晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『少年は残酷な弓を射る』 80点

2012-07-09 15:22:36 |  (欧州・アジア他) 2010~15

少年は残酷な弓を射る

2011年/イギリス

憎悪と愛情の違いは両極ではない

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

映画化は難しいと言われた英国オレンジ賞(女流作家の最高賞)を受賞したライオネル・シュライヴァーのベストセラーをリン・ラムジー監督、ティルダ・スウィントン主演で実現。製作は2人にスティーヴン・ソダーバークが加わった意欲作。
いかにもヤツレきったエヴァ(T・スウィントン)の住まいには赤いペンキが掛けられ車の窓にもベッタリとついている。小さな旅行代理店で面接を受け雇われるが社員達の冷たい視線が痛い。おまけに通りすがりの初老の女性から顔を殴られてもじっと我慢するエヴァ。
こんな出だしで、<これは何が起こったのだろう>と観客を惹きつけたまま物語は始まる。どうやら息子(エズラ・ミラー)が事件を起こして刑務所に入っていたらしい。面会はお互い目を合わせることもなく殆ど会話にならない。
物語はエヴァの視点で現在と過去をカットバックさせながら母と息子の関わりを紐解いて行く。旅行作家として世界中を自由奔放に飛び廻っていたエヴァ。夫・フランクリン(ジョン・C・ライリー)はエヴァを追いかけてきて結ばれるが、勢いで結婚し予期せぬ時期に妊娠。心の奥にもっと自由に仕事を続けたいという想いを抱えながら息子・ケヴィンを生む。無邪気に喜ぶフランクリンをよそに漠然と不安を予感させるエヴァの表情が対照的。
息子が生まれる前の2人の幸せな時代からケヴィン誕生、NY郊外の瀟洒な住まいでの3歳・6歳・そしてあと3日で16歳になる冒頭シーンをシャッフルしながら18歳になろうとするエンディングまで。ペンキ・トマト祭り・イチゴジャム・ケヴィンの唇など絶えず血を想わせる赤が刺激的な映像。鬼気迫るT・スタントンの演技に魅了されながら3人が演じたケヴィンの心情を想像することを余儀なくされる。ケヴィンを演じた3人の上手さにもびっくりで、妹・セリアも可愛い。
ネタバレ違反すれすれの邦題だが、生まれたときから育児ノイローゼになるほど泣きやまないケヴィン。エヴァを困らせながら唯一6歳のときロビン・フッドの読み聞かせで母に甘えた心の奥を題材にしたしたともいえる。愛情表現が上手く出来なかった似た者同士の母と息子。憎悪と愛情はまるっきり両極にあるものではなく案外近くに存在するのかもしれないが<本気で抱きしめて欲しかっただけ>ではこのドラマはスッキリしない。世の中の不可解な常軌を逸した猟奇的犯罪が総て原因究明されるものではないが、もう少し救いが欲しかった。
楽天的で物事を深く考えないフランクリン。そもそも、服装からみても性格が違う2人には本当の会話がないまま16年一緒に暮らしていたことが窺える。自分がフランクリンだったらどうするだろうか?観終わって<家族>について改めて考えさせられた。