EWACHOR演奏会風景
画 江嵜 健一郎
第62回大阪府立大学混声合唱団EWA CHOR定期演奏会が1月17日(日)午後5時30分から「たかいし市民文化会館ホール」大ホールで開かれ楽しみにして出かけた。たまたま今年最初の猪熊佳子日本画教室が同日午前10時半から日本橋であり、教室の後、腹ごしらえして、南海本線、「難波」乗車、余裕をもって会場最寄り駅「高石」に着いた。
チケットは予約制。コロナ感染対策として、参加者の事後追跡のために氏名、自宅電話番号が確認条件、入場前の検温、そしてホールでは各席左右の席を避けるよう手配されていた。
会場で配布された案内チラシには「絶望からー」という文字と先に光が見えたことを示す情景を写した写真が目に飛び込んだ。同じく配布パンフレットに部活顧問、大阪府立大学大学院理学系研究科,西野貴子氏は「新型コロナウイルス蔓延で、経験の共有の場である場が閉じられ、特に、多人数で呼気を発する合唱は危険視され、大学によってはいまだに活動再開を認めていないところもある。そのような中、団員たちは厳しい決断を迫られた。そんな苦境の中、ステージを選んだ団員の立ち姿,まっすぐな視線、今だけの奏でられる音を、本日の演奏会で、暖かく受け止めていただければありがたい」と書いておられた。
演奏会会場はいつもと違う雰囲気だった。一言で言えば、それは、息をひそめる感じだった。時節柄、一人一人が、私語を控えたせいもあるかもしれない。演奏会は部歌のあと第一ステージ、混声合唱曲集「光と風をつれて」、詩、工藤直子、作曲、木下牧子,指揮、前田悠貴、客演伴奏、木下亜子から始まった。ステージに全員がマスクをつけて登場した。
清涼感溢れるメロディーが、親しみのある言葉を集めた詩と調和して心の中に染み込むように伝わった。詩の中に「あいたくて」というくだりがあった。配布パンフレットに添えられた言葉に「コロナで全く人に会えないときは寂しい。そんな時近くに話し相手がいると、少し楽になる」との言葉を見つけた。
第二ステージはアメリカの作曲家、エリック・ウッテカー作品の中から「夜」をテーマにしてアラカルトにした4曲「TheSeal Lullaby」、「iwalked the boulevard」、「WaterNight」、「GoodnightMoon」が指揮、杉崎皓子、客員伴奏、木下亜子のもと演奏された。魂レベルというか、軽妙ながらそれでいて深遠な心豊かにしてくれる曲だった。
この日は演劇はなし。トリとして第3ステージは無伴奏混声合唱のための「After…」。詩、谷川俊太郎、作曲、信長貴富、客演指揮、当間修一のもと演奏された。団員全員が思いの丈を込めて歌った熱演に会場から長い拍手が続いた。
配布されたパンフレットに当間修一氏は「新型コロナウイルス感染を思うとき、ウイルスの発生源や正体は今だ解明されていないが、感染対策として「人」の問題として捉えておかないと「人災」となってしまう」「人が集まることを抑えた。練習が滞り、恒例のスケジュールもこなすことが出来なかった。音楽は人間が生きることと密接に関わっている。人間らしく生きよう。ただ閉じこもるだけでない。否定的、消極的にだけでなく。悩み、悲しみ、励まし、喜び、生きる」を謳歌する。それが私のメッセージです。EWA CHORは演奏会を開くことを決断した。」と書かれた。
演奏のあと当間修一氏は一言申し上げたいと会場に向かい「団員は演奏会を開くことを選んだ。みんなが心を一つにして真正面から取り組めばコロナを克服できることを示した。本当によく頑張ってくれました」と挨拶された。
お開きの際、会場に感謝を伝える代表の方の挨拶では、感極まって涙された場面が印象に残った。全てをやり切った。よくやったと自分自身を褒める涙だったに違いない。爽やかな気持ちになって家路についた。
コロナ感染はいつ終わるとも知れぬ勢いで世界中で拡大している。感染症の対策は「正しく怖れることだ」と寺田虎彦は100年前のスペイン風邪の際に喝破し書き残している。風邪は万病の元。コロナ騒動をなんとしてでも乗り切りたい。(了)