聞の下隅に載っていた広告を見て鳶職になった。60歳の定年のときに親方から「後2年延ばしたら年金が多めにもらえるから」というのでその分延ばしたあと辞めた。
トビとは鳶職のことである。平たく言えば建設現場で高所で作業をする人のことである。「辞めてからは、親方に頼まれ、「下」で若いもんにいろいろ教えていた。「上」にはいかんかった。それも70でやめた。」と話した。「2年前、嫁はんが79の時になくした。今一人暮らしをしている」とご婦人に、聞かれてもいないのに口にした。
ご婦人が「それは、お寂しいことで。。。」と応じた。「おらんようになって3月ほどは寂しかったかな。。。。今は寂しいこと、あらへん。毎日、仏さんにご飯とお茶供えてる。生きてると思てるからな。」と話した。
しばらく二人の客人の間に静寂が流れたような気がする。こういう話が今どき聞けるとは、今日はラッキーな日だなと正直思った。それで当欄でも番外で書いてみたいと思った次第である。
「15階、20階の仕事をやっていた。今は、40階、50階もあるでえ。山登りを若い時からやっていたので高いとこは慣れてた。同じ職場で、ようけ、落ちて死によった。怖いと思たらたら足が動かんようになるんや。簡単に落ちるんや。「下」に人がいると思たら落ちる。蟻やと思て仕事してると何ともないんや。怖いと脳が判断しよるから落ちるんや。」と話した。
「脳が判断すると落ちるんですか。。」とご婦人が応じた。それには答えず「わし喋るん好きなんや」と続けた。マスターが奥さんに「ビール追加、聞いてみて」と促した。「頼んます。」と客人は2缶目をそばに置いた。
「アルコールが入ると、よけい、喋りになるんや。ビールもええけど、焼酎も好きなんや。夏は水割り飲む。冬はお湯割りや。15度くらいは楽に行けるでえ。日本酒はあかんのや。日本酒を飲むと蕁麻疹が出よる。アレルギーなんや。」と客人は饒舌に喋った。
本心、続きを聞いてみたかった。所用があり店を出た。(了)